第12話 エピローグ
事なきを経て、結婚式は終わりを迎えた。久しぶりに人前に立った緊張で気を張っていたのか、家に着くなり疲労がピークに達してベッドに倒れこんだ。我ながら、結構頑張ったと思う。大役を務めた安堵と彼女の旅立ちを無事見送れたことに一安心すると、気が抜けて急に眠気が襲ってきた。
それから、どれくらい時間が経っただろう。目を覚ますと、外はもう真っ暗だった。ふと携帯に目をやると、今日撮った写真が気になってフォルダーを開いてみた。思っていたよりも、たくさんシャッターボタンを押していたみたいだ。
それらを整理しようと見返すと、そこに写る彼女はどれも幸せ溢れる笑顔でいっぱいだった。それらはまるで長かった私の恋の終わりを告げるかのように、辛い現実を容赦なく突きつけてきた。
本来なら今頃、彼女の人生の新しい門出に立ち会えたこと、一生に一度の晴れ舞台を見届けられたことへの感傷に浸っていたはずだった。なのに今はそれどころか、とてつもない寂しさと虚しさが私の心を支配している。私にとって彼女がどれだけ大切な存在であるかを、痛いほど思い知らされている。
結婚報告を受けてから、心の奥底にしまい込もうとしていた彼女への想いが一気に溢れ出て、その日は一晩中涙を止めることができなかった。私が彼女に抱いていた想いは、いつの間にか親友に向けての域を超えて、愛しい人に向けたものになってしまっていたことを認めざるを得なかった。
いつか、こんな未来が訪れることは覚悟してきたつもりだった。なのに、いざそのときが来てしまうと、こんなにも辛く切ないのか。想像以上の心の痛みに、胸が押しつぶされそうになる。底が見えないほどぽっかり空いたこの心の穴を埋めるには、一体この先どれくらいの時間が必要になるだろう。
「結婚しても、私たちの関係は何一つ変わらないし、みっちゃんは私にとって愛しい人と書いて、あいじん……じゃなくて、親友っていう言葉じゃ言い表せないくらいの、唯一無二の大切な“まなびと”……だから」
結婚式の私の座席のネームプレートの裏に、彼女がひっそりと忍ばせてくれたこのメッセージを私は一生忘れることはないだろう。
彼女のことを想うと同時に、彼女の幸せを誰よりも願っている。だから彼女が困るようなことは絶対に言いたくないし、これからも言うつもりはない。だけどもし許されるなら、これだけは伝えたかった。
もし生まれ変わって、また巡り会うことができたら、そのときは性別や周りの目なんて関係ないし、もう遠慮なんてしない。そのときは、二度と後悔しないようにちゃんと彼女に伝えたい。
結婚おめでとうじゃなくて、結婚しよう……と。
愛人(まなびと) 大宮 りつ @yun05
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます