第11話

 髭をそる。そして、自分の命を拾う。


 何とか死なずに済んでるが、チカとアイについて考えた。

 チカとアイの凶器は、本物だろう。

 考えたくないが、チカとアイは存在する。

 だが彼女らと戦い、ましてや殺すことなどできない。

 俺は日和見主義の平和主義。骨の髄まで小市民の日本人なのだ。一線は超えられない。


 だが、黙って殺されるつもりもない。

 凶器を避け、現実も空想からも逃げ回り、ついでに人生100年逃げきる予定だ。


「ふ~。うぉっ!」


 部屋のドアを開けると、ギロチンが降ってきた。

 身体ごとバックステップして避ける。

 手足も命も失う寸前だった俺は、青い顔で部屋の中を見た。

 チカとアイは…いない!?

 俺はギロチンをまたぐと、部屋の中に入った。

 わざと開け放しにしたドアが突然閉まる。


 まさか

 これは


「罠の中、か?」

 途端に後頭部の毛がざわつき、肩が自然と上がり、爪先立ちになる。

 部屋の中は整理整頓されていて、今立っているここが自分の部屋とは思えない。

 そろそろと周囲を見回す。

 床を見た。トラバサミがあった。殺す気満々だ。

「だとしたら、からめ手すぎる…。」

 俺はふと、本当に妖精の所業か疑った。

「チカ?アイ?」

 二人の声はしない。

「おい、ふざけ…おっと。」

 ドア近くから部屋中央へ行こうとして殺気が『見えた』。

 俺はドアまで身を引くと、槍が飛んできて壁に刺さる寸前で消えた。

「どういうことだ?」

「こういうことよ。」

 声の方を向くと、いつの間にかチカが弓を引いていた。

「アンタを狩猟するの。」

「待て、俺は鹿じゃない。」

「豚でしょ。」

「何でもいいから、獲物扱いしないで弓をおろしてくれ。」

「うるさい、心臓に撃ち込んでやる!」

 チカの弓矢が震え始める。

「手が、痺れて、きた。」

「危ない!危ないって!わっ。」

 放たれた矢は俺をかすめ、また壁に刺さる寸前で消える。

「ちっ、外したか。」

「矢とか槍とかどうなってるんだ?」

「そりゃ証拠を残さず、てアンタ何キョロキョロしてるのよ?」

「いや、アイの奇襲を警戒してる。」

 見回すと、薙刀を手にしたアイが俺の後ろに立っていた。

 どうやったんだ?

「…見ないで。」

「見なきゃ振り下ろすつもりだったろ。」

「なら刺す!」

 下からえぐり込む様に突いてきた薙刀を半身になって避けた俺に、アイだけでなくチカまで驚愕する。

「ほんっっと、生存能力だけ高くない!?」

「このしぶとさを転生してから発揮すればいいのに。」

「死んだ時点でしぶとくないだろ!」


 俺の生存能力、上昇中。

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