order36.ハンバーグと訓練

カウンターでアリスが一人愚痴りに来ていた翌日の早朝。いつもなら喫茶「ゆずみち」にはほとんどお客はいないはずだが、すでにお客がカウンターに来ていた。ただ、そのお客はどちらもかなり疲れているようだ。


「はい、魔王さんはいつものやつ。アヤメさんはスッとした甘いものをご所望だったかクリームソーダを準備したよ」

「……マスターありがと」

「……マスターさん、ありがとうございます」

魔王と吸血鬼のアヤメはかなり眠たそうに飲み物を受け取って飲み始める。


アヤメの受け取ったクリームソーダは全体が緑色で上にバニラアイスとサクランボが乗っているシンプルなもののようだ。バニラアイスはマスターのおまけなのか、かなり大きめに乗っている気がする。ただ、アヤメはクリームソーダには目もくれずまずは一口飲む。

「すっごくシュワシュワして、おいしい!!」

「スッとするものをご所望だったので、炭酸系にしました」


マスターはクリームソーダを選んだ理由をアヤメに説明する。アヤメは炭酸で少し目が覚めたのか、スプーンを取ってバニラアイスを食べる。

「これも冷たくておいしい。でも、一番おいしいのはこの白いやつが液体に使っている部分かも。少しシュワシュワした、冷たくて甘いお菓子みたい!」


そして、アヤメはクリームソーダの液体部分に沈ませる。そしてまた一口。

「……やっぱりこれはうますぎる!!」

そう言いながらアヤメはクリームソーダをどんどん食べ始めた。


その様子を横で見ていた魔王はぼやいた。

「よくそんな元気出るわね。ほとんど寝てないっていうのに……」

そのぼやきが聞こえたのか、柚乃が魔王の元に言って尋ねる。


「魔王ちゃん、アヤメちゃん、おはよ~。どうして二人ともそんなに眠たそうで疲れてるの?」

魔王はがつがつ食べているアヤメに代わって、コーヒーを飲みながら答える。

「昨日にとあるやつと大げんかしたのよ……」


その魔王の言葉を聞いたアヤメがソーダを飲みながら補足を入れる。

「四天王の一番過激派のダズってやつが、人間攻めろってうるさいから、ずっと言い合いしていたんだ。そして気づいたら止める役のはずのアリスはいないし、朝になってるし。で、魔王様と話してゆずみちに行こうかっていう話になった」

「大魔導士のフェニルちゃんは~?」

「あいつは眠たさが勝って、魔王城で寝てる」

アヤメは目をこすり、あくびをしながらも答える。


それを聞いた魔王もあくびをしながら柚乃に話す。

「私も眠いんだけど、この後会議なのよ……だからコーヒーをもらいに来たってわけ」

それをカウンター越しで聞いていたマスターが少し嬉しそうにお礼を言う。

「その一杯のために魔王さんが来て下さるのは、本当にうれしいですね。ありがとうございます」

「いや、やっぱりこの一杯が無いとやってられんかったんよ……」

そう言いながら魔王はカウンターに突っ伏した。

それを無視しながらアヤメは目の前のクリームソーダを食べ続ける。


すると、二階から急にどたどたした音がなって、カウンター奥の扉が勢いよく開かれる。

「マスター、大変です!……ってあれ?魔王様?」

マスターは奥から来たイロナに落ち着かすために声をかける。

「イロナちゃん、まずはおはよう。で、慌てずにどうしたのか教えてほしいな」

「そうです。マスター、魔界のとある町に人間が攻め込んできたっていう噂が流れてきました!」


その言葉を聞いた瞬間、さっきまで突っ伏していた魔王がガバッとおきあがり、イロナに尋ねた。

「イロナちゃん、その町ってどこかわかるかな?」

「えぇっと。レミリアって町って聞いた」

「ありがと。アヤメ、すまんがすぐに行って確認してきてくれ!」


指示を受けたアヤメは、さっきの眠たさと疲れがどっかに飛んで行ったかのように返事をする。

「御意に。すぐに確認してまいります!」

そう言うと、お代を机の上においてすぐに出て行った。

その様子を見届けてから魔王はイロナに再度尋ねる。


「イロナちゃん、何か他の噂とかって聞いた?」

「詳しくはわからないのですが……なんか十人程度の人間がレミリアの町に現れたそうです。元々レミリアの町はそこまで人間を受け入れてなかったので、人間が武装して現れてパニックになってるという話でした」

「なるほど……じゃぁ、私も対応しにいかないといけないかも。マスター、私も行くわ」

「わかりました。あと一分だけくれませんか?」

「まぁいいけど?」


そう言うと、マスターは入れたてのコーヒーを水筒に詰め始めた。そして魔王に水筒ごと渡す。

「せっかくアメリカンコーヒー飲みに来られたのに、ほとんど飲んでないように見受けられたので……僕からのプレゼントです。その容器だけまた後日にでも返してくださいね」


魔王は水筒を受け取り、一瞬にこりとした。ただそれは本当に一瞬で、すぐに顔は真剣な様子に変わった。


「マスター、手間をかけたわね。また来るわ」

「またのご来店お待ちしております」

そう言うと、魔王はゆったりと扉を出て行った。


ここは、マスターのやさしさを感じることのできる喫茶「ゆずみち」

さて、次はどのような炭酸の飲み物がでるのでしょうか。

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