第10話

3週間後、家庭裁判所に到着し、当事者の私達家族と佐賀の家族がそれぞれ時間差をつけて、調停室に個別に入った。


しばらく待つと、佐賀の弁護士と、私達の弁護士も中に入り、書記官も着席した。


調停が始まると全ての経緯を話し、ある程度話を聞いたところで、弁護士が席を立ち、別室にいる佐賀達のところへ行き、再び戻ってきた。


優里からも先日話していた事情を聞く事ができたが、佐賀は一向に否認しているという。


改めて弁護士に話を聞くように促して、再度別室へ行かせしばらくして戻ると虐待以外の内容は認めるが私が誘拐未遂を行なった心情がわかりにくいと返答してきた。


私は優里といたい一心でその時は気が動転していたが、悔い改めると伝えると反省している一部については受け入れると言ってきたという。


しかし、私には優里との血縁がない為、今度は佐賀夫婦が子どもを2人引き取ると訴えてきた。


弁護士は優里と海斗それぞれに尋ねると、私達の所にいたいと話していると言ってきた。

1度だけでは決着がつかないので、2回目の調停に持ち越す事となり、その日の話し合いは終了した。


自宅に着いた頃、疲労で海斗は美梨が抱き抱える肩にもたれて眠っていた。

そう簡単にお互いが引き下がる訳がない。


1週間後、私達の弁護士から連絡を受けて、事務所へ訪ねると、そこに中嶋の姿があった。

今回の件で従来であれば弁護士が調査するところをそこに彼が第三者の証言も必要とみなし、仲介役として入る事を弁護士から引き受けたという。


「海斗は佐賀夫婦の子だ。彼には申し訳ないが、佐賀さんに返す事にする。ただ優里は僕らが育ててきた子で美梨と血縁関係がある。だから、彼女を僕らの元に返して欲しい」

「訴訟、しますか?」

「お願いします。」

「では佐賀さんに答弁書を提出します。」


「晴、向こうの弁護士もやり手の人間だ。優里ちゃんのために信義を持って闘う姿勢を貫く覚悟はあるか?」

「信義?」


「訴訟以外に手を出すと完全に不利になる。だから、真っ向から立ち向かうんだ」

「ああ、やるよ。子どもの権利を尊重したい。闘います」


後日佐賀宛に訴状を送付すると、折り返し私のスマートフォンに彼から連絡が来た。


「訴状を受け取りました。貴方も懲りないですね」

「ええ。僕もしつこいので…大人よりも子どもの思いを守りたいんです」

「私も子どもには手厚くしてあげたいですし」

「絶対に…逃げないでください」

「分かってます、では」


仮面の裏で何を考えているかわからないのに、子どもには手厚くしたいなどとよく言えたものだ。

私はその間も海斗が不安にならないよいに普段通りに接していった。


1ヶ月後の裁判の数日前に中嶋から連絡がかかってきた。すると、佐賀を通じて彼の弁護士から訴訟を取りやめると告げてきた。

すぐに私達側の弁護士に連絡をすると、既にその報告を受けたと返答した。


「何があったんですか?」

「調停で否認していた項目を全て認めるので引き下げてくれと言っています。早急に事務所に来ていただけますか?」


2日後、法律事務所に行き、改めて弁護士から話を聞いた。海斗を返す事と、優里の発言した内容が全て正しいので、慰謝料として500万支払うと言ってきたと言う。


「子どもは帰ってきても、お金は受け取れません。」

「何故ですか?」

「佐賀さんが、この後何かを企んでいそうで怖いんです」

「慰謝料が入れば、向こうとは2度と会わなくて済むのよ。貴方はどうしたいの?」

「急に取り下げるのも何か都合が悪くなった恐れがある。こんなにスムーズに事がうまく行くのも変ではありませんか?」

「確かに…中嶋さんにもお伝えしたのですが、別途単独で調査をしてみるとおっしゃっていました。それで様子を見てみますか?」

「そうしてください。真実がわかれば慰謝料の事も考え直します」


腑に落ちない新たな事情が出てきた。

佐賀はそれ以外に何をしたいのだろうか。


益々不信が募るばかりだが、子ども達を元に返したところで、全ての糸口が解決する訳がない。


喉に絡まる言葉に、えぐさを覚えるような気にも感じた。

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