第5話 夢と飯
「俺のやりたいことはさ、冒険者なんだよ。こう、なんて言うかさ?魔物を倒して人を守ったりさ、ダンジョンを攻略してすげーお宝見つけてさ、お金持ちになってさ、美人な嫁さん貰ってさそんで結婚すんだよ。いいだろ?」
「ああ、かっこいいな」
いや、可愛いな。
「そのために商人に冒険者ギルドの話とか聞いたり、悪い奴らに騙されないように金の勉強してんだ」
そっか、頑張ってるんだな。自分のやりたいことのために。俺も小さい頃はなんでも出来ると思ってたな。こいつみたいに色んなこと知ろうとして努力してれば叶えられたのかな……
「頑張れよ。ちゃんと努力が出来れば絶対なれるさ」
「おっさんはやめとけって言わないのか?親にも今まで会った商人にもみんなにもやめとけって言われたんだけど。危険だから荒くれ者だからって」
案外そうゆうイメージなんだな冒険者って。もっと英雄みたいな扱いがされてるもんだと思ってた。
「いいんじゃないか?冒険者。魔物を倒して人を守るなんてかっこいいよ。人生いつ終わるか分からないんだからやりたいことはさっさとやっといた方がいいぞ」
「おっさんいいこと言うな!そうだよな、やりたいことやるべきだよな。ありがとよ」
「頑張れよアイク」
そう言うと目をキラキラ輝かせて頷いて、満面の笑みを見せるアイクはこの世で1番かっこいいのかもしれない。
階段を降りきって酒場や鍛冶屋を案内されたあと、この村の広場にやってきた。
広場というか、公園というか。真ん中に用水路が流れていて左右に分かれている。あまり広いとはいえずお祭りの屋台が20個並ぶかどうかの広さだ。
「ここで毎週市場が開かれるんだ。ちょうど明日だな、おっさんももちろんやるんだろ?」
「当たり前だ。頑張らなきゃな」
言われて思い出した、売らなきゃ金がなくて罰を受けることになるんだよ。頑張らなくちゃ、やばい。
「じゃあ村の大体は回ったしそろそろ帰るか。最後にちょっと着いて来てくれよ」
「どこ行くんだ?」
「ちょっと俺ん家にな。仕事サボったから怒られないように言い訳したいんだよ来てくれ」
「別にいいけど、俺が行ったくらいで言い訳出来んのか?」
「いいから、いいから」
言われるままに迷路みたいな道を進んでいくと、村の外に面したアイクの家に着いた。
「ここが俺の家だ。ちょっとここで立っててくれ」
待つこと数分、怒っている女の人が扉から出てきた。
「おい!あんたうちのアイクを連れ回して案内させたんだって?なんてことするんだい。アイクはうちの働き手なんだ、いなくちゃ飯が食えないだろ!どうしてくれんだよあんた!」
あいつやりやがった。
言い訳って俺に罪を擦り付けただけじゃないか。俺が怒られるのかよ。
もう絶対にあいつに飯はやらん、1日案内してくれたから良い奴だなと思った俺が馬鹿だった。
こんなちゃんと怒られるなんて恥ずかしくてしょうがない。絶対許さんぞアイク。
結局そのままアイクの母と思われる人に怒られ、イライラしながら宿に帰る羽目になった。
「はぁー、カイオー今日もかっこいいなお前」
そう言うとどことなく誇らしげになるこいつが可愛くて仕方ない。とりあえずアイクのことは忘れよう、怒ってもしょうがない。
ちゃんとお世話もしてもらってるみたいだしその分しっかりお金払わなくちゃ。
腹も減ってきたし部屋にに戻って飯食うか。
「じゃあなカイオー」
「おう、おかえり。どうだった?この村回ってみて」
「いいところですね。特に村長さんの屋敷の庭からみた景色は最高でした」
「あんたあそこの庭に入ったのか?」
「え、入りましたけど?」
「だめだよあそこに入っちゃ。村のガキ共はいつも入ってるけど、バレたらこっぴどく怒られるんだよ」
またやられた。あのクソガキ。大丈夫だって言ってたのは嘘かよ。
「すみません、今度からは気をつけますので」
「ま、確かにあそこからの景色は綺麗だよな。行くなら昼ごろがいいぞ。村長も仕事してるから見つからずにすむ」
「え?入っていいんですか?」
「バレなきゃいいんだ、俺も昔は隠れて行ったもんだ。あと夜飯もう食べれるからな、混む前に早めに来た方がいいぞ」
「分かりました。すぐ行きますね」
結構やんちゃそうだもんなおじさん。
あそこの景色はずっと見てられるしまたこんどこっそり行ってみようかな。でもあのクソガキだけは許さない。
部屋に戻って、カイオーに会ったついでに馬車から取っておいた服を着て宿と一緒になっている酒場行く。
1日歩いて服も汚れたからな。体はどこで洗えばいいのか後で聞かなくちゃ。
「どうも、夕飯お願いしてもいいですか?」
宿屋のおじさんがこの店もやってるのか。
「おお来たか、今日はステーキさ。すぐに用意するから待ってろ」
ステーキ。なんとも心地良いひびきだ。肉なんてどう食っても上手いからな、俄然楽しみだ。昼飯食べてないこのお腹には最高だな。
数分経ったか、おじさんが木の皿に乗ったステーキを持ってきた。
「ほら、ジロンド飯屋特製【キラーボアのステーキ】だ。食いな」
キラーボア?殺し屋イノシシ?物騒すぎる名前だな。
それにここジロンド飯屋って言うのか今更ながら知ったよ。文字とか一切ないんだよな、ここ。
「あんたキラーボアのこと知らないんだろ、そんなにビビんなくていいさ。大層な名前が付いてるけどただのイノシシと変わらないからよ。昨日この村の裏の森で狩ったやつだ」
昨日狩った?イノシシを?だれが?
「だれが狩ったんですか?」
「そりゃあオレに決まってる。たまに森に入って魔物とか森から降りてくる野生の動物を狩ってるのさ。そうすれば食材も安く済むし、村の安全も守れるだろ?」
いや、そんな屈託のない笑顔で言われてもな。見たところもう50は優に超えて60くらいに見えるけど、若すぎやしないか。
でも今はそんなことどうでもいい。やるべきことは目の前に置かれたこれを食すのみ。
「いただきます」──これは!
口の中に広がる野生の香り、溢れ出す肉の汁。噛んでも噛んでも溢れて口の中がびちょびちょだ。それにトランポリンができそうなほどの肉の弾力。
うん!くそまずい。
どうにかして頭の中を騙そうとしたけど無理だ。
食べる前からわかる肉の臭み、ギトギトでしつこい肉の脂。噛んでも噛んでも噛みきれない硬すぎる筋。
聞きたいよ、どうやったらステーキをここまで不味くできるのか。
「どうだ上手いか?野性味溢れて漢の飯って感じだろ」
「そ、そうですねー」
俺の味覚がおかしいのか?それとも文化が違いすぎて、これが美味しいと感じるのが普通なのか?
一瞬ドッキリかなんかかと思って、持ってるこのナイフ投げてリアクションするところだった。
もうこれ以上は食えん。早く部屋で休もう、俺無理かもしれないこの世界。
その後今日はちょっと体調悪いみたいだと言ってすぐに部屋に戻った。
ほんとに体調悪くなったから嘘じゃない。
「鼻の奥にずっとあのイノシシが住みついてる。臭くて仕方ない。もうさっさと寝よう、明日には消えていくれ」
体洗うの聞き忘れたな、まあいいか。
──よく寝たな。
結局昨日はずっと寝れなくて、馬車からおにぎりとか持ってきて食べたんだよな。
それで酒でも飲むかって言って、久しぶりにお酒飲んでおつまみ食べて……
「あーー!!!」
まて、まてまてまて。窓の外がめちゃくちゃ明るいぞ、これ朝の明るさじゃないよな。
やばい、市場が。早く行かなくちゃ、やばいやばい。
この起きて遅刻を確信してからの準備、出発は産まれてから何回も経験したが、この時のスピードは過去最高だったと思う。体感30秒で起きてから外に出た。
おじさんにあいさつをする暇もなく外にとび出て、カイオーを出して荷台と合体させて昨日行ったあの広場まで死ぬ気で、いや多分本当に人が死ぬ速さで出ていった。
「終わった……」
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