第11話 おじさんとツケ

【前話ダイジェスト】

あるんだよ…神様にだって

「おぉ!心の友よ!」

って熱くなる瞬間


【本編】

 今晩の飲み会は、正直、幸せすぎました。今でもその余韻を忘れられずにいます。


 自分が誰なのか、なにをなすべきなのかもハッキリしないまま天界に降臨した私ですが、同僚にして部下にして先輩となる「茨木楓」さんと過ごした1日は掛け替えのない思い出です。意図したものではありませんでしたが、彼女の柔らかさと温かさ、そして香り、喜怒哀楽、その全てが魅力的でした。


 最悪とまでは言わずとも、望ましい出会いではなかった開発課主任の虎ノ井一徹さん。彼は解りやすく、それでいて男気のある、憧れとも言える男性でした。口は悪いですが、彼の所作は思いやりに溢れています。友とも呼び合えるほどの仲になれたことは、人生の宝だと思います。


「そう、最高でしたね」











「──だから、今、そのツケが回ってきてるんですきっと」


 幸せだった時に想いを馳せる私は、マッチ売りの少女さながらと言ったところでしょうか──可愛らしさの欠片もないおっさんですけど。それでも心境は同じです。不運な今を、過去の幸せにすがることで乗り越えようとしているのです。


 硬くとも暖かい床──

 花の香りにも似た空気──

 静かな寝息をBGMに──

 お付き合いでほんの少し頂いたアルコールが、体内の情熱を伴って口からホウッと溢れます──。


「ううぅん──耳はダメだって──」


 彼女の寝言は天界を包み込む福音の如く尊くて


「ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい」


 心臓が高鳴ります。


「逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ」


 予想外の展開に、心が着いてこず──それでも逃げるわけにはいきません。ここで逃げるのは男の……いえ、人として恥でしょう。










「私はどこへ帰ったらよいのでしょうか」











 記憶が欠落しているのか、連絡調整に齟齬があったのか──私、自宅を知らないんですよね。


 このことに気付いたのは、酔い潰れ、腰が砕けた楓さんを、どうにかこうにか自宅へ送り届けたときのことでした。

 彼女の部屋が、まさかの光彩ドアロックで驚き。

 玄関にひっくり返って寝始めた彼女を抱き抱えてベッドに連れていき。

 寝言を言いながら服を……下着まで脱ぎ始めた彼女に、強引に布団を被せ。

 明日が心配で、ベッドボードに水を注いだグラスを備え。

 さぁ、帰ろうと思ったとき、でした。


「私に帰る家……いや、部屋はあるのでしょうか?」


「い、いやホテルくらいあり──あ、私お金持ってないです」


「あれ? そもそも、光彩ロックってことは、楓さんの部屋、私には鍵をかけられないのでは?」









「つ……詰みました、ね」


 きっと明日の私は、3枚下ろしです。









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