第4話

 ニートという言葉は近年生まれたものだから定着こそしていないが、ニート文学というジャンルがある。


 古くは高等遊民と呼ばれていた奴らからこっそり脈々と受け継がれたもので、ニートである必要はないが、日常を怠惰に生活し、それをエッセイのように書いて需要を見い出せばそれを頼みに生きるという絵に書いた餅のジャンルだ。


 主人公は高等遊民を許せないという、多様性を叫ぶ割に不寛容な昨今の風潮に従い、大学生として描かれることが多くなった。

 何かモラトリアムしている大学生が将来のキラキラした夢と奨学金という絶望に立ち向かって勉学にバイトに汗を流し毎日を過ごしている訳ではない日常がそこに描かれる。

 そこに年齢を10から20ほど足して欲しい。ニート文学の出来上がりである。

 時間という生物共通の一方通行な存在を前に、ボーッと生きてる奴等が俺を含めて一定数いる。

 ニート文学が論じられるときは、それは日本が豊かで平和な時代にある証である。

 餓死が少なく徴兵がない時代でないと、ニートは生きていけない。ガスでなく世の中という毒を感じて死ぬ炭鉱の中のカナリアだ。


 ニートは収入のあるネオニートにならなければ、どんな奴でも貧乏になるだろう。だが、真っ当と言われてるのに真っ黒な仕事について神経と内蔵をすり減らし死にたくなって自殺までする人に比べて天寿を全うできる可能性は上がる。



つまりですね…。




 俺はチカとアイにニートの話をしていた。

「ふーん。つまり、ニートの奴らは転生した方がこの殺伐?とした社会の為、てことだね。」

 チカが耳の中を小指でほじった。

「いくらニート相手でも、転生って人が死ぬから止めましょうねという結論まで話をしてから判断して頂けません?」

「それは無理。おじさんの長話ほどつまらないものはないもの。」

「」

「何よ?」

 二の句がつげない俺を無視して今度はアイが喋りだす。

「そんなに死にたくないのに、どうして生きようと足掻あがけないの?」

「本人は一生懸命になって足掻いているのに前に進まないことがありまして。いっそ後ろに流されても生きていけるなら足掻く必要もないのですけど。」

「あら、貴方そんな足掻いてるっけ?働いてる人より?」

「ごめんなさいミジンコ以下ですごめんなさーい。」


 俺の声は、部屋に弱々しく響いた。

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