order43.プリンと日常

フェニルが泥酔して帰ってから数日後。喫茶「ゆずみち」は魔族も人間も来なくなって、開店休業状態のままだった。もちろん、店の中をのぞいても誰もおらず、相変わらずマスターと柚乃しかいないようだ。


「暇だ……」

「ホントですよね~」


マスターはカウンターの席に座って突っ伏して寝ている。

その横に柚乃もいるが、同じく突っ伏して寝ている。


「このままだと、さすがに店も閉めないといけないなぁ……」

「それは困ります~」


マスターの言葉に全く困っていない様子で柚乃が返事をする。

すると、上の階からドンという音が鳴った。

二人はガバッと起き上がる。


「「まさか!!」」


二人は全く同じ言葉を発し、カウンター奥の扉を見ていた。

そしてその扉が開いた。


「ただいま。ようやく帰って来れました!!」

「イロナちゃん!!久しぶり!!」

「元気にしてた~?心配だったよ~」


二人はカウンター席から立ち上がりイロナの方に笑顔で向かう。

イロナは少し恥ずかしそうにしながらも、二人に笑顔で話しかける。


「はい!!ようやく両親からこの喫茶に行っていい許可が出たので来ちゃいました!」

「良かったね!!」


柚乃はそう言って、イロナを抱きしめる。

その様子を見ていたマスターが少し不思議そうにイロナに尋ねる。


「イロナちゃん、それにしてもどうして許可が出たの?」

「それがですね……今回の人間転移事件の黒幕が誰か判明して、大ニュースになったからです」


マスターと柚乃はピンと来たようだ。

イロナは続けて話す。


「なんと……あの四天王のダズが犯人だったらしいです!!……ってあれ?二人とも知ってたんですか?」


二人が全く動じないのを見て、少しイロナが不思議がっている。


「まぁ、色々あって聞いてたからね。まぁ、どうにかなってよかった。とりあえず、イロナちゃんはホットココアでいいかな」

「はい!マスターのホットココア久々に飲みたいです!!」


イロナはカウンター席に座り、マスターはカウンターの奥に行く。

そしてホットココアを準備し始めた。

すると、喫茶店の扉が開く音がした。

三人はその音の方を見る。そしてマスターは口を開く。


「魔王さん、アリスさん、それと魔導士のフェニルさんですか。お久しぶりです」

「マスター、いつものを頼む」

「了解。ちょいとお待ちを」


マスターは飲み物の準備を始める。

魔王とアリスとフェニルはイロナの横に並ぶ形でカウンター席に座る。

三人とも前と違ってすごく元気そうに見える。

柚乃は魔王に話しかけた。


「魔王ちゃんおひさ~。何かいいことでもあったの?」

「ふふふ……ようやく人間の転移事件が終わったから、三人でのんびりしに来たのよ」

「あぁ、今イロナちゃんから聞きました~。良かったですね」

「本当よ……あぁ、疲れた」


魔王は手を上にあげて、のびをする。


その様子を見ていたマスターが飲み物を準備しながら尋ねる。


「それにしても、よくダズを追い詰めることができましたね」

「あぁ。まぁね……」


魔王にしては歯切れの悪い返事だった。

アリスが補足を入れる。


「実は……黒騎士様からとあるデータを頂きまして。そのデータにダズが自分でやったという自白の内容が入っていたのです」

「ふーん……そうなんだ」


マスターは何かを思い出すようにうなずく。

それに気づかずにアリスは話し続ける。


「そのデータは嬉しかったのですが、どうやって、誰が手に入れたのかは全く話してくれませんでした。何なら、本日のゆずみちに行く話も疲れてるからって断られましたし……いつもなら喜んでくるのに、どうしたんでしょうか……」


マスターは色々言いたいことがあるようだがぐっとこらえているように見える。

その様子を見た柚乃が話しかける。


「まぁ、情報が手に入ったんだからいいんじゃないの~。で、そのデータをどうしたの?」

「それをフェニルにお願いしてそのデータを色々なところにばらまいてもらった」


魔王が答える。フェニルは補足があるのか、口を開く。

「テレビ局、新聞とか……色々なところに渡した。みんな喜んでた……」

「だろうね~。そういう所ってこの手の話題、好きだよね~」


マスターができた飲み物を一人ずつ渡しながら、声をかける。


「なるほど。情報を魔王発信じゃなくて、メディアでばらまいたのか。で、その話をイロナちゃんのご両親が見て、もう安心ってなったわけね」

「そういうことです……ココアありがとうございます!」

「熱いから気を付けてね」


マスターから魔王、アリス、フェニルは、アメリカンコーヒー、オレンジジュース、紅茶を受けとる。

そして一口飲む。


「あぁ~生き返るわ~。やっぱりマスターのコーヒーが一番!!」

「オレンジジュースおいしいです!」

「紅茶……最高……」

「皆さんにそう言ってもらえて、嬉しいです」


そう言うと、マスターは再びカウンター奥の方に行き何かを取りに行った。

そしてすぐに戻ってくる。


「せっかくなので、これ皆さんで食べませんか?」


マスターの手元には平たいお皿に乗ったプリンがいくつか並んでいた。

柚乃が大きな声をあげる。


「あぁ!!マスター手作りプリン~私たべたい~」

「もちろん。元々柚乃のために作ったものだし」

「マスターさん、私もいいでしょうか……」


イロナはすごく欲しそうに声をかける。

魔王とアリスとフェニルは欲しそうな眼をしている物の、我慢しているようだ。

その様子を見たマスターは苦笑しながらも伝える。


「ちゃんとみんなの分あるから一人一皿ずつ取ってね」


そう言った瞬間、一斉にみんなの手が伸びる。

そして、自分の元に手繰り寄せてすぐに食べ始めた。


「何これ!!プルプルしてすごく甘くておいしい!!でも、黒いやつが少し苦くてバランスが良いわ!!」

「マスター様。これ私も魔王城で作ってみたいので、レシピ教えてくれませんか?」

「マスターのプリンはおいしすぎる~」

「プリン……研究対象に入れようかしら……」


みんな口々に思った事を話す。

その様子を見ていたマスターは、ニコッとして呟くように話した。



「イロナちゃんが居て、魔王さんが居て、みんな楽しそうに僕の作った料理を食べてくれる。ようやく……ゆずみちの日常が戻ってきたんだな……」



ここは、プリン一つでにぎやかになる喫茶「ゆずみち」

さて、次はどのような日常を見ることができるのでしょうか。

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