order34. レモンパイと選挙

木々の花は雨や少しの風で吹雪のように舞うようになってきた。昼間はかなり温かくなり半袖でも過ごせる人にとっては過ごせる気温になってきている。そんな昼間、喫茶「ゆずみち」はかなり繁盛していた。


「イロナちゃん、ナポリタンできたからお願い!」

「はい。わかりました。行ってきます!」

マスターはイロナにナポリタンを渡す。そのままイロナは急いでテーブル席まで渡しに行く。


その様子をカウンターで見ていた勇者とサーシャがマスターに話しかける。

「相変わらず、イロナちゃんも柚乃ちゃんも働くねぇ。俺なんかよりも立派だ」

「そもそも、イロナちゃんや柚乃ちゃんと勇者を比較すること自体がおこがましいよ。それにしてもイロナちゃんのご両親が見つかってよかった!」


マスターの方も少し一息ついたのか、話しかけに応じる。

「えぇ。本当に。サーシャさんも魔王さんに休みをもらって探してくれましたよね……本当にありがとうございました」

マスターはサーシャに頭を下げる。その様子を見たサーシャが両手を前に出して手を振りながら、マスターに返事をする。


「いやいや、同じ魔族を守りたかっただけだし。あと、この店の子であれば私にとっても大切だから。気にしないで」

そう言ったサーシャに勇者がこそっとマスターに話しかける。


「マスター、実はサーシャは少しだけしょげてたよ。イロナのために色々な町を回ったのに、ことごとく外れてたから」

「何か言った?」

サーシャは話が聞こえなかったのか、二人に割って入って聞く。マスターはすかさずフォローを入れる。


「いえ、たわいもない話ですよ……あっ。サーシャさん。イロナちゃんを探していただいたお礼と言っては何ですが、僕が作ったお菓子を食べてみませんか?お代は結構ですので」

「いやいや、私は結局何もできてないですし……」

サーシャが渋っていると、勇者が話しかける。


「いいじゃん。受け取っときなよ。マスターの気持ちなんだからさ」

「そういうなら……マスターさん、すみませんがぜひお願いします」

「あいよ。ちょいとお待ちを」


そう言うと、マスターは厨房の裏にスッと入っていった。勇者とサーシャは自分たちが元々頼んでいたアイスカフェオレとレモネードに口を付ける。するとマスターはお皿を一つ持ってすぐに戻って来た。そしてサーシャの前に置く。


「はい。レモンパイになります。ぜひご賞味ください」

レモンパイはホールを1/8にカットしてきたように見える。切り分けた断面を見るに、上部分は白いクリームが見ていて、下部分はレモンの餡のようなものが見える。そしてそのレモンの下はパイ生地のようだ。


そのものを見たサーシャはパァーと顔が明るくなった。

「マスターさん、ありがとうございます!久々にレモンパイを見ましたけど、すっごくおいしそう。頂きます!」


サーシャは置いてあったフォークを使って器用にレモンパイを一口サイズに切り分けて食べた。そしてうっとりしながらマスターに話す

「マスターさん……これはおいしいです!マスターさんってデザートうまいんですね。私も習おうかしら」

「いえいえ、サーシャさんほどではないですよ。たまたまいいレモンが入ったので、作っただけですので」


その二人の様子を見ていた勇者はマスターに聞く。

「マスター、俺の分は?」

「すまんな。あとはイロナと柚乃と僕の分だけしか残ってないんだ。また作ってやるから今日は諦めな」

「約束やからなー」

勇者は少し顔を膨らせたものの、サーシャが喜んで食べている姿を見て機嫌を戻す。


そして、少し思い出したことがあるのか、勇者はサーシャに尋ねる。

「そうそう。最近、魔界側がざわざわしているっていう話がこっちにも来てるけど、何かあるの?」

その話を振られたサーシャはレモンパイに心が奪われているのか、まったく興味なさそうに答える。

「あぁ、次期魔王選挙があるだけだよ」


その言葉にマスターはもちろん勇者も驚く。そしてマスターが尋ねる。

「えっ、魔王って選挙なの?」


その言葉に、レモンパイを食べきって口を拭きながらサーシャが興味なさそうに返事をする。

「そうですよ。私はもちろん詳しくは知りませんが、昔は、魔王は強ければよかったらしいです。ただ、なんかすごくわがままな魔王だった時代があるらしく、今の魔王がぶち切れてボコボコにして、選挙制にしたらしいです。それ以来100年ぐらいだったかな?ずっと今の魔王だそうですよ」


サーシャはレモンパイのお皿をマスターに渡す。マスターはそのお皿を受け取りながらついでに聞く。

「その選挙ってどれぐらい間隔なんですか?」

「えっと、10年って聞いたかな。今回で魔王になってから10回目とかなんとか言ってたと思う。全く興味ないけどねー」


サーシャは自分のレモネードを飲みながら答えた。その様子を見ていた勇者が気になったのか、サーシャに尋ねる。

「今の魔王が変わることってあるの?」

「ないね。今の魔王の人気がすごすぎるから。もし変わることになったら、何でもやってあげるわよ」

「ふーん。そこまでサーシャが言うのであれば相当自信があるんだな」


勇者がサーシャに言う。サーシャも答える。

「今の魔界にあのレベルのカリスマはいないね。四天王の私も含めてもポンコツしかいないから……こんなしけた話はやめよう。私はイロナちゃんのご両親との出会いの話をもっと聞きたい!」


その返事にマスターが答える。

「そうですね。せっかくですから。イロナちゃんに私からご両親のお話をしたのですが……」


ここは、マスターの手作りお菓子が裏メニューとして出てくる喫茶「ゆずみち」

さて、次はどのような魔界のお話が聞けるのでしょうか。

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