order35.焼きそばとご飯会

木々の花は完全に散って緑を付け始めた。朝や夜は少し寒いものの、昼間は日が照ると温かいため、日なたぼっこをする人がいるような季節。そんな日の夜、喫茶「ゆずみち」では、お客がいないことをいいことに、テーブルを囲んだ雑談が繰り広げられていた。


「いや、久々に楽しんだわい」

「クド様、ずっと泳いでましたもんね」

「いやアリスよ。お前もずっと泳いでたぞ。私だけ、そうそうに泳ぎ疲れてのんびりと寝ていたというのに」

「魔王様、確かに寝てましたね。その間に私とクド様で泳いで遊んでいるときに、変なものを拾ったりしたの知らないでしょ」


魔王と側近のアリス、ドワーフのクドの三人はテーブルを囲んで話している。どうやら、どこかに行った帰りなのか、三人とも少し大きなカバンを持っていた。そこにマスターが来る。


「はい、魔王さんはアメリカンコーヒー、アリスさんはオレンジジュース、クドさんは水ですね」

「ありがとうございます、マスター様。私が皆様にお渡ししますね」

アリスはそういうと、マスターから各々の飲み物を受け取って渡す。魔王もクドも受け取ったそばから飲み始める。


「疲れた後の冷たい水はたまらんのぉ……」

「わからんではないが、私はどんな時でもアメリカンと決めてるからな」

クドと魔王はそういいながらクドはごくごくと、魔王はゆったりと自分の飲み物を飲む。


その様子を見ていたマスターが提案する。

「もう皆さん以外のお客様がいらっしゃらないので、僕たちはご飯でも作ろうかと思っていたのですがなんか運動してきたみたいですし、せっかくですから皆さん一緒にどうですか?」


マスターの提案に三人とも目を輝かせて返事をする。

「おう!」

「マスター様、お願いします!」

「マスター、おいしいものを頼んだぞ!」


その返事を聞いたマスターはニコッとして話す。

「承知しました。では、先に休憩入っている柚乃とイロナもせっかくなので呼んで、みんなで食べましょうか。机を一つ持ってきて、並べておいてもらっていいですか?」

「マスター様、了解しました。私がやっておきます」

「アリスさん。すまないけどお願いしますね」


そう言うと、そういうとマスターはカウンター奥に入って柚乃とイロナを呼びつつ、ご飯の準備を始めた。

その様子を椅子に座ったまま動かないクドと魔王はわくわくしながら待つ。

「マスターが作る晩御飯ってなんじゃろな?サンドウィッチかな?」

「クドよ……お主はサンドウィッチ以外の食べ物を知らんのか?」

「馬鹿にしよって……まぁいい。マスターの作る晩御飯に免じて許すとしよう」


そんなたわいもない話をしている二人を尻目に、アリスは机の準備をし終えて自分の席に座った。そしてちょうど柚乃とイロナが現れた。

「皆さん、お疲れ様です~。みんなで食べる料理か~。あれだろうな~」

「皆さん、ご一緒させていただきます。柚乃さん、どの料理かわかるんですか?」

「まぁね~。マスターがみんなで食べるって言った時の料理は絞られるからねぇ~」

そういいながら、各々席に座る。そしてマスターが準備を終えたのか、とあるものを持って現れた。


「よいしょっと。柚乃、コンセントさしといて」

「やっぱりね~了解~」

マスターは持って来たものを机の上において、柚乃はコンセントを受け取り穴にさす。他のみんなは興味津々のようだ。ただ、見たことがないのかアリスが代表してマスターに聞いた。


「マスター様、これって?」

「あぁ、これはホットプレートと呼ばれるものさ。料理をここでできる。電源入れるから、これ以降はこの鉄板が熱くなるのでみんな気を付けてね」


そう言いながら、マスターは電源を付ける。ジジジ……という音と共に鉄板が少しずつ熱くなっていくのがわかる。そしてマスターはもう一度カウンターまで行き、具材を取りにいった。その間も魔族四人(イロナを含む)は一言も話さずこの機械をじっと眺めていた。


具材を持ったマスターが現れ、お肉、野菜を炒め始めた。その様子も魔族四人は黙ってじっと見ている。その後、麺を取り出し水をくわえながら炒め、最後に粉のタイプのソースを全体にまぶした。あまりのおいしそうな香りにマスター以外全員で声がそろう。

「おぉ~~~~」


その様子に苦笑しながらもマスターは豪快に炒めていたものを混ぜ合わせ、みんなに伝える。

「はい、焼きそば完成。各々フォークとお皿を渡すから、ここから取って食べてね。出来立てで熱いから気を付けてね」

そう言いつつ、電源のボタンを加温から保温に変えていた。見計らったように柚乃はフォークとお皿をみんなに渡す。そして柚乃は自分のお箸を持つ。そしてこれも全員の声がそろった。

「いただきま~~~~~す!」


マスター以外全員がホットプレートにできた焼きそばに手を伸ばす。そしてみんな口に頬張る。そして口々に感想を言う。


「はふはふ。マスターさん、コレめちゃくちゃおいしいです!!」

「確かに。この細くて長い、もちもちしたやつがくせになるのぉ」

「クドよ、その細くて長いやつ私も好きだから残しておいてくれよ」

「イロナ様、お口周りがベタベタになっておりますよ」


その様子を見ていた柚乃がマスターに話しかける。

「やっぱり、大人数だと焼きそばっていいね~。本当に楽しく食べれる料理って感じ~」

「そうだな。喫茶店ではこの出し方はできないけど、親しい仲間であれば一つ一つに盛り付けするより、圧倒的にこの方がおいしく感じるからな」


そう話しながら、マスターと柚乃は自分たちの分が無くならないようにホットプレートに手を出して食べ始めた。そしてホットプレートを中心に、にぎやかなご飯会が始まった。


ここは、文明の力が使われる喫茶「ゆずみち」

さて、次はどのようなご飯会が開催されるのでしょうか。

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