第3話 おじさんと卵焼き 時々イケボ
【前話ダイジェスト】
あるんだよ…神様にだって
「ハラスメントが迫ってくる!?」
って焦る瞬間
【本編】
石炭ストーブの奏でる音に薬缶が湯気を立てる音が絡まり、窓からは包み込むような柔らかな光が差し込んでいるオフィス。
今はそこに、幸せな香りが彩りを添えられていました。
「主任は、どう言った経緯でこちらへ?」
声の主は、ふっくらとした甘そうな卵焼きを頬張っています。そしてそのまま箸を咥え「うぅん、美味しっ!」と呟く彼女。
お行儀がよろしくないですよ?と注意しようかとも思いましたが、この部下、先程まで額に角を生やしていたお方なんですよね。言い方を間違えるわけにはいきません……と自分に言い訳し言葉を飲み込みます。決して日和った訳ではないですよ?
「あの……言いにくいこと、聞いちゃいましたか、あたし」
私が返答に困ったと勘違いしたのでしょう。彼女は私の顔を見上げ覗き込んできます……だから、箸は咥えるものではありませんよ。
「いいえ、隠すほどのことではありません」
いつまでも黙っているのも失礼なので、素直にここへ来た経緯を説明することにしました。
「『お前さんにはこの部署が適してるだろうよ』って決められただけですよ。転生前の魂の御祓に、まさか役所仕事があるだなんて、想像もしていませんでしたし」
「あっ、やっぱり主任も御祓で仕事を与えられた口なんですねぇ。あたしと一緒ですね!」
そう……私はつい先日、人としての生を終えました。死因は思い出せないのですが、大半の方が同じように覚えていないそうです。
まぁ、経緯は色々あるのでしょうが、死して輪廻転生を果たす前の魂の浄化……通称:御祓で、様々な仕事を天界で行うことが通例なそうで。
「主任、生前は徳の高い方だったんでしょうねぇ。主任クラスってことは、神の位を授かっているわけですし」
「そのような分け方をされるのですか? 全く知りませんでした。それと、徳が高いなんて、きっと無いですよ、生前を覚えていませんが。それよりもアナタは神の一柱ではないのですか?」
「あたしが神? ないない、あり得ないですよ! あたしは天使の位を授かりましたし。それよりも、あ、あたしが、神?だなんて……くぅ~!お腹痛い! 笑わせないでください、主任~!! くっくっくっ……」
「そんなことないのでは? 鬼も一柱に数えられてもおかしくな──」
「──あっ? ごめんなさい、今何て言いました?」
笑いすぎで涙目の彼女が苦し気に言葉を紡いでいました。──危ない、口が滑りました。どうやら聞こえてなかったようですね……ないですよね?
「まっ、徳ってのは噂でしかないんですけど。でも、ここに配属されるだけの理由は、きっとあったと思うんです。何か言われませんでしたか、転生受付で」
「転生受付で……ですか?」
賽の河原を渡った先のテントにあった転生受付。ずらっと並んだ魂の列で待つこと……半日ほどだったでしょうか?
えぇっと……そうそう、無気力な感じの人が担当でしたね。それで──
「あぁ、確かにボソッと言われましたね『イケボだな、あんた』って」
「ぶふぉっ!」
部下である彼女が吹き出しました。咀嚼中の卵焼きを盛大に噴き出して。
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