第11話 愛しき人へ

 式は順調に進んでいき、あっという間にスピーチの時間になった。

 司会者に名前を呼ばれると、強張った顔を隠せないまま前に出た。緊張はピークに達していたが、意を決してマイクのスイッチを入れた。


 「真耶との最初の出会いは、中学生のときでした。友達ができなかった私に声をかけてくれて、お昼ご飯を一緒に食べたことを今でも覚えています」

 最初に出会った頃と同じような優しい笑顔で、彼女がこっちを見つめている。


 「学校が同じだったのは中学の3年間だけでしたが、その後も真耶とは、お互いの家を行き来して遊んだり、誕生日を一緒にお祝いしたりして、気づけば15年もの時が過ぎていました」

 零れ落ちそうになる涙を必死に我慢しながら、霞みそうになる原稿の字を目で追いかける。


 「社会人になって社会の荒波に揉まれたときも、知恵を出し合って一緒に『生存戦略』する方法を考えました。仕事熱心で休日も勉強する真面目さや、壁にぶつかっても諦めない真っ直ぐな姿勢。辛いときに話を聞いてくれて、私の代わりに涙を流してくれる。そんな思いやり溢れる優しさを持つ彼女は……」

 だめだ、あと少しなのに……。彼女への愛しさが溢れて止まらない。

 私の方が、新郎より彼女のことをよく知っている。私の方が彼女と過ごした時間はずっと長いはずなのに、どうして今、彼女の隣にいるのは私じゃないのだろう。


 「そんな、真に強くて真に優しい真耶は、その名前にふさわしい人間味溢れる素敵な女性です。そんな彼女の友人でいられること、今この場に立たせていただけることを心から感謝しています」

 私の代わりに泣いてくれたあの日と同じように、彼女は静かに涙を流していた。

 

 本当はここに立って、彼女を泣かせたかったんじゃない。私が本当に立ちたかったのは、彼女の隣だったのに……私が彼女を幸せにしたかったのに、その願いはもう一生叶わない。


 「最後に、これから夫婦としてお二人が、人生を共に歩んで行かれることを心から祝福し、末永い幸せを願っています。真耶、結婚おめでとう」

 

 歓声と拍手が会場に鳴り響き、私の出番は終わった。これでよかったんだ。平然を装って席に戻ろうとすると、彼女が席を立って後ろから私に抱きついてきた。


 「みっちゃん、その原稿私にちょうだい。みっちゃんからの大切なお祝いの言葉、一生の宝物にする。本当にありがとう」

 「真耶、すごくきれいだよ。真耶が選んだ人ならきっと大丈夫。自信を持って、この先の道を二人で歩んで行きな」

 「うん、みっちゃん大好きだよ」

 「私もだよ……」

 

 それ以上は言葉にしてはいけないと思いとどまった。これでよかったんだ……。

 新郎と一緒にいる彼女は、自分を騙すための偽りの笑顔ではなく、そこにある幸せを噛みしめた満面の笑みだった。それを見ることができただけで私にはもう十分すぎた。

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