special6.年越しそば

こっちの世界の年末と異世界も年末がそろったため、イロナと柚乃と夜にちょっとしたご飯会を開いた。イロナもわくわくしているのか、テーブルの準備が終わって、そわそわしながら僕の方に歩いてきた。


「マスターさん。私が何かお手伝いできることはありますか?」

イロナが尋ねてくる。

「イロナちゃん、ありがとう。でも、大丈夫だよ。茹でてるだけだから」

「茹でる?」

イロナはあまり聞きなれない言葉に戸惑っているようだ。確かに、この喫茶店ではあまり聞かない言葉か。茹でる料理って何かあったかなぁと思いながら、そばを茹でる。


「マスター。おつゆはこんな感じでいいですか~って言っても、市販のやつを温めてるだけですけど~」

柚乃が尋ねてくる。喫茶店だと、こういう出汁系って弱いんだよね。あと市販のがおいしいから、そんな頑張らなくてもおいしいのが出来る。

「温め終わったら、そこにおいてあるきつねとニシンも一緒に入れて温めておいてー。ニシンは崩れやすいから気を付けてね」

「きつね?にしん?」

イロナはさらに聞きなれない言葉が並んで混乱しているようだ。まぁ、後で説明すればいいか。


柚乃に指示している間にそばを茹で終えたので、お湯切りをして容器に移す。そばも出汁と一緒に煮ても良かったが、今回はそばの周りに粉が振ってある、いいやつを購入したから別に分けて茹でた。

「柚乃、そばが茹で上がったから、温め終わったらそのままつゆごと入れて~」

「了解でーす。よいしょ」

柚乃はつゆを温めていた鍋ごと持ってくる。そして先にきつねとニシンを各々に入れてからつゆを入れた。その様子を見ていたイロナが呟く。

「いい匂い~」

……うん。いい反応だ。


準備できたものからイロナにテーブルに運んでもらう。

そして三人分が準備出来て椅子に座る。そして僕から声をかける。

「そしたら食べましょか。頂きます!」

「頂きます~」

「頂きます!!!!!」

そしてみんな一斉にそばをすすり始める。イロナはまだお箸が上手に使えないのでフォークで食べている。イロナは一口食べて一言、

「うまいです!!!喫茶のメニュー決定ですね!!」

いやいや、喫茶店でキツネ&にしんそばとか聞いたことないけど……。


「イロナちゃん、この料理は年末に食べる料理だから、さすがにメニューにはできないよ~」

「そうなんですね……こんなにおいしいのに」

ずるずるとすすりながら二人が話している。そうしていると、急にイロナが声をあげた。

「おいしすぎる!!!マスターさん、この黄金色の四角、甘くてとってもおいしいです!何枚でも食べれる!!」

「あぁ、きつねか。気持ちはわかる」

「私もわかる~」


そう反応しながら、この甘い味は異世界でも通じるんだなって思った。喫茶店をこれまでやっていたのに気づかなかったけど、異世界の方々と味覚が似ているってある意味幸運なのかも。

その後ずるずると三人で食べている途中にイロナがどうしても聞きたかったことを僕に聞いてきた。


「マスターさん、なんでマスターさんの世界では、そばって料理が年末に食べられる料理なんですが?こちらの世界だと、ほとんどお肉の塊とかなんですけど」

「あぁ、このそばっていうのは細長い形をしているだろ?僕たちの住んでいる国では、そばのように家族の縁も細く長く続きますように、って意味があるんだ」

他にも由来は色々あるけど、一番自分のなかでしっくり来ているもので説明をする。


「なんかそんな風に理由がある料理って素晴らしいですよね!魔界はみんなとりあえず肉ってことが多いので、そういう由来みたいなものがほとんどないんです」

確かに。前に戦争止めた時も、誰かが同じこと言ってたっけか。

そう思いながらそばを食べ終えた。柚乃もイロナもちょうど食べ終わったらしいので片づけを始めた。ふと、聞きたいことができたので、二人に聞いてみる。


「柚乃、イロナちゃん、この一年はどうだった?」

二人ともうーんと悩んでいる。どんな返事が返ってくるのだろうか。

「そうだね~。やっぱり楽しかった一年だったかな。色々な人にも出会えたし、何よりイロナちゃんとも出会えた。まぁ、人間と魔族の戦争を止めるとか色々あったけど、私はほとんど何もしてないし~」

柚乃の言葉にイロナは嬉しそうに聞いていた。そしてイロナも答えてくれる。

「私にとっては本当に……奇跡みたいな一年でした。勇者さんに助けてもらって、マスターさんや柚乃さんと一緒に過ごせました。そして……」

そこでイロナは言葉を止める。これまでの想いがあふれてしまったようだ。まぁ、これまでのことを考えると仕方ないことだが。


「またイロナちゃんを泣かせる~。じゃあ、マスターにとってこの一年はどうだったのさ?」

柚乃は僕に逆に質問をしてきた。そうだなぁ……気の利いたことは言えないけど……


「幸せな一年だったかな。イロナちゃんと出会えたことも幸せだけど、それだけじゃなくて、勇者さんや魔王さんの周りの人と知り合えたし、そのおかげで色々な難題を乗り越えることが出来たから」

そう。間違いなく勇者さんや魔王さん、その周りの色々な人が居なければ何一つうまくいかなかっただろう。


そんなことを思っていると、

「……わーん。マスターさん!そんな……私もマスターと出会えて幸せでしたー!」

「イロナちゃんを泣かせるのが趣味なの~?マスター?」


イロナは僕の言葉でさらに泣きはじめるしその様子を見て柚乃がいじってくるし……収集がつかなくなってきた……。まぁ、こういうドタバタな年末も悪くないかと思いながら、イロナを泣き止ませるための言葉を考え始めていた。

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