order25. ポテトチップスと真夜中の会議

森の中の動物たちも寝ている時間帯、雲が厚くかかっていて明かりがないと足元も見えない。ただ、冷え込みも少し落ち着いていて少し肌寒い程度になってきた。そして、最近見た気がするが、喫茶「ゆずみち」の室内には小さな明かりが見える。


「すまんな。こんな時間に集まってもらって」

マスターはそういうと、アメリカンコーヒーとオレンジジュース、レモネードを作りながら話す。カウンターに座っている三人は全く気にしていない様子で返事をする。


「ホントにこんな時間に集合だなんて、どうにかならなかったの? 他の奴なら絶対無視しているわ」

「魔王様、そんなきついこと言わなくても。魔王城ではマスター様のご連絡を聞いて『私を頼ってくれるなんて!』って喜んでいたくせに」

「俺も同感だな。ここに来るまであんなに喜々としていたのに」

「ちょっと!!アリスも黒騎士もいらないこと言わなくていいの!」


魔王は顔を真っ赤にしながらアリスと黒騎士に反論する。二人は何も言い返さないものの、温かい目で魔王を見ていた。

魔王はこほんと咳払いしてからマスターに向かって聞く。


「……で、こんな誰も起きてなさそうな時間に集合した理由を教えてほしいわね」

「わかった。飲み物を渡してから話させてくれ」

マスターはそういうと、各々の好きな飲み物を順に渡していく。今回は手間をかけないようにレモネードはレモンを絞って先に入れているようだ。


魔王、アリス、黒騎士は各々飲み物を受け取り、魔王だけコーヒーを一口飲んだ。その様子を見ながらマスターは話し始める。


「どうしても三人に聞きたいことがある。この話は他言無用で頼むが……イロナのことだ」

「イロナちゃん?イロナちゃんがどうかしたの?」

「イロナの両親を探している」


マスターの言葉を聞いて、魔王に若干戸惑いが見られる。

「どうして探すの?イロナちゃんが探してほしいって言ってきたの?」

「いや……そんなことはない」


マスターはしっかりした口調で魔王の質問に答える。ただ、魔王はその回答に若干不服があるようで質問を続ける。


「マスター。その心意気はとっても素敵だと思うし私は好きだわ。けど、この時間にこの話をしてるってことはイロナちゃんに何も話してないでしょ。厳しいこと言うけど、それはマスターのエゴだわ」

「……」

「あの子にとってマスターや柚乃ちゃんが今は両親の代わりだと思っている。それじゃダメなの?」

「……」


魔王の質問にマスターは少し沈黙する。その様子を隣にいるアリスも黒騎士も黙って見守る。考えがまとまったのか、マスターは口を開く。

「魔王さんの言う通り、これは僕のエゴだ。確かに全くイロナに話してはいない。そしてイロナが僕や柚乃を慕ってくれているのも理解している」


マスターはここで一旦、話を区切る。少し深呼吸してから話を続ける。

「でも……たとえ僕のエゴであっても……イロナにはもっと幸せになってほしいんだ。戦争で両親と離れてしまってから会えてないなんて悲しすぎる。確かに魔王さんの言う通りイロナに話すべきかもしれない。けど、それは今じゃないと思っている」


マスターの話す言葉を一言一句聞き漏らさずに聞くために、魔王もアリスも黒騎士も物音一つ立てずに聞き続ける。

「イロナは……あまりにも優しすぎる。今すぐに両親の話をしてしまうと、恐らく期待と不安が入り混じって心が潰れてしまう気がする。なぜなら……両親は死んでしまっている可能性もあるからだ。だから、せめて両親の目途が立つまでは隠し通したい。これが僕の思いだ」


少しの間沈黙が生まれた。そして、初めに声をあげたのは意外にも魔王ではなくアリスだった。ただ、その声は涙で鼻声になっていた。


「……まずだー様。そこまで魔族であるアリズ様のことを……思ってくださって……ぐすん。ばだじは……私は同じ魔族としてとっても嬉しいです」

そう言いつつ、店のテーブルにあったティッシュで鼻をかんでいる。その様子を魔王は苦笑いしながら見つつ、続けてマスターに話しかける。


「マスターの気持ちはよくわかったわ。そこまで本気であの子のことを考えているのであればいいでしょう」

黒騎士は甲冑を外さないうえ、全く声を出さないためどのように思っているかは不明だが、アリスと同じくティッシュで鼻をかんでいることはわかる。


「アリスさんも魔王さんもありがとう。おそらくとても大変なことだけど、一緒に手伝ってくれるかな?」

「マスターの頼みならね」

「マスター様。私のできる範囲であれば何なりと」

「マスター……俺のできることをいってくれ。なんでも手伝おう」

「みんな……ありがとう」


マスターはOKを出してくれた三人に頭を下げる。感謝を受けて魔王が少し恥ずかしかったのか、マスターに返事をする


「マスター、そんな湿っぽいのはやめとこう。魔族が魔族の困っているのを助けるのは当たり前だし。それより……お腹へったから、あの薄くてぱりぱりの奴くれないか?」

「薄くてぱりぱりって……以前魔王さんが来られた際に出すものが無くて、仕方なく出したポテチのことか?」

「そうそう。あれ、めっちゃおいしいからまた食べたいのだけど」

「あれでよかったらすぐ出せるけど」

マスターは棚からポテトチップスの袋を取り出して、お皿に取り分けて三人に渡す。


「うちは喫茶店だから、本当はハンバーガーの付け合わせで出すぐらいだけどね。今回は特別だよ」

アリスと黒騎士は薄くて何かわからないものを出されて少し戸惑っているものの、魔王はすぐに手を伸ばして食べ始める


「うん!これこれ~。塩味と芋の味がマッチしてたまらない!」

その様子を見ていたアリスと黒騎士も食べ始める。

「おいしい!!」

「うまい」

アリスも黒騎士も二枚目、三枚目と手が伸びていく。

その様子を見ながら、マスターは尋ねる。


「ポテチもいいんだが……イロナの件、何かわかることとかないか?」

その言葉にアリスは手を止めて返事をする。

「マスター様。正直にお答えしますが、かなり難しいです。以前連れてきた四天王の吸血鬼のアヤメ様やドワーフのクド様のような見た目でも種族がはっきりわかる固有種族であれば、色々調べることができますが……イロナ様は恐らく一般的な種族であるため、手がかりがないのとほぼ同じです」


魔王もうなずいている。その様子を見たマスターは少しトーンを落としながら話す。

「そうか……まぁ、何でもいいので、もし情報があれば頼むわ」


そういうと、三人ともマスターを励ましたいのか、少し元気な声で話しかける。

「マスターがそういうなら……仕方ないけど、いろんなところに使いを出して聞いてみるわ」

「マスター様。私も微力ながら魔王城の色々な方に聞いてみます。クド様とかアヤメ様なら何か知ってるかも」

「マスター、俺も色々な魔族の町をめぐるとしよう。魔王、いいな?」

「いいわよ。人間の戦争を止めてくれた功績での休みってことにしとくわ」

「感謝する」


その様子をマスターは見ながら、涙をこらえているようにも見える。ただ、弱みを見せないためか、涙をさっと拭いて三人に話しかける。

「みんな、ありがとう。早速なんだけど、直近の進め方を相談させてほしくて……」


ここは、たった一人の女の子のために本気になれる喫茶「ゆずみち」

さて、次はどのような想いを聞くことができるのでしょうか。

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