第10話 【徹して学んだ大学時代】

 大学に入学後は、大学での勉強に加えて藤井さんを見習い、世界的な文学作品をむさぼるように読んだ。吉川英治の歴史小説、三国志では「天下三分の計」を描き、その理想を共有した劉備とともに、生涯にわたって自身の理想のために生きる諸葛孔明の生き方に感銘を受けた。

 多くの本を読んだが、中でも真の心をとらえたのは、ロシアの文豪トルストイで、彼の作品はほとんどを読破した。彼の死生観は真に大きな影響を与えた。最も好きな作品は「戦争と平和」である。この作品は、真が抱いていた歴史観を一変させるものであった。

 歴史は1人の英雄によって作られるようなものではなく、その時代に生きる全ての民衆によって作られるという歴史観や、無敵のナポレオン軍に対して、ロシアのクツーゾフ将軍は「忍耐」と「時」を作りながら、最後はロシアの厳しい「冬将軍」をも味方につけて大勝利するという人生哲学を学んだ。

 高校時代とは全く違うタイプの人間に生まれ変わった真は、なんと高校の教員の資格を取って故郷に戻って来た。高校時代を知る友人たちは、声をそろえて言った。「真が教員になったら地球を破滅させることになる」と。まるで天地がひっくり返るような事実を受け入れられなかったのだ。

 高校時代は全く勉強をせず、何でもやりたい放題で、悪逆の限りを尽くした姿から、まさか教員となるとは誰にも想像もできなかったし、認められない現実だったのだ。それは誰よりも真自身が一番わかっていたことである。

 多くの人を傷つけたこともある。何よりも高校生本来の本分である勉強を怠り、その時に通るべき道からはずれていびつな形で高校時代を過ごしてしまったからだ。

 それでも素晴らしい出会いから、マイナスの歴史をしっかりリカバーした学生時代に、トルストイ文学をはじめ古今東西の名作を中心に学び抜いた真は、暗い過去を乗り越えて成長し、故郷・北海道に帰って来たのである。

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