第8話

 どんなにドタバタでも、眠りだけは死守したい。


 うん…。

「このゴミ本気でどうしよう?このままじゃ生産性がないんだけど。」

 チカの声が聞こえる。

「寝込みを襲って良くない?とっとと処してしまいましょう。」

 アイの言葉が聞こえる。

 どっちも無慈悲だ。

「じゃ、寝込みを強盗に襲われて処されたと言うことで。」


「いい加減にしろ。」

 俺は起き上がった。


「わっ。」「おっ。」

 ハンマーを手にしたチカとアイがリアルな驚き声をあげる。

「何てことしようとしてるんだ。油断も隙もない。」

「何で…?寝てる時はボスが出て説得にあたる様にしてたのに。もしかしてサボった!?」

「道理で最近、夢の中が女神一色だと思ったよ。どういうつもりだ?」

「昼はアタシ達夜はボスが説得にあたれば、神経やられてワンチャンあるかな〜、と思って…。」

「もうやだ。」

 口癖になった言葉を吐きながら、俺は布団を直した。煎餅めいた布団に空気を送り込み、側面を軽く叩いて柔らかくする。


「俺は問いたい。君たちはいつになったら消えるのか?俺は引き篭もってるから事故にも通り魔にも合わないし、死ぬつもりも殺されるつもりも毛頭ないぞ。」

「じゃ、面倒くさいから謎の死を遂げたということで…。」

 首吊り紐らしきロープを出してプラプラ振るチカと、枝切りバサミを開閉するアイを見て、俺は青ざめた。

 こいつら、道具をどこからだしてるんだ?四次元ポケットでもあるんじゃないか?

 俺は投げ縄となって襲ってきたロープを避けた。

「アイ!」

 アイがハサミの先端を向ける。

「死ねるかっ。」

 俺の方に飛んで向かってきたアイのハサミを避ける、避ける、避ける。

「何でそう逃げ回る事だけ異様に上手いの!?世の中から逃げてきたから!?」

「死にたくないからだよ!」

 逃げ回る内に、俺はアイのディフォルメ狂った大きな頭を掴んだ。


 それはゾッとするほど柔らかく、40年間皮膚で感じたこともない宇宙的恐怖を伴う奇妙なマシュマロ感があった。


 手が溶けるんじゃないかという錯覚までして、慌てて手を引っ込めた。

「何なんだ!?何なんだ!?君たちは一体。」

「…どい」

「えっ!?」

「酷い!妖精の身体に触れといて、何なんだじゃないわ!本格的に死ね!」

 涙目になったアイはハサミでなく沢山の凶器を手にしていた。


 俺にすべきことは一つ!

 部屋を出て、トイレまで逃げた。

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