第4話 案内と知識
口の中に詰め込んだサンドイッチも大分飲み込めたようでようやくまともに話せるようになった。
「そもそもこの村はなんて名前なんだ?」
「そんなことも知らないで行商人やってるのか?この村はアロー村って名前だ。アルザス国の中の普通の村さ」
アルザス国のアロー村か。
「村と言うには大きい気もするけどそんなことないのか?」
「村って言ったらだいたいこんな大きさだと思うぜ、この村から出たことないから分からないけど、大きいなんて聞いた事ないからな」
結構入り組んではいるが、道もしっかりあって宿もある。歩いて見るとそれなりに店もあるし、これが普通の村なのか?
どんどん進んでいくアイクに着いて行って見るが、人にものを教えるのが好きなのか、ずっとこの村のことを話している。
「この村を半分にするように真ん中に用水路が流れていて、そこから水を組んで使ってんだ。それが矢みたいだからアロー村っていうんだってよ。1番上がこの村の村長の屋敷さ」
村長って聞くとちょっとしたリーダーみたいな感じするが、意外にすごいんだな。俺のイメージの村ってどうぶつの○だから村ってあんくらい小さいものと思ってた。確かにあれってどっちかって言うと集落とか部落だもんな。
「村長の屋敷のちょっと下にでっかい水車があるだろ?あそこが粉挽き屋であそこのやつがこの村で1番金持ってて、1番嫌われてるんだ」
「嫌われてるのか?」
「ああそうさ、あいつはこの村を持ってる領主さまから免許を貰って粉挽きをしてるんだ。麦をあの水車で粉にするのに使用料と税金を払わなきゃ使えねぇ。金にがめつくて意地汚い嫌われ者さ」
金を払って麦を粉にするのか。多分パンが主食だろうから死活問題だろうな。
村の嫌われ者粉挽き屋か覚えておこう。
それにしてもこうゆう話って面白いよな。小さい頃から算数も英語も国語も好きじゃなかったけど、社会と歴史だけは好きだったんだよな。ノートとるわけでもなく先生の話をずっと聞いてたな。 吉田先生どうしてるかな今。
話しながら歩いていたら結構来たみたいだ。
「そろそろ着くぞ、村長の屋敷。階段を登ったらすぐだ」
「いいのか? 勝手にに入って行って。人の家だろ?」
「大丈夫、村長の家の庭は誰でも入っていいことになってるんだ綺麗なとこだぞ」
そう聞いてアイクと一緒に階段を登って行った。
階段を登りきって顔を上げるとすぐ目の前に村が一望できた。
アイクの言った通り村を突き刺さすようにまっすぐ用水路が川のように流れていて、村の周りは牧草地と畑に囲まれ、村人と思われる人達が働いている。
だんだん日が高くなってきて日差しが強いが、カラッとした陽気と、静かに吹く風で気持ちがいい。
深く息を吸うと裏の森の木々と太陽の匂いが鼻の奥に広がる。
「これは…すごいな」
「だろ? ここはいつ来ても気持ちいいんだ。たまに家の仕事抜け出してここ来るんだけど、最高なんだよ」
しばらく村を見渡して惚けていた。ずっと見ていられる。
「おい聞きたいことがあるんじゃねぇのか?ずっと見とれてんのもわかるけどよ」
「あ、ああそうだこの国に来たばっかりでまだ何も知らないんだ。俺の国は魔法もなかったからな。お金の単位とかこの国の風習とか、とにかく何でもいいから知りたいんだよ」
「珍しいな、魔法が無い国なんてこの辺であったっけ?」
「い、いやほんとに遠い国でさー」
「まあいいけど。いいか、ここはアルザス国だ。その中にいくつもの領があってさらにその中に村とか町がある。」
さっきの会話で聞いたやつだな。アルザス国のアロー村。
日が高くなってきてお腹空いてきたな。
「そろそろ昼だけど飯は食わなくていいのか?」
「飯?なんでだよ」
「そりゃあ朝、昼、晩と食う中の昼の時間でしょ」
「どんな国から来たんだよおっさん。1日に3回も飯食ってたらいくら働いても飯代に消えちまうじゃないかよ。普通は朝と晩だけだ」
「それじゃあお腹空くだろ。やっぱり違う国から来たから全然ちがうな、俺も我慢するか」
前世でも昔は1日2食だったって言うけど、そうゆうもんなのか?
「腹減ったなら思いっきり腹に力入れてみろちょっとは気が晴れるぞ」
やってみたけど全然効果なし。ずっと腹減ってた。
「まあいいや。で、あと魔法についてだけど、魔力っていう目に見えない力を外の外に出すものと思えばいい。あの宿に泊まってるってことは契約の水晶に触っただろ?あれみたいに何かを通して自分の体の中の魔力を外に出すっていうのが魔法さ。杖でも剣でも、それこそ、その辺の葉っぱからだって魔力を出すことができる。けど葉っぱとかは魔力を出せる量が少ないんだ。なんでかは忘れちまったけど」
じゃあ誰にでも魔法が使えるってことか。もしかして俺も魔法で雷とか出せちゃったりするのか?
魔を秘めた俺の左手が疼くな。
「それで、その魔法を使って魔物を倒したり、ダンジョンを巡って宝を手に入れるのが冒険者ってわけよ。まあ冒険者くらいどこにでもいるか、わかったか?」
冒険者に魔物とダンジョンか。思ったよりもファンタジーの世界だな。昔読んでた漫画の設定にそんなのあったな。
「金についてはあんまり詳しくないぞ。銅貨が5枚あったら市場の屋台で飯が食えて、その銅貨が50枚あったら銀貨1枚だ。銅貨より小さい銭貨もあってこれが10枚で銅貨だ。金貨もあるけどただの村じゃ見ることないさ。けど商人なら見る機会があるんじゃねぇか?」
銅貨5枚で屋台1食。じゃあ1食500円くらいで換算すればいいか?てことは銀貨1枚5,000円か。だんだんわかってきた、金貨のことも知りたかったけどまあいいか。
まて、そういえば俺のカバンの中にいくらか入ってたよな?いくら持ってるんだ?
カバンをひっくり返して中に入っているお金を全部出してみる。そうしたらどれが何か分からないが10枚ほど出てきた。
「なあ、これいくらだ?」
「えっとこの小さいのが銭貨だ。銭貨が5枚と銅貨が6枚かな、おっさん商人なのにしけてんな、銀貨も持ってないのかよ」
え、俺1週間宿泊まる予定だよな…しかも契約違反は罰があるとかなんとか言ってたよな。まてまてまて、宿屋の人いくらって言ってたっけ?
少なくともこの金で行けるはずない。市場が週に一回ってことは明日稼げなかったら……
あれ? あの契約の水晶の罰ってなんだ? やばい。むち打ちとかだったらどうしよう、焦ってきた。
「なにおっさんそんな焦ってんだ、金を馬車に置いてきたのか?治安悪い訳じゃないから盗まれないし、大丈夫だろ」
「いや、そうなんだよちょっと置いてきちゃってさー。不用心すぎたなと思ってー。ははは……」
絶対に金を稼がなくちゃならない。いざとなったら前世のオーバーテクノロジーなものでも売るか?
「えーっと、あとは風習だっけ?でも風習も何もどの国だって一緒だろ?冒険者ギルドがあって、魔物の素材を売ったり買ったりする。命の危険はあるが金は稼げるってやつだ。Sランク冒険者なんて領地を買うくらい金持ってるんだってよ、考えられねーな」
「そ、そうだな。冒険者は俺の国と一緒だな」
命の危険とか怖すぎるだろ。もしかして明日売れなかったら魔物狩り?
無理だ、2度目の人生そんなすぐに無くす訳には行かない。
「そろそろ戻るか、まだ回るだろ?」
「そうだな他のとこ見に行くか。──それにしてもアイクは随分と詳しいんだな、このくらいみんな知ってるもんなのか?」
登ってきた階段を降りながら聞いてみた。
「そんなことねぇよ。普通の村人はそんなことで腹は膨れないって言って住んでる国の名前も言えないと思うぜ。でも俺はこうやって商人に聞いて回ってるんだ。俺将来やりたいことあんだ」
「やりたいことか、聞いてもいいか?」
「別にいいよ、聞かれて困る話でもないし、俺のやりたいことはさ…
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