rest6. 寒空の下で

外は快晴だが、深夜。

ごつごつした肉体を持つ男がその寒空の下、テントを立ててたき火を囲んでいる。

ただ、しきりに呟きが聞こえる。


「くそっ……どうしてだ……」


あまりに悔しいことがあったのか、唇を噛みしめすぎて血が出ている。

ただ、一日何か大変なことがあったためか、かなり疲れていて眠そうだ。


その男はたき火の近くで横になった。

そして数分後、寝息が聞こえ始めた。


・・・・・・


そう。

あの日の夜が俺のすべてを変えてくれた。


「何が人間に攻めないだ!さっさと滅ぼせばいいものを」


俺は机を叩く。

魔王はいつまでたっても人間を攻撃しようとしない。

さっさと統一すればいいというものを。


すると、扉に一人のローブを頭から被ったやつが立っていた。

そして俺の方を向いて話しかける。


「さっさと攻める口実を作るべきですよ」

「誰だ!俺の部屋になぜいるのだ?」

「そんなことは、今は些細なことです」


そのローブをかぶったやつはこちらに近づいてくる。

俺は全力で殴りに行った。

だが、簡単に避けられる。

何度やってもすべて避けられ、俺は息が上がる。


「はぁ、はぁ……貴様、何がしたいのだ?」

「私はあなたの願いをかなえるために来ているのです」


俺の願い・・・何のことだ?

俺が迷っていることを見透かしているのか、笑いながらローブの奴は話しかけてくる。


「さっき言っていた、世界の統一ですよ」

「あぁ、それか。腰抜けの魔王のせいでどうにもならんよ」

「いえ、魔王を失脚させればいいだけじゃないですか」

「一理ある……だが、今の魔王の人気はかなりあるから、さすがに反抗は無理だ」


ローブのやるは首を振っているようだ。


「やれやれ……理由がなければ作ればいい。例えば……人間がこちらに攻めてきたとか」

「馬鹿な奴だな。そんなこと、都合よくあるわけないだろうが」

「都合よくなければ、作ればいいだけですよ」


そのローブの奴は、手元の箱のようなものを開けて、中から布を取り出す。


「これをつかえば、簡単ですよ」

「なんだこれは?」


ただの人が一人分覆えるぐらいの大きな布じゃないか……


ローブの奴は、その布を自身の体に巻き付けた。

すると、体がすべて消えた……


「なに!?」


今まで目の前にいたというのに、魔法の痕跡もなく消えた……

俺がアタフタしていると、後ろからトントンと肩を叩かれる。

後ろを向くと……そのローブの奴が立っていた。


俺は飛びのく。

これまでの人生の中で、こんな奴は見たことがない。


「貴様……何をした?」

「あぁ、このローブの効果です」


そいつは、そのローブを机の上にかぶせる。すると、ローブのあったところがすべて消えた。


「つまるところ、これは透明マント的なものになりますか」

「透明……マント?」

「そうです。これを着ると周りからは全く見えません」

「なんだと……」


そんなアイテムがあるなんて聞いたことがない。

ただ、目の前の奴は当たり前のように話を続けて行く。


「この透明マントは攻撃とかで使うには少し不便で、魔力を浴びると効果が無くなってしまいます。逆に言えば、隠れて何かをする分には絶対にばれない」


そしてローブの奴はこちらを向いてくる。


「あなたの配下でワープを使える者は?」

「もちろんいる」

「その者にこの透明マントを着て人間の町に行き、ワープの魔方陣をばれないように書いておき、いいタイミングでこっちの世界に飛ばせれば……」


言っていることはよくわかる。でも、そんなことが本当にできるのか?

そう思っていると、俺は急に光に包まれる。

そしてこの部屋の対角上に飛ばされていた。


「どうですか?先ほど消えたときに、あなたの足元に魔方陣をかかせていただきました」

「……なるほど。確かに可能だ」


俺はあの時本気で周りを探っていた。

それでも気づけないのだから、たかが人間では気づけることは不可能と言っていいだろう。

ただ悩ましい所がある。


「問題は、どこの奴を飛ばすかか……」


マントの奴はにやっと笑った。


「それなら、どこの国でもいいので、兵隊を訓練している場所の奴らがよろしいかと。武器を持っていれば、急に攻撃しに来たように見せかけることができるので」

「なるほど。それでいこう。でだ、貴様は俺になんでこのようなことをさせようとしているのだ?」

「……あなたと同じく、この世界の統一をしてほしいからですよ」

「なるほど……ならお前自身ですればいいではないか。このような魔道具を作れるのであれば」

「……」


ローブの奴は黙る。

悩んでいるのか顔は見れないが、口を開く。


「別に気まぐれです。今回失敗した場合は、あの方々にこの世界を任せようと思っていますので。

まぁ、そんなことはあなたにとってどうでもいいことでしょう。では、ご武運を」


そう言うと、部屋に急に煙が発生する。

俺は煙いので窓を開けた。

煙が抜けると……そこには誰もおらず、布だけが置かれていた。


意味の分からん奴だ。だが……

俺は手元にある布を見ながら、戦略を立てる。

確かそろそろ魔王の選挙か。

その時にでもこの布を使用してやろう。


俺は誰からもらったかは気にせずに、さっそく作戦を練り始めた……



・・・・・・・


大男は朝日で目が覚めた。

そして、カバンの中を探し、布を見る。

布をカバンにかけるが、カバンは見えたままだった。

その男は頭をかきむしる。


「くそ!この問題がばれたときに癇癪を起して、部屋に魔法を投げるんじゃなかった……」


布にあるはずの消える効果はなくなっていた。

恐らく魔法が布にでもあたって、効果が消えてしまったのだろう。


その男は苛立ちを隠せず、その布を破いて上に放り投げた。

その布は風に乗って、どこかに飛んで行った。


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