第2話 戦う理由



鬼の遺体処理、亡くなった人間の遺族への連絡、怪我人を病院に搬送といろいろなことを済ませてから、朝陽と理央は、フィオーレのアジトに連れて来られた。

フィオーレのアジトは、市街地から離れた工場地帯にあり、大きさは工場にしか見えないし、中は機械と出荷用のダンボールが積み重なっているため、カモフラージュが凄いなと朝陽は思いながら、理央と一緒に勇利に連れられ、奥にあるボスである桜子の待つ部屋へと向かった。

錆のついた扉の前で、勇利がノックをし、少し間を置いてから扉を開ける。

「勇利おかえりなさい。そして、いらっしゃい。君塚理央くん、野薔薇朝陽くん」

桜色の長髪をなびかせ、見た目20代くらいの女は笑う。

「ただいま戻りました。2人共、こちらボスの華巻桜子。43歳」

2人は、勇利が言った年齢に驚き、桜子を2度見する。

「皆、同じ反応をするのよね。そう、一応伝えなきゃね。朝陽くん、能力には代償がある。私は長年使い続けた代償か、容姿が変わらなくなってしまった。これに関しては例外もいるけどね」

「……例外とは?」

「どうやら人間だけのようだ。サスケは犬だから問題ない。椿という鬼のハーフがいる。その子も平気みたいだ。あと、一度鬼に食われて体の一部が死んだ別の人間だからか、鈴歩も問題ない」

「あぁ、だから。鈴歩さん、自分のことをほなみと呼んだんですね。人が変わったように。あと、その言い方ですと、勇利さんが能力をあまり使おうとしない理由がわかったかもしれないです」

勇利は、苦笑いをして朝陽を見つめて言う。

「私の場合、少しずつ過去の記憶が古い順から無くなります。だから…死んでしまった両親のことを覚えていません。あの日、何か大事な忘れてはいけない、脅威があった筈なのに思い出せなくて。だから、できるだけ能力を使わないように、戦闘技術を高め訓練しました。やむ負えない時、死と隣り合わせになり、護るべき人たちを護ることができないと、判断した時だけにしています」

「なるほど。他に2人いると思うんですけど、その2人も同じように?」

「いや、あの2人はちゃんと使うよ。最年長の妙の場合、対悪魔用でしか使えないのと、相当悪魔への恨みが強くてな。もう代償の負荷が酷すぎて、彼女は悲しいことがあっても、涙が出ない。枯れてしまった。もう1人、山に住んでる夏って子は、呼ばれた時しか退治に赴かないが、赴いた時相当使う。彼女の代償は、マイナスの感情欠落。良いように思うが、本人は、感情が無くなっていくのは嫌だと言っていたよ。だいぶ前だから、今はどうかわからない。まあ、こんな感じだ。朝陽くんも少しずつ代償で負荷がかかるだろう」

桜子のその言葉に、朝陽は覚悟しておきますと小さな声で呟いた。

「それじゃあ、朝陽くんと理央くんに尋問だ。朝陽くん、何故能力を隠した?理央くんは朝陽くんの華の血については、どのくらい理解をしていたのかな」

朝陽が気まずそうな顔をしたのを横目で見てから、理央は言う。

「朝陽の華の血が戦うことのできる血で、薔薇だという事。おばあ様も薔薇の血で、亡くなられた両親がバラ科の植物、モモの花とイチゴだったと言っていた記憶があります」

「っ……全部覚えてるじゃん。流石、僕より僕の事に詳しい理央」

「それは、褒めているのか?とりあえず、朝陽。俺は答えた。次は、お前の番だぞ」

朝陽は右頬をかいてから、溜息をついてから言う。

「幼い頃から、きつく言われてるんです。心の底から信用できる人にだけ伝えろと。僕にとってその相手は、今までは理央だけでした。桜子さんをフィオーレをまだ信用しきれていなかったから、伝えられませんでした。すみません」

桜子は、朝陽は嘘をついていないと、理解した。

「わかったよ。2人をうちの組織に歓迎しよう。仲間になった者は、呼び捨てにする主義だ。許してくれよ。それでは明日から理央は、此処の地下5階にある隊員寮へ。朝陽は此処の地下6階にある花の戦士たち寮へ。今日は必要最低限の荷造りをし、来るように。理央は6人部屋だから特にな。朝陽も、今住んでいる家よりは狭いと思っていてくれ。そして理央は明日、戦闘隊員のベテランの錦に案内と今後の説明をしてもらうから覚えておくように。朝陽は、華の血の中で最も稀少だからな、護衛をつけて帰宅してもらう。勇利、明日椿とサスケと一緒に館内を案内してやってくれ。ということで、解散。朝陽、外で待っている男がいる。その子を連れて行くように」

桜子は、そう言い微笑んだ。

桜子の部屋を出て、勇利にまた明日と別れを告げてから、朝陽と理央は外に出る。

「あれ、いるって言ってたよね?」

「あぁ。でもいないな」

2人はきょろきょろと辺りを見回す。

「あ!来てたんだ!今下ります!!」

まだ声変りのしていない男の声が上から、聞こえて来て、2人は上を向く。

そして驚愕する。身長190cmの赤髪の男が建物の屋根から飛び降りたからだ。

華麗にくるくる回転し、すたっと着地した男は、身長に似合わず幼い笑顔を見せ、琥珀色の瞳で真っ直ぐと2人を見つめて言う。

「ボク、鬼塚椿。き、づ、か、つ、ば、きだよっ!14歳!よろしくね、朝陽さん、理央さん」

「あぁ、よろしく」

「よ、よろしく」

3人は、市街地へと歩いて行く。その間、椿は鼻歌を歌っていて楽しそうだ。

(椿って、確か鬼と華の血のハーフだっけ。何というか、鬼っぽい雰囲気はあるけど、人間の子供感が凄く強いな。あれだ。末っ子、弟キャラだ)

朝陽はそう思いながら、椿を観察しながら歩く。

「じゃあ、俺こっちだから」

「あ、そうなんだ!理央さん、今度ゆっくりお話ししよう!またね!」

「またね、理央」

「あぁ。また」

理央と別れ、2人でアパートまでの道を歩く。

「あのね。フィオーレに入隊した人たちは、大体家族を失ってるんだよ。化け物に食われて家族を失って。化け物なんて、いなくてもいいのに」

先程の幼さと裏腹に、真剣な顔をして椿は朝陽にそう言う。

「椿くんも、家族失ったの?」

「うん。ボクのお母さんは、鬼なんだけど人間の肉があまりにも吐くほど不味くて、食べられなくて、他の鬼たちにお前はおかしいと言われ、笑いものにされたんだって。そんなお母さんは、華の血を持つ、お父さんに一目惚れして、鬼であることを隠してアプローチをしたんだって。それで二人は結ばれた。結婚の話が出た時、嫌われるの覚悟で、鬼であることを伝えたお母さんを、お父さんは俺が愛した君が、鬼であろうと関係ない、結婚してくれってプロポーズしたんだって。素敵でしょ」

「うん、椿くんのお母さんもだけどお父さんも素敵だと思う。それで、結ばれた2人の間に、椿くんが生まれたんだね」

「そう、ボクが生まれた。ずっと幸せに暮らす予定だったんだけどな……。ボクが11歳の時、お母さんの事を知る鬼たちが、喰い物と家族になるなんておかしい。目を覚ませって、襲撃して来たんだ。お父さんとお母さんは、ボクを最後まで必死に護って死んじゃった。桜子さんが鬼を討伐して、ボクをフィオーレに保護してくれた」

朝陽はどう返せばいいかわからなくなる。まだ14歳の子供がこんなにも過酷な経験をしている事実にも、腹立たしくなるくらい、化け物たちが許せなくて仕方なくなる。

そんな感情がぐちゃぐちゃになっている朝陽に、椿は言う。

「フィオーレに来てね、勇利お姉ちゃんや隊員さんが優しくしてくれたり、吸血鬼のお兄さんやお姉さんたちも可愛がってくれたんだ。少しずつ立ち直れそうだった。でもこの仕事でしょ。殉職しちゃった仲良しな隊員さんや吸血鬼のお兄さんがいて。胸が苦しくなった。だからボク誓ったんだ。強くなろうって。それから戦うようになった。それでもやっぱり、救える命には、限りがあって、殉職しちゃう隊員さんが絶えない。だからね、ボク全員と仲良くなるようにしたんだ」

「……それは、どうして?」

朝陽の問いに、泣きそうな笑みで椿は言う。

「覚えているためだよ。この人との思い出は、こんなだったなって。ひとりひとりを忘れないために」

朝陽は目の前にいる14歳の男の子の強さに心を打たれ、自分もこうなりたいと思えた。

「椿くんは凄く強いね」

「えへへ。強くありたいな」

そう言い笑う椿の手を、朝陽は握り手を引く。

琥珀色の瞳を大きく見開いて驚く椿に、朝陽は微笑んで言う。

「充分強いよ。スーパー寄って帰ろう。椿くんの好きなの作ってあげる」

「え!?いいの?」

「いいよ。これでも祖母と暮らしてた時からご飯担当僕だったんだから。何でもいけるよ」

「えっと、じゃあラーメン!あ、でもオムライスも食べたいし、ハンバーグも食べたいし、ナポリタンも、あああ、エビフライと唐揚げも捨てがたい。うううう、迷っちゃうよ」

「じゃあ、全部作るよ。お子様ランチ風なら、全部いけちゃうくない?」

「わあああ、うん!!!!いけちゃう、楽しみ!!」

「よしっ!お兄さん頑張っちゃうよ椿くん」

「椿と呼んで。ボクは朝陽お兄ちゃんって呼ぶから、だめ?」

可愛らしい表情でそう言われキュンとした朝陽は即答する。

「いいよ、椿」

「ありがとう、朝陽お兄ちゃん」

嬉しそうに笑う椿の可愛さに、朝陽は悶えそうになった。

買い物をし終え、帰宅し、料理をふるまった時も朝陽は、椿の弟感たっぷりの可愛さに悶えたのは、言わずもがな。

荷物を大きめのキャリーバックとボストンバック、そしてリュックに荷物を詰め、椿とその日は少し夜更かしをしてから寝た。

アパートを出て、大家の女性に事情を説明し、1か月後に顔を見に戻って来るねと言い、フィオーレのアジトへと向かった。

アジトに着き、今日から住む部屋のある地下6階に来ると、フロアの入り口付近にある共有スペースのソファに座っている鈴歩は、待っていたかのようにそこにいた。

「鈴歩ちゃんだ!あれ、勇利お姉ちゃんたちは?」

「急遽討伐任務が入って、王子とサッくん行っちゃったんだ~。鈴歩は、お留守番!」

「……ごめん、椿。ちょっと、鈴歩と2人きりでお話ししたいんだけどいいかな?」

朝陽は椿を見上げて言う。

「わかった。じゃあボク、朝陽お兄ちゃんの荷物を置いて来てあげる!」

「ありがとう、お願い」

朝陽の荷物を全て持ち、椿はその場から立ち去る。

朝陽はソファに座り、右隣に座る鈴歩を見詰めて言う。

「お話ししようか」

その言葉に、鈴歩はコクリと頷く。

「桜子ママから聞いたよね。鈴歩は鬼に食べられたことがあるって」

朝陽は何も言わずに頷く。それを見た鈴歩は続けて言う。

「鈴歩は……、ううん。歩波はね、双子なんだ。ちっちゃい頃にね、パパとママが私たちを育てられなくなって、施設に入れたの。施設の皆と一緒に楽しく過ごしたの。でもね、歩波が日常を壊しちゃった。華の血だったなんて知らなかったから。皆歩波のせいで、死んじゃった」

鈴歩のアメシスト色の瞳から、ぽろぽろと涙が零れる。

その涙を指先で、朝陽は拭ってあげる。

「鬼がね、施設に3体入ってきたの。歩波を見てね、お前だって。施設の皆は、歩波を護ることを優先したの。双子の姉の鈴ちゃんも、歩波の手を引いて物置まで走ったの。だけど、駄目だった。気が付いたら、鈴ちゃんは鬼に投げ飛ばされて、死んじゃった。周りを見たら、皆も死んでた。歩波ね、その後生きたまま手足を鬼3体に引っ張られて千切られた。肩を思いっきり齧られて食べられた。歩波の体ね、半分も無くなったの。内臓も。死を覚悟した時に、桜子ママに助けられたの。それから、フィオーレで緊急手術。亡くなった鈴ちゃんの遺体がね、鬼に吹っ飛ばされたのに、綺麗だったの。だから、体を半分、鈴ちゃんからもらったの。志津音は施設の名前から、鈴歩は、鈴ちゃんと一緒に生きる覚悟で、この名前。私が戦う理由は、罪滅ぼし。そして、私と同じで痛い思いをする人を、少しでも減らすためだったんだけど、昨日は、鬼に遣られて、投げ飛ばされちゃって、あの時の事がフラッシュバックしちゃった。こんなんじゃ、駄目だって。朝陽ちゃんに戦わせちゃった。ごめんね」

「謝らなくてもいい。むしろさ、感謝しているんだ」

「感謝?」

「うん。今まで僕は、自分がこの世界で化け物に遭遇しても逃げれるようにって、自分の事だけで精一杯だった。自分を護る為に、華の血の力を自分の為に使おうと思ってた。でも勇利さんやサスケさん、そして鈴歩さんが自分が傷だらけになっても、戦う姿を見てさ、恥ずかしくなった。そして自分もああなりたいと思った時に気付いたんだ。誰が彼女らを護るんだろうって。だからあの時僕が思った気持ち、意思は、貴方たちを護りたいだった。この気持ちをくれてありがとう。だからさ、鈴歩さん。1人で抱え込まないで。僕を頼って。貴女の心の痛みを僕にも分けて」

「っ、ふぅぅ、うぇぇぇん、あり、がと、朝陽ちゃ、うううう」

泣きじゃくる鈴歩を優しく、疲れて眠ってしまうまで朝陽は抱きしめていた。

眠った鈴歩をおんぶし、頃合いを見て迎えに来た椿と合流した。

「朝陽お兄ちゃん、ありがとう。鈴歩ちゃんの事」

「僕は、まだちゃんとしたことはできてないよ。鈴歩さんの部屋は、何処?」

「手前の部屋だよ」

鈴歩を自室のベッドに寝かせてから、椿と一緒に自室へと向かった。

椿に手伝ってもらいながら荷解きをし、椿は緊急で任務が入ったため、任務へと向かった。

入れ違いにノック音が聞こえ、朝陽はドアを開けた。

「……朝陽さんなのか?匂いは朝陽さんだが」

混乱するサスケ。ハッとして全身が写る鏡で自分を見つめた。

今は、ゴシックロリータではなく、ゴシック系のウサギの描かれたパーカーに黒のスキニーパンツだった。

極めつけに、肩まで伸びた地毛をハーフアップに、いつも女装時にしている化粧をしていなかった。

「……サスケさん、着替えはしないからさ、メイクだけさせて」

「わ、わかった」

サスケに部屋の中に入ってもらい、急いで朝陽は化粧をした。

「雰囲気が違うな。女装時は愛らしい女の子の姿なのに、今はちゃんと男だな」

「はは、よく言われる。でも、似合うだろ?」

「あぁ。それでは、行こう。勇利は、続けて別の任務に駆り出されてしまったから、俺だけで案内をする。貴重品をちゃんと持って行くように」

「はーい、了解。よろしくね」

朝陽とサスケは、部屋を出る。そして上の階から順に案内してもらうことになった。

エレベーターで地下1階まで行き、エレベーターを下りる。

「ここは、食堂や売店があるフロアだ。大体の物は、ここで揃う」

市街地のように賑わう、その場所を見ながら朝陽は、聞く。

「働いてる店員ってさ、もしかして保護された華の血の人?」

「そうだ。あとは、その家族や、負傷により戦うことのできなくなった隊員たちだ」

「なるほどね」

朝陽がそう言うと、女の子が足元に駆け寄って来る。

「さすけさん、となりのひと、べっぴんさん!」

「そうだな。このお兄さん、女の子にもなれるんだ」

「ほんとに!」

女の子を抱き上げ、サスケは朝陽を見る。女の子は、目を輝かせて朝陽を見る。

「ふふっ、お兄さん実は魔法使いなんだ」

「わああ、じゃあ、まほうつかいのおにいさん、わたしおひめさまになりたい!」

「任せて。サスケさん、時間はありそう?」

「此処の人たちとの交流もしてほしいと勇利には言われている。日付が変わるまでに案内が完了していたら、問題ない」

「了解。とりあえず布売ってる店と、子供用のメイク品売ってるお店ある?」

「あぁ。案内する」

サスケに案内され、朝陽は布類や化粧品を購入した。

「ミシン欲しかったな」

「此処の共有スペースにある」

「此処住み良いな」

「すみよい!」

共有スペースまで来ると、朝陽は女の子の採寸をし、ドレスデザインのラフがを描き、ドレスを作り始めた。

いつの間にか周りには人が集まり、朝陽に皆が注目した。

「よしできた。更衣室みたいなところある?」

「向こうに着替えのできるスペースがある」

「よし、行こうか」

「うん!!!」

朝陽は女の子を抱き上げ、そのまま着替えのできるスペースで着替えと、ヘアアレンジ、メイクをしてあげ、メイク用品と一緒に買ったティアラをかぶせてあげ、全身が映る鏡で姿を見せてあげる。

「わあああ、おひめさまだあ!!」

「そう、これで君もプリンセス。それじゃあ、皆の所へ行きましょう、お姫様」

「うん!」

女の子を抱き上げ、共有スペースに戻り、お披露目をすると拍手喝采が起きる。

「あ、ママ!!」

「里帆ちゃん!あの、ありがとうございます。この子、物語のお姫様が大好きで、なるのが夢みたいだったので。でも母子家庭であまり裕福でないため、なかなか用意ができずにいて。だから本当に、ありがとうございます」

女の子の母親は、心の底から朝陽に感謝をした。

「いいえ。僕は魔法使いなので?それに、お姫様になりたいって気持ち凄く大事だと思うんです。着たい物好きなだけ、なりたい自分になるって、自分の気持ちを高めて幸せにする、ほら素敵でしょ」

「っ、はい」

女の子の母親は、泣いて微笑んだ。

「ありがとう!まほうつかいのおにいさん!」

「どういたしまして」

朝陽はそう言い微笑む。そして辺りを見回して、自分も欲しいと言いたそうな子供たちを多く見つけた。

「少しお時間かかりますが、他の子供たちにもお作りしますので、欲しいという方は、こちらに、メモをし、順次希望を伺い、お作りします」

朝陽がそう言うと多くの子供が親と一緒に、朝陽の元へ駆け寄ってきた。

「あっという間に、人気者だな」

サスケは、そんな様子を見て微笑む。

「本当ですね。朝陽さん凄いな」

「でしょっ!朝陽お兄ちゃんはね、本当に凄いんだよ」

「うん、朝陽ちゃんは凄い子なの」

サスケは聞き覚えのある声が、聞こえ振り向く。

そこには、任務から帰ってきた勇利と椿、部屋から出てきた鈴歩ともう1人緑髪の着物姿の女性が立っていた。

「あの子が、野薔薇朝陽。不思議な子ね」

「珍しいですね、妙さんが此処に来るの」

「あら、サスケ。私でも来るわ。……いいなと思ってしまうから、来るのは控えているだけよ。私は、部屋に戻ります。朝陽さんには、任務時にご挨拶しますね」

そう言い、妙はその場から立ち去った。

「……妙お姉ちゃんの悲しみは、やっぱりボクらでは、どうにもできないのかな」

「わかりません。でも、彼なら……」

椿の言葉にそう答えた勇利は、真っ直ぐと見つめた。

やっと解放された、朝陽は急いでサスケたちの元へと走ってきて、聞く。

「あの、着物の美人さんって、妙さんって人でおk!?」

皆はキョトンとした顔を一瞬見せてから頷く。

「あの着物のデザイン好きというか、欲しかったやつ」

「朝陽さん着物も着るんですね」

「まぁ。これでも野薔薇家は由緒あるお金持ちの家で、なんというか、おばあさまが着てたんだ。着物、羨ましかった。でもあのデザインは、僕には似合わないかも。妙さんや勇利さんみたいな美人さんが似合うというか。黒髪のウィッグ被れば、ワンチャンありか?」

サスケは、自分で聞いときながら、百面相する朝陽に笑ってしまう。他のメンバーも笑ってしまった。

「あ、ごめんなさい。好きなものになるとつい。お待たせしましたね、案内の続きお願いします」

朝陽は恥ずかしそうに微笑んでそう言った。

案内が再開し、朝陽とサスケは、地下2階へと来た。

勇利はボスに報告、鈴歩と椿は、子供たちに遊ぼうとせがまれたため、先程の場所で別れた。

「地下2階は、病院みたいなものだ」

「なるほど。……サスケさん此処に大切な人でもいるの」

「え?なんで……」

「此処に来た途端にさ、雰囲気が変わったんだよ。少しね」

「……犬の俺より、犬だね。朝陽さん」

「うーん、気まぐれだからさ、犬より猫かも」

朝陽はそう言い微笑んでから、じっとサスケを見つめて言う。

「聞かせて、サスケさんの話」

「あぁ。案内する」

サスケは朝陽を連れて、ある個室の病室へと案内をした。

病室に入ると、サスケと同じ綺麗な銀髪の女性が呼吸器をつけて眠っている。

腕には無数の点滴が刺されている。

「5年前にある研究施設が鬼に襲撃されてな。彼女は、その被害者で5年間眠り続けている」

「……もしかして、彼女はサスケさんの飼い主さんだったの」

「お察しのとおり。相田早苗。俺の飼い主。幼い頃から、病弱で、それでいて彼女は華の血でもあったから、あまり外に出ることができなかった。そんな彼女に、彼女の両親は俺を与えた。桔梗の華の血を持つ珍しい犬ってことで、研究対象だったけど、どうしても家で飼うって言ったんだ。彼女の両親も研究者で、5年前の襲撃で亡くなったが……。相田家は、最高の家族だ。ずっとずっと、良くしてもらっていた。あの日、俺はその時は人間の姿に、未熟でなれなくて何もできずに、ただまだ生きている早苗の頬をずっと舐めて、起きてと願った。その時に、早苗の血を少しだが飲んでしまった。それにより、早苗の血の能力を使用できるようになった。昨日見せた、浄化の力だ。早苗は、自分の事よりも他の人を優先するような人でね。自分の華の血を他の人を助けるために友好的に使う方法をいつも、家族や研究者たちと話し合っていた。俺も率いてね。あの場所が大好きだった。俺が戦う理由は、いろんな人の大好きな場所を失わせないようにする事と、飼い主早苗のようになりたいからだ。だから必死に今まで鍛錬して、人間の言葉や文章、文字を覚えるのを頑張った」

「凄いな、サスケさん。本当に努力したんだな。早苗さん、目を覚ましたら驚いちゃうね」

サスケはラリマールの宝石ような瞳に朝陽と早苗を交互に映してから、微笑んで言う。

「目が覚めた早苗に、いっぱい褒めてもらいます」

「うん。早苗さん、待ってる子がいます。ゆっくりでもいい、ちゃんと目を覚ましてくださいね。その子のために。あと貴女の大切な子に触れるの、許してくださいね」

朝陽はそう言い、サスケを抱きしめ、背中をポンポンしながら、優しい声色で言った。

「今は、僕がいっぱい褒めてあげる。今まで、いっぱいよく頑張りました」

「……うん、いっぱい頑張りました」

サスケは朝陽を優しく抱きしめ返して静かに泣いた。

数分程して泣き止んだサスケは、飼い主の早苗の額に口付けをして言う。

「また来るね。早苗」

その声は飼い主への愛おしさの溢れる声だった。

病室を出て、エレベーターまで行き、地下3階まで下りた。

地下3階には、トレーニングルームがあった。

「地下3階と4階は、トレーニングルームになります。2つのフロアには、いろんなトレーニングルームがあります。隊員たちの訓練所もあります。例えば、あそこ。理央さんがベテラン隊員と手合わせしてますね」

サスケが指した、ガラス張りの部屋を見ると、理央と理央と同じくらいにガタイのいい男の隊員が武術で手合わせをしていた。

「やっぱ、カッコいいよな」

「理央さんですか?」

「うん。憧れる。理央さ、好きな人がいて片想いをしてるんだってさ。相手は自分をそういう対象で見てないからって、告白しないみたいなんだけど、理央程のいい男をそういう対象で見ない人凄くない」

そう言う朝陽と手合わせ中の理央を交互に見てから、サスケは言う。

「思っているより、その相手は近くにいるものですよ」

「え、どういう事?」

「ほら、次の階にいきますよ」

サスケは横目でこちらに気付いた理央に、見せつけるように朝陽の手を握り、その場を後にする。

再びエレベーターに乗る。

「あのさ、気になってたんだけど、このエレベーターのボタンおかしいよね」

「気づきました?」10

「まぁ。何で地下6階から飛んで下が地下10階?てか11階まであるんだ」

「10階は吸血鬼の寮。今は眠っているので行かないことをお勧めします。フィオーレでは、昼間は人間の隊員が市街地の見回り、討伐任務に赴きます。夜は吸血鬼隊員が同じ任務をこなします。一応、ホワイト企業です。俺たちは、いつでも出動ですが。朝陽さん、覚悟をしてくださいね」

「なるほど、覚悟します」

「そして11階が保護した一般の方の寮になります。途中の階のボタンが無い理由は簡単です。一般の方には、見せられないから」

「理解。てことは、今から地下6階に下りて、行く感じ?」

「そうですね。地下5階は隊員寮ですし。6階に着きました。行きましょう」

サスケとエレベーターを下り、6階のフロアの最奥の本棚まで向かう。

「これ、隠し扉です」

サスケは、一番下の段の右端の赤色の本を指先で押す。本が下に入っていき、隠し扉が開く。

「まじか。あ、上から階段が続いてる。このエレベーターは、無いボタンの階だけかな。あ、てことは、上にもある?」

「はい。隊員寮にもあります」

二人が扉を通ると、すぐに扉が閉まった。

そして階段を下り、地下7階へと着くと、そこはシステム室だった。

「此処でいろんな指令を出したり、此処のセキュリティ対策をしています。もし、化け物が外部から来た場合、すぐに探知をし、警報音を鳴らし、各フロア、そうですね、特に一般の方が出入りするフロアを閉鎖できます」

「なるほど」

「我々は、基本的に戦闘に赴くので、あまり利用することは、無いに近いです。次の階に行きます」

再び階段を下り、地下8階に下りた。

「地下8階は開発室と研究室、資料室です。化け物殲滅の為の武器を日々開発し、化け物についての研究もしています。武器に関しては使えるか俺たち華の血が実際に試したりもしています」

「何で……?」

「捕らえた鬼と悪魔で。実際に使えないと駄目ですし」

「なるほど……。捕らえた鬼と悪魔って、もしかして下の階?」

「はい。勿論普段は薬漬けにして眠らせていますので、脱走することはありませんし、もし脱走したとしても、そのフロアの警備やセキュリティ対策は此処で1番しっかりとしています」

「なるほど。理解はできたけど、やっぱり、僕はまだ討伐任務や訓練をしてないから、不安になっちゃうな」

「……朝陽さんは、運動どのくらいできますか」

「人並み。幼い頃にバレエとかやってたから、ジャンプ力は少しある」

サスケは少し考えてから、言う。

「じゃあ、測定しましょうか」

「え」

朝陽はサスケに手を掴まれ、エレベーターまで誘導され地下6階まで戻る。

その際にサスケは、スマホで連絡を取る。

「うん。勇利と妙さんは無理そうで、夏さんはそんな楽しいことできないの嫌だ、行きたいと嘆いていますが、椿と鈴歩は問題ないみたいです。朝陽さん、地下4階に行きますよ。鬼は俺たち3人。鬼ごっこをします。絶対に捕まらずに逃げてください」

「え、能力使わない?」

「鈴歩は使うと思います。俺は犬の姿に戻ります」

「無理ゲーでは?椿の身体能力も高そうじゃん」

「勇利の上です」

「オワタ」

朝陽は無理矢理に地下4階の1番広いトレーニングルームに連れてこられた。

そこに行くと、何故か人が集まっていてた。話を耳にした隊員と一般の人が集まってきたようだった。

ガラス張りのトレーニングルームの外で観覧されるというプレッシャーに朝陽は、吐きそうになる。

「朝陽」

「理央……。プレッシャーやばい」

「いけるよ、朝陽なら。そうだな、朝陽は頭の回転も速いから、朝陽らしく動いたら問題ないよ」

「僕らしく。理央あんがと」

「うん。行ってこい」

朝陽と理央は拳でグータッチした。

トレーニングルームに入ると、朝陽は深呼吸をする。

「捕まったら負けと言いましたが、我々は捕まっても戦わないといけません。なので朝陽さんが戦意喪失し、捕まったら負けという事です。朝陽さんも我々を戦意喪失させても大丈夫です。勿論、できるならです。制限時間は10分。質問は、ありますか」

「ないよ。というか、それなら逃げ切れる」

「朝陽ちゃん!手加減しないよ~♪」

「朝陽お兄ちゃん、ボクも本気を出すね」

「あはは、一応戦闘初めてなの理解してね。それじゃあ、行こうか」

朝陽はもう一度深呼吸をし、逃げる態勢を取る。

「それでは、始めっ!」

サスケが合図した後、犬の姿に戻り、鈴歩は3人に分身する。

4人と1匹が、朝陽にかかって来る。

朝陽は元の体の柔らかさとジャンプ力を利用し、避けながらそれぞれの動きを確認する。

(椿の動きがやっぱり速い。あの拳あたったらヤバいかも。サスケさんも気が付いたら背後にいるし、ヤバいな。鈴歩さんは、本人と分身の動きに協調性が無い。いや、違う。そうなると……)

朝陽は1人の鈴歩に向かって走って行き、足を振り払い、転ばせた後、馬乗りになり、首に人差し指を立てて言う。

「貴女が本物だ」

それにびくっとした鈴歩とその分身は静止する。

変化に気が付いた、椿とサスケも様子見をし、静止した。

「どうして、そう思うの?」

「分身の動きには協調性が無いと思ってたけど、あるなって。数テンポか遅れて同じ攻撃をしている。そうなると、違う動きをした鈴歩さんが本物という事になる。だから、貴女を戦意喪失させます」

「っ、舐めないでねっ!」

分身がもう1人増えて、朝陽に攻撃する。朝陽はそれを避けたが本物の鈴歩から離れてしまった。

「覚悟してね」

「覚悟も何も、思い通りに動いてくれてありがとう」

朝陽は妖艶に微笑み、自分の方へと向かってくる鈴歩の分身の首を掴み、思いっきり頭を床に打ち付け、戦闘不能にした。

「ッ、まだいるもん!……え?」

困惑する鈴歩。走って鈴歩の元へと来た朝陽が、一瞬で背後に移動したからだ。

「ごめんね、鈴歩さん飛び越えちゃった。あとで好きなご飯作ってあげるから、許してね」

「っは……」

鈴歩の首を手刀し、気を失わせ、倒れる前に抱き上げた。分身も本物が気を失ったからか、消えた。

鈴歩を安全な位置に下ろし、時間を確認する。

(まだ5分か。いけるか?)

「ねえ、投げ飛ばせば一瞬で気を失ったと思うよ?」

「ははっ、確かに椿の言う通り。でもさ、それは僕がしたくなかった。だって僕は鈴歩さんの心の痛みを分けてもらう仲になったから。心を傷つけることは、決してしない」

「……あああ、朝陽お兄ちゃんカッコいいズルい!」

「あんがと。それじゃあ、椿かかっておいで」

「うん!」

椿の目が鬼のように鋭くなり、朝陽の方へ飛びっかかって来る。

それを華麗に飛んで朝陽は避け、椿の肩に飛び乗り、足で首を強めに締め付け、椿の頬を掴み、自分を向かせ、その手で鼻と口を塞いでから言う。

「椿は強い。でもね、踏み込む足、いや体の動きで次どう攻撃がくるかわかってしまう。僕みたいなの相手だと、悟られて遣られてしまうよ」

椿の揺らぐ視界に、妖艶に微笑む朝陽が見えた。

「椿、降参するなら離してあげる。わかったら、手を上げて」

苦しくてもう駄目だと思った椿は、手を上げた。

朝陽は椿から飛び降り、解放した。

解放された椿は、地に座り込み息を吸い咳き込む。

「ごめんね、苦しくさせて。あとでお詫びに昨日のまた作ってあげる」

朝陽は、椿の髪を撫で回してから、サスケを見つめる。

(残り3分……癖がないからわからないな)

そう思っていると。サスケは人間の姿に戻り、こう言った。

「俺たちの負けです」

「え」

サスケの言葉に、朝陽は困惑する。

「俺動物なので、本能がこの人はヤバいと感じました」

「言い方酷くない」

「正直昨日の鬼を討伐した時から本能的に野薔薇朝陽という男は、強いと感じていました。もしこれから鍛錬し戦闘技術を身に着けたら、負けなしかもしれない」

サスケは真剣な目でそう言い。膝をつき頭を下げて言う。

「だから俺の負けです。朝陽さん、勝利を認めてくれますか?」

「うわっ、顔がいい執事みたい。そうじゃない。わかった、認める」

朝陽が勝利し、歓声が起こる。恥ずかしくなりながら、朝陽は一礼する。

気を失っていた鈴歩も目を覚まし、フラッと起き上がる。

そんな鈴歩の手を握り、息を整え終わった椿が朝陽とサスケの方へと誘導する。

「勝った朝陽さんの言う事を、何でも聞きましょう」

サスケがそう言うと、朝陽は即答する。

「サスケさんと鈴歩さん。今日から呼び捨てします。あと、サスケさんは僕を朝陽と呼ぶこと。椿は今度お菓子作るからお手伝いして」

「お菓子!手伝う!」

椿は嬉しそうに、ニッコリと微笑む。

「えええ、鈴歩も手伝う!あと、朝陽ちゃん、いっぱい鈴歩と呼んでね!」

「……そんなことで良ければ。これからよろしくお願いします」

「うん、よろしくねサスケ。あ、サスケの食べ物って?」

「あのね、朝陽ちゃん!わんちゃんと一緒!」

「人間の食べ物も食べれますが、口に合わず」

「じゃあ、犬用で味付けしよう」

「朝陽お兄ちゃん、本当に女子力?が高いね!」

「あ、それは俺も思いました」

「鈴歩も!」

「よく言われる」

観覧の人が解散していく中、楽しそうに話す4人をじっと見つめ、理央は心に誓う。

(俺も、朝陽をちゃんと護れるように強くなりたい)

「……あんなに仲良しだと、少しだが嫉妬をするな」

理央は苦笑をして、その場を立ち去った。

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