order33. たまごサンドと準備
木々の花が散り始め、それがとてもきれいに見える時期。今は夜であるため、喫茶「ゆずみち」からこぼれ出る光でその様子がさらに幻想的に見える。夜とは言え、開店している時間なので何人かのお客がゆずみちの料理を楽しんでいた。
「アメリカンコーヒーとコーンスープお待ち」
マスターはカウンターに座っている二人に飲み物を渡す。
「いつもありがと」
「マスター様。ありがとうございます。わたくしめ、これを本当に楽しみにしてました」
カウンターに座っていた魔王とラミアのルーリエが飲み物を受け取りつつお礼を言った。そのまま魔王がマスターに話しかける。
「ところで、イロナちゃんは今後どうするの?実家とこの店は繋いであげたけど、やっぱり実家の方が良いって感じ?」
「いえ、イロナは毎日この店に来てくれるそうです。やっぱりこの店で働かないとなんか気持ちが悪いようで。ただ、まだお母さまの調子が戻りきっていないので週に2~3日、昼間だけお願いしてる感じですね」
「ふーん。良かったわね。イロナちゃんが抜けたらきついでしょ」
「まぁ。かなりきついですね。でも、柚乃もいますし。どうにかはなってます」
そう言いながら、他のお客に食べ物を運んでいる柚乃の方をマスターは見た。柚乃は相変わらずのニコニコ顔で接客していた。その様子を見ながら呟くようにマスターは話す。
「ただ、柚乃もイロナちゃんがいない時は少し寂しそうだったりします。やっぱり妹のように思っていたのでしょうね」
「妹のように思っていたんじゃなくて、妹だったんでしょ」
魔王は少し怒りながらマスターの言葉を訂正する。マスターは魔王の方を見て何も反論しなかったものの、頭の後ろをかいて苦い顔をした。その様子を見ながら魔王とルーリエは自分の頼んだものを一口飲む。
すると、接客を終えた柚乃がマスターと同じカウンター奥から魔王とルーリエに声をかけにきた。
「魔王ちゃんとルーリエちゃん、いらっしゃい~」
「柚乃ちゃん、こんにちは!」
「柚乃様、こんにちは」
二人とも柚乃の方を見る。ただ柚乃は少し不思議そうな顔をする。
「あれ?いつも魔王ちゃんとルーリエちゃんが店に来るときは、アリスちゃんも来るよね……」
魔王が少し苦い顔をしながら話したくないのかコーヒーを飲み続ける。その様子を見たルーリエが柚乃の質問に答える。
「アリス様は今、魔界で最も忙しいと思います」
「?」
柚乃は不思議なのか首をかしげている。ルーリエは補足の話を柚乃に始める。
「実は魔界では、とある重要な祭典のための準備が始まってます。その準備にアリス様は奔走されているという状況です。そのため、わたくしめが魔王様の補佐として今は一緒に行動を共にしているという状況です」
「へ~、そうなんだ~。アリスちゃんが魔王ちゃんの横を離れるって、相当びっくりだったり~」
「そうですね。本当に10年に一度、この時だけですね」
横で聞いていた魔王は少しにやにやしながら柚乃に話しかける。
「ほんと、アリスだと何しても色々怒ってくるけど、ルーリエはアリスと比べて優しいから何でも許してくれちゃうの!」
「魔王様、それは……」
ルーリエがどう返せばよいか悩んでいると、マスターがフォローを入れた。
「魔王さん、その言葉はアリスさんにチクりますよ。ルーリエさんも困っているようだし」
「えぇ!マスター、ごめん。それだけは許してー」
魔王は本当に嫌なのかマスターに顔を近づいてお願いする。マスターはハァと言いながらルーリエに話す。
「ルーリエさん。今日は魔王のおごりだから、何でも頼んでいいよ。何か食べたいものとかあるかな?」
「そうそう。ルーリエ、何でも頼みなさい。そして私の言葉を忘れなさい!」
そう言われたルーリエはさらに困りつつも、頼んだ方がよさそうな雰囲気を察したのかマスターにお願いする。
「マスター様、それでは卵を楽しめる料理とかってありますか?卵の料理が大好きなので」
「もちろんあるよ。ちょいとお待ちを」
そう言うと、マスターは料理を作り始める。柚乃も他のお客から注文があったため、それの対応に向かった。魔王とルーリエは二人が居なくなったからか全く別の話を二人で始めた。
すこし時間が経ったのち、マスターが料理を持って来てルーリエに渡す
「はい、たまごサンド。卵を楽しめる料理と言えばこれかなぁと」
たまごサンドはトーストで挟まれているタイプのようだ。卵がふわふわでかなりの量詰め込まれているからほぼあふれている。全体から湯気も立っていて出来立てであることがすぐにわかる。
ルーリエは初めて見る料理に興味深々のようだ。トーストをつかんで食べようとしたが、
「熱っ!」
と言って手を引っ込めてしまった。
その様子を見ていたマスターが苦笑しながらルーリエに一言声をかける。
「ルーリエさん、大丈夫かい?言うの遅くなっちゃったけど熱いから気を付けてね」
「はい……」
すこしやけどをした様子を見られていたルーリエは、見られていたことが恥ずかしかったのか消えるような声で返事をした。ただ、返事をしつつも目はたまごサンドの方をしっかり見ていた。そしてやけどしないように気を付けながら、たまごサンドを頬張った。頬張って何回か噛んでいると目を見開く。
「すごく……おいしい!!」
そして次々と皿の上にあった、たまごサンドを食べ始める。その様子を見ていた魔王とマスターは各々思っていたことを呟く。
「お腹減っていたのかしら……」
「あれだけおいしそうに食べてくれるなんて、嬉しいねぇ」
そう言っている間に全部食べ終えた。そしてルーリエはマスターに話す。
「マスター様、これとってもおいしかったです!!それでもう一皿お願いできますか!?」
「あいよ。ちょいとお待ちを。あぁ、魔王さんもアメリカンコーヒーお代わりでいいかい?」
マスターは魔王の空になったコップを見てそう話す。魔王は苦笑いして答える。
「えぇ、お願いするわ」
その言葉を聞いたマスターはさっそくたまごサンドとコーヒーの準備に取り掛かる。
そして、ルーリエはあまりにたまごサンドがおいしかったのか、魔王に少し興奮しながら話しかける。
「魔王さん、絶対またこの店に来ましょうね!絶対ですよ!!」
そう言いつつ、ルーリエは次来るたまごサンドを楽しみに、マスターの準備を眺めていた。
ここは、火傷しても食べたくなるものを提供してくれる喫茶「ゆずみち」
さて、次はどのようなおいしいものに出会えるのでしょうか。
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