order27. スクランブルエッグと再会再び
外の風が気持ちよく感じられる気温になってきた。昼間であれば長袖であれば快適で過ごせることが出来そうだ。そんな日の昼間だと喫茶「ゆずみち」は大人気だ。そこに二人組が来店する。
店の扉に付いたベルが鳴ったことにイロナが気づいて接客に行く。
「いらっしゃいませ。あっ、魔王様!」
「イロナちゃん、こんにちは。混んでいるところ申し訳ないけど、カウンター席にすることはできるかしら」
イロナは魔王ともう一人だけであることを確認する。もう一人は女性で、頭に耳が生えていた。また、背も標準であるものの全身が毛でおおわれていて、手には肉球がついていた。
「はい。二人であれば問題ないですよ。お席にご案内しますね」
そういうと、カウンター席に案内する。案内後は店が繁盛しているためか一礼して他のお客の方にイロナは向かっていった。
カウンター奥にいるマスターが二人の対応をする。
「魔王さん、いらっしゃい。そちらの方は?」
「あぁ。アイの件で何かできないかなぁと思ったからちょっと呼んでみた。獣人のカエデだ」
魔王に紹介された女性は軽く頭を下げて話し始める。
「猫の獣人、カエデですにゃ。よろしくお願いするにゃ」
「僕はマスター。アイの件、手伝ってもらってありがとう」
「いえいえ、同じ魔族を助けるのであれば、喜んでお手伝いするにゃ」
マスターとカエデは手を取り合う。その様子を見ていた魔王が話しかける。
「で、イロ……じゃなくてアイの件は進捗どうよ」
「最近、かなり小さなことだが、情報はあった」
マスターはそういうと、周りをキョロキョロしてから魔王に小さな声で注意する。
「魔王さん、イロナちゃんの名前はダメですよ。イニシャルのアイで統一するっていう話だったでしょ」
「ごめんなさいね……ちゃんと気を付けるわ」
魔王の反省を聞いて、すぐにマスターは以前、ミアとリリーが来た際に話していたペンダントの話をしつつ、二人にお願いして誰でもパッと映像が見れる魔道具を使ってペンダントの模様も見せた。そしてマスターが二人に聞く。
「なんでもいいのだが、なんか気づくことや思った事なんかは無いか?」
「うーん、難しいにゃ。実物があれば匂いとかで色々調べることはできるけど、さすがに魔道具のイメージだけだと、できることはほとんど無いにゃ」
「そうか……実物は本人が持ってるけど、さすがに今すぐに見せてって言えないからなぁ」
マスターは念のためカエデに見てもらいたくて魔道具をカエデの前に置いた。
すると、イロナがオーダーを伝えに返ってきた。
「マスターさん、サンドイッチ一つとアメリカンコーヒーお願いします……ってあれ?魔王様はまだ頼んでないのですか?」
「あぁ……えっと……」
急にイロナに話しかけられてびっくりしたのか、魔王は挙動不審になる。すると、横にいたカエデが魔道具をイロナから見えない位置に動かしつつ、フォローを入れる。
「魔王様はお腹がへっているので、何を食べるか悩まれていたのにゃ」
「そうそう。お腹減ってて。えっと、このスクランブルエッグもらえるかしら」
たまたま目に入ったメニュー表に乗っていたスクランブルエッグを頼む。
マスターもイロナに怪しまれないようにそのオーダーを受け取る。
「イロナちゃん、サンドイッチとアメリカンコーヒー、了解です。魔王さんもいつものにスクランブルエッグね。ちょいとお待ちを」
マスターはすぐさま、料理に取り掛かる。イロナは何も不思議に思わず、次のお客の相手をしに行った。そして、魔王とカエデはイロナに怪しまれないためにも雑談を始めた。
すこし時間が経ったのち、マスターは二人に料理を出す。
「はい、魔王さんはいつものアメリカンコーヒーと……頼んだスクランブルエッグ。カエデさん、結局頼めてなかったけど、何が欲しい?」
「このスクランブルエッグを頂くにゃ。どうせ魔王様はいらないはずだにゃ」
「そうだな。かえで、食べてくれ」
そう言うと、魔王はスクランブルエッグをカエデに渡す。スクランブルエッグは出来立てだからか湯気が立っていた。ふんわり仕上げられていて、卵がプルプルとしている。
カエデはそばにあったケチャップを迷わず手に取るとスクランブルエッグの上からかけて食べ始めた。魔王の方はアメリカンコーヒーを楽しみ始めた。
「うん。おいしいにゃ。スクランブルエッグがふんわりしていて、ケチャップの甘さとよく合うにゃ」
そう言いながら、カエデは黙々と食べ続ける。お腹がへっていたようだ。
そうしていると、イロナがお客を一人連れてカウンターまで現れた。
「すみません、店が混んでいるので、カエデさんの横の席、よろしいでしょうか」
「どうぞにゃ」
そのお客が席について、マスターが顔を見て少し驚く。そしてお客がマスターに話しかける。
「本当にお久しぶりです。マスターさん」
「久しぶりだね!アルトさん!」
その言葉をカエデの横で聞いていた魔王はコーヒーを噴き出してむせる。その様子を見たカエデが理由もわからず、魔王を介抱する。アルトは少し横が気になったが、マスターに色々話したいのかマスターの方を向いて話し始める。
「この期間で色々な魔族の町を見てきました。結局、女性は見当たらなかったのか、思い出せなかったのかわかりませんが、合えずじまいです……」
「そうですか。それは残念でしたね……」
マスターは本当にちらっと魔王の方を見る。魔王は目線を合わせたくないのか反対側をずっと見ていた。
「久々に近い町まで戻ってきたので、あの味が恋しくて立ち寄りました」
「あぁ、はちみつレモンね。お待ちを」
そういうとマスターは、はちみつレモンを作り始める。アルトは飲み物を待ちつつ、噴き出した人が大丈夫かと気になったようでふと横を見た。魔王はアルトと逆方向を向いていたので、顔を見ることはできなかった。代わりに、カエデの前に置かれていた魔道具から出ている光を見て呟いた。
「あぁ、あの村の紋章か。懐かしいなぁ」
本当に小さな呟きだったものの、耳がいいカエデには聞こえたらしい。魔王の介抱をほっておき、アルトの方を見て聞く。
「この模様をどこかで見たことがあるのにゃ!?」
アルトはカエデが真剣な声で聞いてきたのに少し驚きつつも、答える。
「あぁ。この半年ぐらいで回った魔族の小さな町に同じような紋章を売っている店があった。あまりにもきれいだから、私も一つ買おうか迷ったからな」
マスターがちょうどはちみつレモンを作り終えて帰ってきた。マスターがその話を聞いてアルトに尋ねる。
「アルトさん!何でもいい、この模様を見た町について教えてくれないか?」
「あぁ、全然いいよ。この模様を見たのは……」
ここは、様々な度重なる偶然によって情報が見つかる喫茶「ゆずみち」
さて、次はどのような偶然が起こるのでしょうか。
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