order26. ハーブティーと手がかり
外の木々も少しずつ葉をつけ始めた。昼間であれば、少しずつ春の訪れを感じさせるような温かさを感じるような季節。店の中では何人かのお客が来ていた。ただ、カウンターは一人しかおらず、突っ伏している。
「ぐぬぬぬ……なんの手がかりも得られねぇ……」
突っ伏していた勇者は声を絞り出して呟いている。相当悔しいようだ。そこにアイスカフェオレを持った柚乃が現れる。そして少し小声で話しかける。
「はい、勇者さん。いつものやつ~。で、イロナちゃんの両親について何かわかった~?」
すこし勇者はびっくりした様子で柚乃の方を見る。柚乃は片目を閉じてウインクした。それで察したのか、勇者も声を小さくしつつ、真面目に答える。
「いや、何にも。さすがに手がかりがなさ過ぎて……。イロナちゃんの顔を見せても、ほとんど知らないか、知っていてもこの店で見たってだけだわ」
「そうなんですね~。でもまだまだ始まったばかりですし、あきらめず頑張っていきましょ~」
柚乃は勇者を励まして、接客の方に戻る。ただ、勇者は肩を落とす。遠くで話を盗み聞きしていたマスターが勇者に近寄る。
「勇者さん、まずはイロナについて調べてくれてありがとう。本当に助かっている。僕なりにも調べてはいるものの、やっぱり勇者さんと同じ結果だわ。少し辛い状況だけど、もう少し頑張らせてくれ」
マスターが勇者に頭を下げる。勇者は手を振りながら制止する。
「マスターやめてくれ。俺はやりたくてやってるだけさ。マスターに頭を下げられる理由がないね」
そういわれたマスターは頭をあげて、にこやかな顔で勇者に答える。
「そうかい?じゃあもっと頑張ってくれ!」
「いや、その態度もおかしいでしょ……そうそう。さっき柚乃ちゃんに話しかけられた時に思ったんだが、柚乃ちゃんにはこの話したんだな?」
マスターは苦虫を潰したような顔をして答える。
「まぁ……そうだな」
「どうした?なんでそんな顔をしているんだ?」
「いや、正直に言えば柚乃にも話すつもりはなかった。これは僕の問題だと思っていたからね。でも僕も知らないルートで柚乃が話を知ったようだ。そしてかなり詰められた」
「なんて?」
「私もイロナちゃんを家族だと思っているし、一緒に両親を見つける理由はあるってさ。マスターだけでやるなんてひどいって」
マスターはその時のことを思い出しているようだ。勇者はうんうんとうなずきながら話す。
「考えてみりゃそうだな。柚乃ちゃんもあれだけイロナちゃんのことを大切にしてるのに、仲間外れされたら怒るか」
「そうですよ~めちゃくちゃ怒りましたよ~」
「わっ!!」
マスターと勇者が話していたところに柚乃が帰ってきていた。顔はいつも通りすごく笑顔に見えるが、内心でめちゃくちゃ怒っているのが雰囲気で伺うことができる。
「柚乃……ごめんって。反省してるから」
「次同じ事したら~……フフフ……」
マスターの反省の弁に対して柚乃は笑うだけ。その様子を見ていた勇者はあまりの怖さに固まっていた。
すると、喫茶店の扉が開いた。そこには女性が二人、見知った顔ぶれが立っていた。柚乃がパッと明るい雰囲気に戻って対応しに行く。
「ミアちゃんとリリーちゃん!いらっしゃいませ~」
「……柚乃ちゃん、お久しぶりです」
「柚乃さん。お久しぶりですわ。今日もお茶しに来ましたの」
「そうなんですね~。勇者さんもいらっしゃいますから、カウンターにお通ししますね~」
柚乃はミアとリリーを勇者が座っているカウンターに案内する。
「よっ!リリー、ミア」
「……元気にしてた?」
「もち」
勇者とリリーが短い会話で話をすます。ミアは勇者は一旦放置して何を頼むかを真剣に考えている。
「柚乃さん、このハーブティーって頂けますか?リリーと二人分」
「承知しました~。少々お待ちください~。マスター、ハーブティー二つお願いします~」
「あいよ。ちょいとお待ちを」
そう言うと、マスターはハーブティーの準備をし始めた。
その間、勇者はリリーとミアに話しかける。
「お前らも……信用はできるか」
「何よ。私たちのこと信用できないとかあるの?」
「いや、イロナちゃんのことで一応聞いておくことがある」
珍しく勇者が真剣な声で話しかけたため、リリーもミアも真剣な顔つきになる。
「今、マスターを中心にイロナちゃんの両親を探そうっていう話が進んでいる。ただ、まったく情報がなくて何も進んでいない。なんでもいい。何かわかることないか?」
「うーん。イロナちゃんねぇ。魔族の時点でさすがに私の管轄外かなぁ。リリーは何かある?」
早々にミアはギブアップした。勇者はだろうなぁと呟きながら、半分あきらめながらリリーの方を見る。
「……関係あるか微妙だけど……一つだけある」
「そうだよなぁ。無いよな……あるの!!なに!!!」
勇者は目を見開いてリリーに問いかける。その声を聞いたマスターや柚乃も作業をやめてまで話を聞こうとする。リリーはそれであってもいつも通りゆっくりと話しかける。
「……ペンダント」
「ペンダント?どういう意味だ?」
「……前の女子会の時に、服の中にずっと銀色で太陽の模様が入ったペンダントを持ってるのを前に見た。話を聞いたら、物心ついたころからずっと持ってるらしい。もしかしたら、そのペンダントを調べれば、故郷がわかるかも」
勇者、マスター、柚乃はリリーの話を聞いて声も出ないほどびっくりしている。ミアだけ手をポンと叩く。
「あぁ、あのペンダントかぁ。確かに珍しかったなぁ。ちょっと待ってて」
そういうと、ミアは短い詠唱をする。すると、カウンターの上に3Dのホログラムのような映像が出てきた。
「これこれ。私の記憶から引っ張り出してきた。かなり綺麗だったから覚えてたわ」
「……そう、これ。かなり珍しい。私はこれまで見たことがなかった」
勇者、マスター、柚乃も見てみる。確かに銀色で太陽をかたどった模様がついているペンダントだった。そして三人とも興奮して話しかける。
「リリー、ミア、ありがとう!!この画像をすぐにルイに渡してくれ!」
「リリーさん、ミアさん、本当にありがとう!一筋の希望の光が見えた!!」
「リリーちゃん、ミアちゃん、ありがとうございます~。さすがですね~」
三人からお礼を言われて二人とも少し照れている。そして、マスターが話しかける。
「あぁ、あと頼んでいたハーブティーを渡すね。今日はタダでいいよ。もしお代わりも必要だったら言ってね!」
二人に置かれたハーブティーは香りがすごくよく、リリーもミアもその匂いを嗅いで幸せそうな顔をした。そして、興奮している三人を尻目にゆったりとそのハーブティーを楽しみ始めた。
ここは、人の記憶を映像化することもできる喫茶「ゆずみち」
さて、次はどのような記憶を引っ張り出すのでしょうか。
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