第2話

ぼくは小学生になった。

入学式が終わって、机の上に貼ってある自分の名前の席に座った。幼稚園のころ、みいちゃんとしかほとんど遊んでこなかったので、まわりは知らない子ばかりだ。

きょろきょろ目新しい給食袋や黒板を眺めていると、

『ねぇねぇ!ゆうちゃん、、って呼んでもいい?わたし『さとちゃん』っていうの。ともだちになろ。よろしくね』

と、ショートカットでかわいらしい女の子がきらきらの笑顔を向けてぼくに声をかけてきた。名前は名札で確認したのだろう。

『よろしくね』

ぼくは今の年だからわかるが、笑顔を相手に向けているつもりでも、表情がわかりにくいらしい。その時も緊張しながらも精一杯笑顔を向けたが、相手は首をかしげて次の友達候補者に声をかけに行った。

ざわざわした教室に先生が入ってきた。名簿を脇に抱えてドアを豪快に閉める。

『元気だね』

教卓に名簿を置く。

『これから担任になる井上まさみ、といいます。えーっと、まさみ先生と読んでください。みなさんと一緒に楽しい学校生活を送りたいなと思っています。よろしくおねがいします。』

黒板に-いのうえ まさみ-とチョークをカツカツならして書いていく。

少しふくよかでパーマをかけたまさみ先生は、パツパツのスーツを着ていた。腹式呼吸がしっかりしているのか、とても響く声を出す先生だ。

『とつぜんですが』

先生は呼吸を整えた。

『早くクラスのみんながなかよくなるために、全員に自己紹介をしてもらいたいと思います。えーと、では、、』

手元の名簿を確認してからぼくをみて、にこっと微笑む。

『ありさわゆうさんからおねがいします。』

あいうえお順で並べられた机では、あ行の人間は案の定先頭になることが多い。

その時は初めてのことで緊張していたので真っ赤になっていたと思う。周りを見るとさとちゃんがキラキラした目でぼくを見ていた。

もう友だちになったのだから当然か。

ドキドキする胸を押さえ込み、ふるえる声で勇気を振り絞って挨拶をした。

『えっと、ぼくは、ありさわ ゆう といいます。よろしくおねがいします。』

お辞儀をして拍手が起こる。さとちゃんも笑顔で手を叩いていた。ほっとして席につく。


先生もいっしょに『はい、よろしくおねがいしまぁす』と拍手をして、喝采がある程度静まってから眉毛をハの字にして声を発した。

『ありさわさんは、女の子だから『ぼく』ではなく『わたし』と言った方がいいかな、もう小学生だからね』

笑い声が上がった。

わたしは、なんだか頭が真っ白になって次からの自己紹介が耳に入らなくなっていた。

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