第8話 おじさんとイケボと彼女の腰つき

【前話ダイジェスト】

あるんだよ…神様にだって

「人を見かけで判断するのはよくない」

と実感する瞬間


【本編】

「やはり…土地の用途が処分場から造成地に書き換えられていますし、主任のサインも、筆跡が微妙に違いますね」


 虎ノ井さんに思い当たる節はなさそうな様子でしたし、このファイルも、開くこと無く直接私に放り投げていました。おそらく、直感的に何かを悟られたのでしょう。

 さて、汚水に関して真相は掴めましたが、今後はどうするべきでしょうか。怒り心頭の楓さんを押さえるべく行動してきましたが、ホントに勢いだけだったんですよね。まだ私この役場の位置付けとか部署とか殆どわかっていないので。


「おう、一本木こっちは片がついたぞ。そっちはどうだ?」

「えっ? 早くないですか?」

「あ、あぁ、ふん縛ろうと思ったが、手遅れだったわ」

「手遅れ、ですか? まさか亡くなっ──」

「いや、そうじゃねぇ。ってお前さんは来たばっかだったな。まぁ、そのうち知ることになる。それよりも──」

「こちらは予想通りでした、残念ですが」


 虎ノ井さんの言うことが、一部理解できませんでしたが、それよりも今後のことの方が大切でしょう。


「それで、今後はどうしたらよいのでしょう。人魚の方々は汚水で大変お困りでしたので」

「そっちは即対応する。まぁ、この事態に気付きもしなかった俺の言うことじゃあ信用ならんかもしれねぇが」


 凄く苦みばしった表情の虎ノ井さん。なので、心配要らない気がします。


「ではそちらにお任せしても宜しいでしょうか」

「お前……信じるのか?」

「信じるも何も、私は今日着任したばかりの新人主任ですよ? どうすべきか、まだマニュアルに目を通しきれていないくらいです。ですから、先輩主任に頼らせていただきます」


「器がでけぇな」

「見通しがないだけですよ」


 虎ノ井さんが、ニヤリと笑っていました。ガキ大将の笑い顔……心の底まで晴れやかな、今日の青空みたいに感じる笑顔です。


「では、私は部署に戻らせていただきます。すみませんが、事後対応も含め、宜しくお願いします」

「あぁ、対応が決まり次第報告にいくからよ。そっちは茨木の嬢ちゃんを頼む」

「えぇ、勿論です。うちの貴重な人材ですから」


 目をまん丸くした虎ノ井さん一礼し、楓さんの元へ戻ります。


「楓さんは落ち着きましたかね?」


 威圧が解けたあと、すっかり放置してしまいました。機嫌を損ねてなければ良いのですが……。

 幾人もが吹き飛ばされて荒れ果てたオフィスですが、不思議なことに怪我人の姿は全くありません。まさかあれだけの短時間で、虎ノ井さんが医務室?かどこかへ連れていったのでしょうか?

 訝しく思いますが、今は楓さんです。彼女は──


「えっ? どうされました、楓さん!?」


 楓さんが、女の子座りで床にへたっているではありませんか!? どうし──はっ! 先程彼女のお尻に顔を埋めてしまったのを!?


「すいませんでしたぁ!」


 DO ZE ZA! ここは兎に角土下座です。勢い余ってジャピング土下座になりましたが、今は即対応しかありません!


「──」

「──」


 彼女からの返答は──ありません。

 土下座しているので、表情を窺い知ることも──出来ません。

 こ、これは──イヤまだ顔を上げるべきではありません。楓さんからのお返事を──。


「──さい。」


 っ! 今、何かおっしゃいました!


「えっ……と、もう一度お願いします」

「──ください」


 謝ってください、ですか? そんなの当たり前──


「立たせてください……腰が砕けちゃったんです……」


「はい?」


 予想外の言葉に思わず顔を上げてしまいます。よく見れば、女の子座りで、半泣きの楓さんの姿が。


 更には、役場の同僚になるのでしょうか? 大勢の方々が集まっており、注目を集めていて──それもそうですよね、職場で乱闘騒ぎがあったのですから。


「失礼しますよ」

「ひゃ、えっ、えぇぇぇ!?」


 このまま視線に曝されるのもよくないでしょう。楓さんを抱き上げます。


「さぁ、帰りましょう」


 慌てて開発課をあとにする私達の背後は、集まった人達のどよめきが蠢いていました。




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