第3話
とりあえずトイレをもらうことにしました。
まずは一人になって現状を整理したかったから。
「私が姉にあのホストにお金が払えなくて売られた?」
姉本人じゃなくてなんて私?
幾らで売られたの?
手洗い場の鏡を覗き込みながらまず起こったのは混乱。気がついてから十分に驚くべきことの連続で混乱はしたてけど、ようやく一人になることで頭が回ってきた。
「どうにかして姉に聞くまでは信じられない。うん、まずはあの人に姉に会わせてもらえないか聞いてみよう。それしかない」
鏡の中の私とうなづき合う。そのあと、一つの重要なことを思い出した。周りを見回して再度誰もいないことを確認すると上着をはだけさせる。
ピンク色で背中結びのベビードールにアイスブルーのゆったりとしたバスローブだった。
大きめの瞳を不安そうに歪め、瑞々しい唇に日本人にしては高めに鼻。細い肩からスラリと伸びた手指。それほど大きくはないが見ればはっきりと盛り上がっている乳房。
白くはあれど血色はいい肌。赤く腫れているような箇所もなく、捻ったように痛い場所もない。少し前に頭はちょっとだけ打ったけど。そのことから特に雑に扱われた訳ではない事が分かった。
そのことでますます分からなくなった。もしかしてこれからひどい目に遭うのだろうか。
「よう。落ち着いたか?」
何と男はトイレの扉のすぐ前にいた。出てくるのを待ち構えるように。
「おかげさまで。大丈夫ですよ、逃げたりしませんから。三枚のお札なんてこと、本当には起こりませんからね」
「いい心掛けだ。そのまま大人しくしてるなら俺も手荒なことをしないでするからな」
目と顔だけで戻れと言ってくる。
促されて男の脇を通り前の部屋に戻る。
「何か食べるか? そうでなければ今日は休め。寝室は右の部屋だ。ベッドは一つ。いやならば床にでも寝るんだな」
「今日はたくさんありすぎて。寝ることにします。何もしませんよね?」
「さぁな。そう思うのはお前の自由だ」
「まあ本当。お人形みたいに可愛い子じゃないの」
私は翌朝、黄色いとでもいうのか歓声のような声で目が覚めた。
体を起こすと私を見ていたのは、上から下まで黒でコーディネートされた服装の人だった。洋服も着る人が着ると全く違って見えるから不思議だ。
背筋をピンと伸びしてとても姿勢がいい。だからか動きにもキレがあるように見える。
「ねぇあなた、お名前は? 何歳で今までどこにいたの?」
興味津々。目を猫のようにクリクリさせてこちらに聞いてきた。
そうだ、名前。そんなことも忘れるくらい大変な一日だったよね。
「ああ? うるせぇぞ。って誰かと思えば藤谷か。どうやって入ってきた!」
「何だとはごあいさつね。あなた、私に部屋の掃除を頼んだのを忘れたの?」
えええ?
習作 望月ひろし @mochizuki_hiroshi
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