第31話 【タイ南部での生活に馴染んだ真】

 ここに来たばかりの頃は、日本から来た外国人ということで、校長は真に気を使ってくれていたため、クーラーがついたお客さん用の特別な部屋を与えられ、野球の練習を終え、子どもたちと一緒に食事をとった後は、実に快適な時間を過ごして来た。

 やはり落ち着いた住む場所が確保されることは、日々の仕事にも、エネルギッシュに挑むことができる。日中、子どもたちが学校に行き勉強をしている間、1日の中でもっとも暑い日中は、その快適な部屋でただ一人、クーラーをかけっぱなしでパソコンを使ってテキストを作成し、一定の時間は昼寝をして夕方以降の野球の練習に備えてきた。

 昼食も基本的には、教職員と一緒に学校の食堂で無償の食事をいただくことができた。仲良くなった先生と時には一緒にトゥンソンという町に出かけて、食事をすることもあった。タイでは日中歩いている人はいない。

 真も初めはそうだったが、外国人はうだるような暑さの中を歩いて移動する。しかし、長く住んでいるうちにすっかりその土地の文化に馴染んでいく。少しの距離でもバイクタクシーがある。少し距離が離れていれば「ソンテウ」に乗って移動する。大きいもので20人くらい座れるだろうか。小さくても10人くらい座って移動する。

 ソンとは数字の2、テウとは列という意味の言葉、つまり、トラックの後ろに屋根はあるが、2列のベンチのようなものが積まれていて、ギュウギュウに詰めて座る。体育学校からトゥンソンまでは、30分くらいかかっただろうか。だいたい5バーツくらい(当時は円高のため15円、今は円安が進み20円くらい)でかなりの距離を移動する。停留所までスピードが出ると風をまともに受けるため暑い日でも意外と快適だ。

 タイ南部の料理はタイの中で一番辛いため、よくイサーン(東北地方)の料理を食べに行った。今、振り返るとイサーン料理だって十分辛いのに、南部の口から火が出るようなカレー類から逃れるためにイサーン料理など、地方の料理を楽しむために外食を楽しんだ。

 さて、コーチのポーンと一緒に毎日の野球指導は続いて行った。日曜日は完全休養日。その他の日時を生徒たちも主体的に練習に取り組めるようにするために、オフェンス中心、ディフェンス中心の曜日に分け、朝のトレーニングもできるだけ野球に必要な動きを入れたトレーニングを取り組ませていた。

 明らかに子どもたちの動きがよくなってきた。基本動作も身についてきたことが大きい。たとえ時間はかかろうとも一見つまらない練習に感じたとしても、丁寧にそして前向きに楽しく取り組ませてきた効果が現れてきた。子どもたち自身がその効果を感じたのは、大人たちとソフトボールの試合に参加してきた時だった。

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