第6話

澄み渡る田畑を眼下にして片側2車線の道路をひたすら車を走らせいくと、ある市街地へと入った。


コンビニエンスストアの前の駐車場に停め、スマートフォンで宿泊するホテルを探していた。


すると、佐賀夫婦から着信がきたので出てみると、気が立ったように少し興奮気味で私に話しかけてきた。


「今どこにいるんですか?」

「教えられない」

「何故?」

「優里に、何をしていたんだ?」

「僕らも精一杯彼女を見てあげているんだ。とにかくこちらに返していただけないですか?」

「返す?取引をしているんじゃないんだぞ。お互いの子どもの気持ちも考えずに貴方方が振り回しているのと同じ事をしているんだぞ?」

「…信じてもらえないようで申し訳ないです。でも、一刻でも早く優里に会わせてください」

「それは僕も困る」

「お願いですから返してください」


「変な憶測を立てるようでありますが…娘をさらっていきます」


私はすぐに電話を切り、次に美梨のスマートフォンに電話をかけて、場所を都内と偽り佐賀夫婦に連絡が来ても居留守にしておくように指示をした。


「本当に大丈夫?」

「任せて。優里の為だ。明日必ず帰る」


スマートフォンの電源を切り、再び車で移動して街中のファミリーレストランへ夕食を取り、2時間後にビジネスホテルに到着した。


チェックインを済ませて部屋に入り、優里の気を引くようにテレビをつけた。

美梨に電話をしたいと言ってきたが、明日にして欲しいと返答すると、少し俯き気味になった。


あらかじめ持ってきたバッグから部屋着に着替えさせると、普段身に付けているものなのか、安心した様子で私の肩に掴まりベッドの上を飛び跳ねていた。


就寝時間になり布団の中に寝かせて立ちあがろうとした時、私の服の裾を握ってきた。


「眠るまでいてほしい」

「分かった」


しばらくして優里が眠ると頭を撫でてその安らかな寝顔を見ていると、今の自分の行為が明らかに間違いを犯していると現状に気づいてきた。

疲労のせいか身体が重たくなってきて、私も彼女の隣に並び眠った。


翌日の午前に、ホテルを出て高速道路に入り数十分の渋滞に遭いながらもやがて首都高に入った。観覧車が見えてくると優里が以前家族で一緒に行った事を話し、いつもの明るい表情で車窓の外を眺めていた。


自宅に到着し、美梨と海斗が出迎えてくれたが、何やら落ち着かない様子だった。


「警察から連絡がきたの。こっちに向かっているって。佐賀さんがかけたみたい」


20分後にインターホンが鳴ったのでドアを開けると、警察庁の刑事が2人立っていた。

私に対して幼児誘拐未遂の疑いで事情聴取すると告げてきた。


玄関口で靴を履いている時優里が寄ってきてどこに行くのかと聞いてきたので、長いお出かけになりそうだと伝えた。

私の手を小さな両手で握りしめて待っていると告げてきた。彼女に微笑み返して車に乗り込み警察署へ向かった。


取調室に座り聴取が始まり、弁護士を通して双方の合意の上で子どもを預かっていると伝え、今回優里を攫うと伝えて逃走した理由を尋ねられた。


私は娘が佐賀夫婦から虐待を受けている事を話したが、刑事は信用し難く、かつ意図的に誘拐した事が成立すると返答してきた。


2時間程経過して勾留期間を48時間とするので、留置所で考えを改め直すように警告された。

指定の場所に案内されると、雑居ではなく単独室に入るように促され、室内は薄い生地の布団に洗面台とトイレが設置されていた。


取調べが長かったのか、憔悴した身体を冷えた壁に背中をもたれて座り込んだ。


就寝時間になると布団に入れと指示されたが、留置担当官が居なくなった後、そのまま布団の上に寝転がりいつの間にか眠りについていた。

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