第5話

 ここまできたらもう大人の発達障害でもあるんじゃないかと思ってネットでテストしてみたら、一切合切普通の人でした。

「だから言ってるじゃん。この世界から怠惰に暮らす普通の人を転生させ異世界侵略の為に、おっと。」

 チカが部屋をふよふよと飛ぶ。

 どこから浮力が発生しているかは謎だが、どうせ幻覚なのだからどうでも良いのだろう。


 それより、


「侵略がどうとか言わなかったか?」

「そうよ、次期勇者様。」

 チカの言葉にアイが付け足す。

「どういう事だ?」

「私達が目的もなく貴方なんぞに接触する訳ないじゃない。異世界の困難に立ち上がるのはそこに住む世界の人間だけという所に、貴方を女神様からのエージェントとして送り込む。駄目だったら探し直せばいいし、上手くいけばその世界で女神様への崇拝が始まり、女神様は神としての神格を上げてより完全な至高神の座に一歩近づく。単純でしょ?」

「つまり、俺は女神様の養分にさせられるのか?現実に死んで、あの世みたいな形で異世界へ。」

「そういうこと。だから、」



「ここにある黒いお薬飲みましょう。」



「薬物ダメ、ゼッタイ。」

「痛みはないわよ。皆何故か喉を押さえてもがき苦しんで死ぬけど。」

「駄目じゃねぇか、死神ども。それと、」

俺はふと切ない記憶を呼び起こした。

「異世界転移、てのはあるのか?」

「そのたるんだ身体でヴァイリーシアの大地を踏める訳ないでしょ。異世界舐めんな。死んで出直せ。」

 お下品に中指を立てるチカを横目に、アイはどこから出したのか熱い茶を啜った。

 ヴァイリーシア。そこが俺の転生予定地らしい。

「ちなみにチート能力とか当然あるんだよな?」

「ないわ」

 アイが断言した。

「?はい?」

 俺が聞き直す。

「チート能力って、あれは神格を削って渡すものなの。悲しいかな女神様は神としてまだ末席におられるお方。世界の寄生虫に使う神格はないの。」

「それなら、貴族とか身分高い生まれになって策謀とかして…。」

「知らないわ。」

「?はい?」

「どこの誰に転生するかなんて、この世の秘密を知り尽くした全能の至高神にならなければ分からないもの。最も、至高神は貴方がどうなるかなんて知ろうともしないでしょうけど。」

「生まれも完全ランダムで、チート能力なくて、それで異世界を救え、てどうするんだ?」

「それこそ知らないわ。」

 アイはプイとそっぽを向いた。


「チカ」

「アタシも知らないし。呼び捨てすんなこっち向くな歯周病がうつる。」

「失礼な。歯だけは健康なんだ。歯だけは。ヴァイリーシアのことを教えてくれ。興味がある。」

「なら死ぬことね。」

「もうやだ、この人殺し。早く消えて貰えませんかね?」

「女神様のお眼鏡に叶ったんだから駄目。」

「そんなぁ。」


 俺は天井を仰いだ…。

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