第7話 おじさんは貫く

【前話ダイジェスト】

あるんだよ…神様にだって

「着任早々板挟みですか!?」

って不運を嘆く瞬間


【本編】


「んで、おたく、誰よ?」


 私も背は低くはないはずなんです……ここに来て間もないので、おそらく、でしかありませんが。その私を見下ろしながら、虎ノ井?さんが威圧を──これって威圧ですよね? これが主流なのが天界だとか、流石に勘弁なのですけど。


「主任──どけて。切れない」


 虎ノ井?さんを見上げる私の背後からも威圧が──やはり天界は威圧コミュニケーションが主流なんですか?

 そうなると私も威圧すべきなのでしょうが──無理ですね、出来る気がしません。出来たとして、この2人を圧倒できるとも思えません。

 ……結局、自分に出来ることをするしかないんですよね。私に何が出来るの?と問い詰められると、返答に困ってしまいますが。


「楓さん、穏やかではありませんよ?」


 虎ノ井?さんを見上げたまま、背中の楓さんを諫めます。まずは身内に非を認める、これって大切だと思うんです。


「だ、だけど開発課の奴らは」

「楓さんが牙を剥く姿は見たくありませんね。『女性だから』という言葉は嫌いですけど、楓さんには卵焼き頬張っていたときみたいな柔らかい笑顔でいてほしいです」

「なぁ!?」


 背中の威圧が弛みました。これで楓さんは大丈夫でしょう。


「部下が失礼しました。私、本日より相談窓口の主任となりました──あ、あれ? 私は──」

「……一本木和成いっぽんぎかずなりじゃ、ねぇの?」


 虎ノ井?さんが私の胸を指差していました。あぁ、なるほど、ネームプレートがあったんですね、私にも。


「いやはやお恥ずかしい、自分の名を教えていただくことになるとは」

「まさか、来て早々かよ」

「どうか、なさいましたか?」

「いや、こっちの話だ。何でもねぇ、気にすんな」


 虎ノ井さん?が言い淀んでいるのが気になりますが……そうでしたか、私は一本木和成と言うのですか。何故でしょう、凄く納得です。こう、ジグソーパズルのピースがぴったり填まった感じに似ています。


「んで、一本木、これはどう言うことなのか、お前さんは説明できんのか?」


 虎ノ井さん?に名を呼ばれて、用件を思い出しました。


「開発課主任とお見受けします。虎ノ井さん、でよろしかったでしょうか?」

「あぁ、虎ノ井一徹とらのいいってつだ。好きに呼べ」

「では、虎ノ井さんと──単刀直入に言わせていただきます。開発課に汚職の疑いがあります。こちらを……」


 虎ノ井さんに、持参した資料のコピーを手渡します。「写」の字が浮き出たコピーは、私が先ほど都市計画課で確認した資料の複写です。

 ──これを確認している間に、廊下で待っていた筈の楓さんが我慢できずに暴走してしまったのですが。


「こりゃぁ……覚えがねぇな」


 やはり、ですか。

 虎ノ井さんの威圧、いつの間にか無くなっていましたし、口調は乱暴でしたが、彼は責めるような物言いはありませんでしたので。むしろ楓さんに指導する教官のような雰囲気すら感じました。


「おい一本木、こっちに来い」


 眉間にシワを寄せた虎ノ井さんのあとに続きます。


「わっっとっと!」


 彼は金庫を開き、一冊のファイルを取り出すと、おもむろに私に放り投げました。


「お前ならすぐ違和感に気付けるだろうよ。俺はその間に馬鹿どもをふん縛ってくらぁ、茨木に切り捨てられる前にな」



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