第2話

 転生の女神の下僕達によれば、様々な人間を無差別に転生させる魔神と、転生すべき人間を転生させる彼女たちの間で争いが起きているという。


 女神の言う転生すべき人間を聞いて、俺は目の前が真っ暗になった。


 年齢30以上。

 いかなる就役にもついたことがなく、またこれからもその意志のない者。

 異性との性的経験が無ければより好ましい。

 などといった生々しい内容で、無職の中年が自殺する原因をみつけた気分になった。


 勘違いしないで欲しいのは条件が一致しても転生できないことで、人間では図りしれぬ何かでふるいにかけられ、何らかの数値の数量によって決まるらしいし、天寿に比べて自殺では人間の値というか総量らしきものが減るのだとのことだった。


 自殺で全てが終わるのはそれこそファンタジーで、現実には残る遺体、後ろ指をさされる遺族、適切に遺体が骨になるまでの通夜葬式の労苦と費用に、骨壷の管理までと周囲に終わりはない。

 未遂ならば膨大な治療費や訴訟をかかえるケースはざらだ。

 死にたくなっても自殺しては駄目だと根拠を持って言える。


 しかし、40にもなって労働歴なしの男に説得力がないのもまた事実だ。40までふわふわ生きてる奴がこの世にいるだけで阿呆らしくて死にたくなくなったなら幸いだが、ニートはまず社会から黙殺されている。



 俺の目の前で巫女姿の妖精チカとアイが喧嘩を始めた。

 タイトルは「博をどうやって転生させるか?」

 口論はヒートアップしていた。

「博は40になるまで『生きる力』を失っていたではないですか。こんなの楽勝だって言いましたよねチカ。」

「アンタだってこんな安牌な転生案件ないって微笑んでたじゃん、アイ!酷くない!?」

「酷いといえばやっぱり博よ!フライングでやって来た女神様にお会いして、きっぱり転生を断るなんて!どの面下げて生きてるのかしら!?」

「本当よ!どの口で、生きていたいから嫌です、よ!」


 途中から俺の悪口大会が始まった。

 彼女らの言葉を聞きたくなくても聴神経にでも響いてくるらしく、否が応でも聞こえてくる。幻聴だ。


 と、


「もういい、こいつぶっ殺す!」

 チカの手にはデカい鎌が握られていた。

「ちょっとまてなんだそのデカいのは?」

「女神様から借りてきた。」

「女神様がデカい鎌ってやっぱ女神は死神じゃ…おい、それをもってくるな近づけるな止めろー!」


お父上お母上。博は皆様のお陰でかろうじて生きてます。

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