special4.クリスマス
「やっと仕事終わった~、本当に疲れた~」
そういうと、柚乃は拭き終えた四人掛けのテーブルに突っ伏す。
「柚乃さん、お疲れさまでした。今日はお客さんがかなりいらっしゃいましたね」
イロナがそういいながら柚乃の対面に座る。
確かに今日はかなり忙しかった。一応クリスマス営業ということで、クリスマスによく食べられるチキンなどを中心に特別メニューを出した。朝一に勇者が来てそのメニューを食べて帰ってから、急に来店してくるお客の数が一気に増えた。間違いなく勇者が宣伝してくれたからだとは思うが、相変わらずどれだけ顔が広いんだ……
「それにしてもイロナちゃんはそれを最後まで外さなかったのね~フフフ~」
柚乃はイロナの首元を指しながら話しかける。そこには店内にも関わらず、新品と思われるマフラーがつけられていた。
「はい!サンタさんからのプレゼント、あまりに嬉しくてずっと着けてました」
イロナは満面の笑みで柚乃に対して返事をしながら着けているマフラーを触る。イロナがつけているマフラーは柚乃の物と色違いの物だ。朝、イロナがいつもの声からは信じられないぐらいの大声をあげて僕のところに来た時は本当にびっくりした。イロナは嬉しさと驚きと戸惑いが入り混じった状態で来たから、落ち着かせるだけで一苦労したが……
朝の思い出を一巡してからイロナに声をかける。
「朝も言ったけど、サンタさんに思いが届いてよかったね。ちゃんといい子にしていたことが伝わったんだろうね」
「はい!今回のプレゼントも感謝しつつ、来年もちゃんといい子にしようと思います!!」
「そうだね。ちゃんとサンタさんにはありがとうって言っておきなよ」
僕からそういうと、柚乃もイロナに声をかける。
「マスターの言うとおりだよ~。まぁ、プレゼントをもらえたのはイロナちゃんの普段の行いがいいからだけど、ちゃんとプレゼントもらったお礼は言っておかないと!」
「そうですよね!と思いつつ、サンタさんには結局、会えなかったんです……柚乃さん、どうやったらお礼って言えますか?サンタさんのお家知ってませんか!?」
「うっ……さすがにサンタさんの家までは知らないな~」
「ですよね……なら……」
どうやってサンタに会うかという柚乃とイロナのやり取りを見ながら、イロナが来てからのことを少し思い出してしまう。本当にイロナはいい子だ。いい子過ぎてこの店にはもったいないぐらい。少し前まで柚乃だけでも確かにこの店はまわっていたし、明るかった。でも、イロナが来てから、よりこの店は明るくなったし、仕事もすごく楽になった。お客さんもイロナのことを愛してくれている。もうこの店には欠かせない。そう思うほどに。
すこし思いが詰まってしまい、目に涙がたまってしまったが気づかれないように拭き取る。さて……やっぱりクリスマスで最も重要なものをみんなに振る舞うか!
「さて、みんなでクリスマスを祝いますか!」
僕はそう呟くとと、キッチンの方に向かった。この日のためにわざわざ買いに行ったものだ。
冷蔵庫で四角い箱の物を手に取ると、テーブルの方に持っていき、置いた。柚乃はピンときた顔をしてニヤニヤしている。イロナは不思議そうな顔でこっちを見て話しかけてきた。
「マスターさん……この四角い箱は何ですか?」
ここで僕が答えをいっていいものの、それでは面白くない。少し焦らすように答えた。
「イロナちゃん、せっかくだから箱を開けて中を取り出してくれないかい?」
「……? わかりました」
全くイメージできないのか、少し首をかしげながら白い箱に手を出す。
シールを剥がして、ゆっくりと中身を取り出した。
「わぁ!!!」
イロナの顔はパーっと明るくなる。そこには赤い帽子の被った、白い口髭をたくさんはやした人形、トナカイとソリ、そして後ろにはたくさんの色とりどりの四角いプレゼントが山積みになっている世界が広がった……ホールケーキがあった。もちろん、こいつらは全て砂糖菓子の奴だが。
イロナはそのホールケーキをじっと眺めていた。その様子を僕と柚乃は見合わせてニコニコしてしまう。そしてイロナは僕たち二人の方を向いて少し興奮しながら話す。
「マスターさん、柚乃さん。もしかして、この赤い服を着ている人形が……サンタさんでしょうか!?」
「そうだよ~。私も実際にはあったことは無いんだけど、そんな姿をしているって言われてるの~」
「こんな姿だったんだ!」
イロナは再びケーキに顔を近づけてじっと見る。僕は一応、他の説明をしておく。
「そのサンタの横にいるのがトナカイっていう動物で、サンタはそのトナカイの後ろのソリに乗ってプレゼントを運んでいるって言われているよ」
「そうなんですね!だからこんなかわいい動物がいたんだ……」
イロナはトナカイやプレゼントもじっと見ている。柚乃も昔はこんな感じだったなぁと少し懐かしい気持ちになる。
「さて……サンタも見れたし、食べますか」
「えぇっ!そんな……こんな可愛いのを食べるんですか?」
イロナは本当に泣きそうな顔でこっちを見る。柚乃がにやにやしながら、
「マスター。こんな可愛いの食べるんですか~。信じられないですよ~」
と声をかけてくる。うぅ。そんなこと言われても、ケーキだから食べないとなぁ……
この後、僕、イロナ、柚乃で1時間以上、このケーキを食べる、食べない話が続くのだが……そのお話はまた機会があれば。
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