order24. フライドポテトと秘密の会議

大多数の人が寝ている時間帯、外は雲一つないからか、星と近くの惑星がとても美しく見える。ただ、雪は降っていないものの、かなり冷え込む。そして、かなり珍しく喫茶「ゆずみち」の室内も小さな明かりが見える。


「すまんな。こんな時間に集まってもらって」

マスターはそういうと、アイスカフェオレとホットミルクを作りながら話す。カウンターに座っている勇者とルイは全く気にしていない様子で返事をする。

「他の奴の頼みならまだしもマスターの頼みであれば、いつでも、どこでも、何度でも集まるけどな」

「そうですよ、マスターさん。いつもお世話になりっぱなしですし、こんなこと頼みにもカウントされないですよ」

「……ありがとうな。あいよ。アイスカフェオレとホットミルク」


マスターは二人の言葉に嬉しさを噛みしめながら、出来立ての飲み物を渡す。二人は受け取って、まずは一口飲む。そして勇者がゆっくりと口を開いた。


「……でだ。こんな時間に集まっている理由をそろそろ教えてほしいのだが?」

マスターは一度周りと見まわしてから、少し声を小さくしながらも真面目なトーンで話し始めた。

「そうだな。どうしても二人に聞きたいことがあって……。イロナのことだ」

「イロナさんですか?今この店の中で寝てますよね?」


ルイも声を小さくしながら、不思議そうに聞き返す。マスターは頷きながら話し始めた。

「そうだ。以前、イロナと話しているときに、僕から半分家族みたいだよっていう話をしたことがあったんだが……その時からずっと気になっていることがある」

マスターはここで一旦深呼吸して、続けて話した。


「イロナの両親は……人間と魔族との戦争で離ればなれと聞いたが、今はどうしているんだ?」


勇者とルイの目がスッと狭まる。どちらもこの時間に呼ばれた理由を理解したようだ。勇者も真面目なトーンで答える。

「俺の知っている範囲で先に話させてもらう。この話は実際にイロナを助けたときに聞いた話だ。イロナの両親は確かにマスターの言う通り、戦争で離れてて消息不明、つまり生死も不明と言える。俺もイロナを助けた後に色々聞いたが、イロナ自身も昔のことなのと、戦争時のショックで色々覚えていないっぽい」

勇者は珍しく肩を落としながら、そして寂しそうな声で最後は話した。マスターは少し沈黙した後に口を開く。


「勇者、言いにくいことまで言ってくれてありがとう……、ルイは何か知らないか?」

「いえ、マスターさんには申し訳ないのですが……何の情報も持ち合わせていません」

ルイも勇者ほどではないが、寂しそうな声で答える。ルイの答えを聞いた勇者は逆にマスターに聞き返す。


「マスター、俺からも二つ聞かせてくれ。一つ目、どうしてそんなことを聞くんだ? 二つ目、何でもいい。知っている情報は無いのか?」

「まずは情報だが、二人と同じ程度だ。さすがにこの話はイロナに直接聞けてはいない。心の傷が開くかもしれないからな。そして聞く理由だが……イロナが家族だからっていうのはダメか?」


その返事を聞いた勇者とルイは少し目を丸くする。そして共に答える。

「ダメなわけないだろ! お前らはもう立派な家族さ。確かに家族のことで悩むのは普通のことだな」

「そうですね。マスターさんのお考えはよくわかりました」

「……ありがとう」


マスターは全ての色々な複雑な感情をすべて含めて一言で答えた。ただ、顔は見せたくないのか、ふっと厨房の方を向きつつ、二人に声をかける。

「さて、せっかく来てもらったから、何かつまむもの作るけどいいか?」

「おう。頼むわ。少し腹減ったし」

「あいよ。ちょいとお待ちを」


そういうと、厨房に入って少し料理を作り始めた。

料理ができる間、勇者とルイは真面目な顔で色々話し込んでいるようだ。


そうこうしている間にマスターが料理を作って、持って来た。

「あいよ。フライドポテトお待ち。熱いからやけどには気を付けてくれよ」


そう言うと、平たい皿に山盛りに盛られたフライドポテトを二人の前に置く。

フライドポテトはくし切り(三日月のような形)で厚切りタイプのようだ。そして全体に軽く塩がかかっているのが見て分かる。あと本当にできたてだからか、かなり湯気が立っている。そして皿のほかに小さな容器に入れられたケチャップもちょこんと横に置かれた。


「こっちがケチャップだ。こっちも是非試してくれ」

「マスター、ありがとよ。せっかくだから頂くわ」

「マスターさん、ありがとうございます。頂きます」


勇者もルイもおなかがすいているからか、素手で持って食べ始める。

「あつ!……でもめっちゃうまいじゃん!」

「そうですね!この赤いソースもめちゃくちゃ合います!」

そう言いながら二人ともがつがつと食べ始める。しれっとマスターも食べている。

ひと段落してから、勇者がマスターに話しかける。


「そうそう。このフライドポテト作ってくれている間にルイとどういう風に進めるか相談してたんだ」

手に付いたケチャップをなめながら話を続ける。

「俺は人間と魔族の両方の町の知り合いを片っ端から聞いていこうと思う。ルイの方は情報取集と情報管理をしてもらう。おそらく今回の件は情報が命だから、情報を管理する奴が必要になると思うので、そこをしてもらう。つまり、集めた情報はルイにいったん集約して、ルイから全員に発信するってことだ」

そこまで話すと、残っていたアイスカフェオレを一気に飲み干した。マスターは頭を下げる。


「俺のわがままに付き合ってもらってすまんが、よろしく頼む」

「了解―。気にするな、俺はやりたくてやってるだけさ」

「そうですよ、マスターさん。私もあの子の笑顔が見たくてやるだけです」

二人ともニコッとしながら返事を返す。ただ、ルイはすぐに少し悩んでいる顔になる。


「ただ……現状のヒントがイロナちゃんの顔だけっていうのが。本当に些細な情報でもいいんですが、マスター、何かないですか?」

「うーん。イロナちゃんの好きな食べ物や飲み物はわかるけど、こっちの世界にないものだし。今パッとは思いつかないな……」

「わかりました。では、何かわかったことがあればすぐに連絡をくださいね」

「あぁ。了解した」

マスターはルイの質問に少し元気に答えた。マスターの元気が少し戻ったことに勇者とルイは少し安心したようだった。


ここは、たった一人の女の子のために真夜中でも集まる喫茶「ゆずみち」

さて、次はどのような秘密の話を聞くことができるのでしょうか。

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