order44.ハンバーガーと自業自得
イロナが帰ってきて数日後。喫茶「ゆずみち」以前の活気を完全に取り戻していた。昼間なので人間も魔族もたくさんの人がこの喫茶に集まっている。柚乃もイロナもめまぐるしく働いているようだ。そこに見知った人達が入店する。
「いらっしゃいませ~。あっ、カウンターへどうぞ~」
柚乃がその人達の入店をみて、すぐにカウンターへ案内する。
一人は元気に、もう一人は何か怪我でもしているのか少し足を引きづっている。
マスターがその二人に気づく。
「いらっしゃい。勇者さんはいつもので。ベアトリクスさんは何にしますか?」
「今日もがっつりが良いねぇ。何かかぶりつけるものはないかい?」
「かぶりつけるものですか……ありますよ。お肉系が良いですよね?」
「そうだな。肉が入っている方が嬉しいな」
「承知しました。少々お待ちを」
マスターはカウンター奥に料理を作りに行く。
ベアトリクスと勇者は席に着く。勇者はすぐにカウンターに突っ伏した。
そこに柚乃が水を持ってくる。
「はい。お水です~。今日はどうしたんですか~」
「いや、君たちにお礼を言いたくてね」
ベアトリクスは柚乃の方を向いて話す。
「今回は本当に色々ありがとう。この店にいたからこそ情報も来たし、風の噂では色々手伝ってもらったらしいじゃないか」
「いえ、私たちは何もしていないですよ~」
柚乃は手を横に振りながら答える。
マスターも料理を作りながら聞いていたのか声をかける。
「そうですよ。僕たちは何もしていません。ただ、この店に来てくれる色々な人のおかげで今回の一件は解決したんじゃないですかねぇ」
「そうだとしてもだ。この店がなければ、魔界に行ったあいつらは助からなかった可能性もある。そういう意味ではこの店に感謝したいんだ。この通り」
ベアトリクスはその場で立って、マスターと柚乃に頭を下げる。
柚乃は頭をかきながら返事をする。
「いや~。そこまで言って頂けるのは本当にうれしいですが……本当にこの店を愛してくださっているお客様のおかげなので。お気になさらず。逆にベアトリクスさんも何かあったら手伝ってくださいね」
「あぁ、約束しよう。私で良ければいくらでも手を貸そう」
ベアトリクスと柚乃は握手をした。
マスターは食べ物ができたのか、手に料理を持ってカウンター席に来る。
「その時は是非お願いしますね。で、勇者にはアイスカフェオレ、ベアトリクスさんにはハンバーガーを準備しました」
「おぉ!俺のアイスカフェオレがきた!」
ずっと黙って突っ伏していた勇者がガバッと起き上がってアイスカフェオレを受け取る。ベアトリクスもその様子をジロッと見ながらもハンバーガーを受け取る。
ハンバーガーはシンプルなものらしく、バンズの中にハンバーグのように大きなお肉とトマト、レタスが横からは見える。あと、ハンバーガーが倒れるのを防ぐためか真ん中にプラスチックの剣が刺さっていて、その剣の一番上にパイナップルがついている。
「マスター、ありがとう。頂きます」
そう言うと、ベアトリクスは少し不思議そうな顔をしながらもプラスチックの剣をパイナップルごと抜いて、ハンバーガーをガブリとかぶりついた。
そして何度か咀嚼をして目が輝く。
「……これが一番だ……」
ベアトリクスはかぶりついたハンバーガーを見ながら呟いた。
あまりのおいしさにハンバーガーを見つめて、二口目を食べることを忘れている。
その様子を見ていたマスターは苦笑する。
「ベアトリクスさん。そこまで喜んでくれるのは嬉しいけど、温かいのがおいしいからさっさと食べなよ」
「……そうだな。頂くとしよう」
そう言いながら、再度食べ始める。
そしてあっという間に食べ終わった。
あまりにおいしかったのだろう。
その余韻すら今は楽しんでいる。
その様子を見ていた勇者がボソッと呟く。
「俺が頑張ったってのに……なんでボロボロにならないといけないんだよ……」
その声をマスターが聞いていたのか、苦笑しながら勇者に話しかける。
「サーシャさん、うちに来てまでべろべろに酔って帰っていったよ……あの人怒らすって相当なことさせたんじゃない?」
「いや、お願いをちょっとしただけなんだけどなぁ……」
その声が聞こえたのか、ベアトリクスが勇者をジロッと見て尋ねる。
「勇者……お前何かしたのか?」
「いえ、何もしてません」
勇者はベアトリクスの方を見ずに即答する。
ただ、それを聞いていた柚乃が話しかける。
「どうせ、サーシャちゃんに変なお願いしたんでしょ~」
「いや……決して何も」
「サーシャちゃん怒ってたよ~。スパイ的な事させられたって」
「……スパイ的なこと……?」
ベアトリクスは勇者の首根っこをつかんで無理やり勇者の顔を自分の方に向かせる。
「勇者……もう一度だけ聞く。他の方を使って何をした?まさか迷惑かけたんじゃないだろうな」
「……黙秘します」
「ほぉ。私に黙秘か。わかった……マスター、すまんがお会計で」
「……承知しました」
マスターはベアトリクスの様子に少しおびえながらもお会計を終わらす。
ベアトリクスはニコッとしてマスターに言う。
「また来るわ……こいつは二度と来れないかもしれないけど」
「わぁー!マスター、助けて!!」
「勇者さん、骨だけ拾ってあげるよ」
マスターはニコッとしながら、絶望の顔をしている勇者に答える。
勇者はマスターが駄目だと思って、次は柚乃に声をかける。
「柚乃ちゃん……お願い……」
「知りません!!サーシャちゃんを怒らせた罪、償ってきてください~」
「いやだーーー」
そう言いながら、ベアトリクスに引きづれて店から出て行く。
その様子を見ていたイロナは不思議そうにマスターに聞く。
「マスターさん、勇者さん、どうしたんですかね。引きずられて出て行くなんて」
「……イロナちゃん。自業自得って言葉教えてあげよう」
「じごうじとく?」
そのあと、マスターは勇者のやってきたことを一例にイロナに自業自得を教えたようだ。
ここは、勇者ですら歯向かえない人が来る喫茶「ゆずみち」
さて、次はちゃんと元気な姿の勇者を見ることができるのでしょうか。
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