第10話 おじさんは無差別級
【前話ダイジェスト】
あるんだよ…神様にだって
「耳元はダメ……」
って言われてドキッとする瞬間
【本編】
「だぁかあらよぉ~!」
「そんなことはどうでもいんです! それよりも、ちゃんと部下の動向をですねぇ!」
「はいはい、2人とも少々大声がすぎますよ」
私こと、一本木和成。天界相談窓口主任。
楓さん。同じく天界相談窓口主任補佐。
虎ノ井一徹さん。開発課主任。
我ら3人、何故か居酒屋にて飲んだくれています。
発端は、楓さんが退勤前に再び腰砕けになってしまったことでした。自宅まで送るつもりだった私ですが──
「公衆の面前は勘弁してください~! 私にだって、憧れるシチュエーションとかあるんですよぉ~!!」
──と楓さんは頑なに拒まれてしまいました。これでは一向に帰宅できません。
では「回復するまで残業しますか?」と提案したものの、退勤時刻になると照明の大半が落とされ、電話は外線に限りシャットダウンされると聞かされました。流石は天界、ホワイトです。おろしたてのワイシャツに負けない白さです。それと、黒電話の癖に無駄に高性能です。解せぬ。
そんな、途方にくれていた私達の救世主は、先程まで揉めていたお相手、開発課主任の虎ノ井一徹さんでした。
「それにしても、まだ信じられないぜ? あの鬼姫『茨木楓』が腰砕けっつうのがよ? あれか、恋か? 愛か? LOVEなんか?」
「うっさい虎! 耳元であんたも囁かれてみろ!」
「生憎だが、俺にそんな趣味はねぇよ、あぁあ残念だったな! ガッハッハ!」
「失礼しまぁす。ご注文の焼鳥盛り合わせ3人前でぇす」
「はい、ありがとうございます。それと、注文よろしいですか? あ、はい、中生…いや、大ジョッキでふたつと、ジンジャーエール中ジョッキでひとつお願いできますか?」
なかなかよろしい佇まいの居酒屋ですね。立地はまさかの役場一階テナントなので終業後3分で到着可能。間仕切りタイプですが個室も多数完備で、何より掘炬燵があるのです! もっとも季節が合わないので、炬燵布団はありません。それでも足を気軽に伸ばせるのは助かります。
「だぁからよ、部下だって事細かに口出されたらイラッとくんだろうがよ! んだから方針だけ指示して任せてたんだよ!」
「メッチャ裏切られて、足元掬われてるって気付けバカ虎! あの増長っプリだぞ? アイツら今回だけじゃないぞ?」
「くっそう、増長してんのはお前もだろうがよ。だがまぁ、俺もそれは解ってんよ。明日から書類とにらめっこだ、ちくしょう!」
「ふふ~ん。あたしみたいに誠実に仕事に向き合わねぇからだな!」
「誠実なやつは日本刀振り回したりしねぇぞ、鬼姫!?」
「くらぁ! 姫っていうな!」
あ、つくね、美味しいですね。軟骨入りなのが高評価です。しかもタレに卵黄の組み合わせだなんて、幸せと言う以外、ありません。あ、そうでした。酔いつぶれる前に伝えたいことがありましたね、虎ノ井さんに。
「虎ノ井さん、話に割り込んで申し訳ありません。お伝えしたいことがあったのですが、よろしいですか?」
「……一徹」
「えっ?」
「……俺はお前がスゲェ奴だって認めてる。だから名前で呼べ……むず痒いからな」
私に視線を向けず、そっぽを向きながら虎ノ井さんは焼鳥一串を一口で頬張りました。口の横にはタレが線を描いています。
今回の不祥事に、虎ノ井さんは関与していませんでした。それは署名の筆跡でも解っていましたが。それに、あの後、人魚さんたちへの緊急対応や、急遽土建屋を召集しての排水応急措置、元処分場に造りかけていた工場の工事差し止めなど、驚きの早さで事態に当たってくれたようです。そして何より──
「人魚さんたちの検診と仮設住宅の対応を真っ先に進めてくださったそうで」
「そんなのは、当たり前のこったろうが。うちらが迷惑かけちまったんだからな、尚更だっつうの」
「いえ、真っ先に被害者に寄り添った対応をとっていただいたことが、嬉しかったんです。ありがとうございます、一徹さん」
「お、おぅ」
「だから言っただろバカ虎~。主任のイケボをナメんな~」
「……イケボだとは思ってたが、ナメてたわ。ありゃ、破壊力が半端ねぇ」
一徹さん──ですか。着任初日から名前呼びを許される仲間?友達?が出来るとは思ってもみませんでした。しかも楓さんとも仲が良さそうですし。
ところで一徹さん、飲みすぎたんですかね? 随分と顔が赤いようです。そろそろお開きにすべきですかね。
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