order23. ケーキセットと女子会

店内から珍しくマスターの恥ずかしそうな小さな声が聞こえる。

「いえ、イロナちゃんに『なんで優しくしてくれるの?』って聞かれちゃって。つい反射で家族みたいに思っているって言ってしまったのですよ……いやいや、お恥ずかしい」

その話を聞いていた魔王はにこにこしながら答える。

「恥ずかしいなんて。さらに仲が良くなって良かったじゃない。返事としては100点だと思うけど」

「そうですかねぇ……」


マスターは魔王からの返事も恥ずかしいのか、どんどん小さな声になっていく。

すると、お客に注文品を渡してきたイロナが現れて不思議そうな顔で聞いた。

「マスターさんも魔王様もどうしたんですか。小さな声でひそひそと」

「わっ!!」

マスターは急にイロナに話しかけられて飛び上がってびっくりする。その珍しい様子を見た魔王はげらげらと笑った。そしてイロナの方は頭に?マークが飛び交っているようだった。

イロナはマスターと魔王に色々聞こうとしているものの、マスターはごまかしているようだ。


しばらくすると、店の扉が開く音がした。手が空いていた柚乃が対応しに行く。

「いらっしゃいませ~」

扉の方に歩くと、見知った二人がそこには立っていた。

「……柚乃ちゃん。お久しぶりです」

「柚乃さん。お久しぶりですわ」


旧勇者一行のリリーとミアがそこには立っていた。そしてミアは続けて話す。

「近くを通りかかったので、せっかくだから一緒に行きましょうとリリーさんをお誘いしたのですわ」

「そうだったんですね~。とりあえずテーブル席にどうぞ~」

柚乃はテーブル席に二人を案内する。二人は椅子に座って柚乃に尋ねる。

「……何を食べよう。甘いデザート的なものを食べたい気分です」

「私も」


二人は座ってそうそう何を頼むか悩んでいるようだった。すると柚乃は尋ねる。

「甘いデザートであれば、ケーキセットとかどうですか~」

「……けーきせっと?せっかくおすすめ頂いたのでそれをお願いします」

「柚乃さんがおすすめするのであれば、私も」

「ご注文承りました~。ケーキの種類と飲み物もいい感じの物を準備しておきますね~」


柚乃は注文をマスターに伝えに行こうとした。すると後ろからミアが呼び止める。

「あの、もしよかったら柚乃さんもこのお茶会に参加なさらない?勇者の色々なお話をせっかくなのでお聞かせしてほしいので」

「うーん。マスターに聞いてきますね~」

柚乃はマスターの元に小走りで聞きに行った。いくつか話した後二人の元に帰ってくる。

「休憩がてらお話していいって~。あと、もしよかったらイロナちゃんも参加させてくれると嬉しいけど、どうですか~」


イロナちゃんと聞いてミアが目を輝かす。

「イロナちゃん!何度か注文取ってもらった事あるけど、あまり話したことないしぜひ!」

「……私も。イロナちゃんとお話ししたい」

「わかりました。マスターとイロナちゃんにお伝えしてきますね。ケーキセット、もう少々お待ちください~」

柚乃はマスターの元に引き返す。


「……ミア。イロナちゃんって魔族だよね」

「そうよ。勇者が保護したって前に聞いた」

「……可愛いし優しいし魔族ってこんな子もいるんだって思った」

「そうね。正直私も同じこと思った。もっと残酷でひどいやつばかりだと。そう考えると私たちの思っている魔王も、もしかしたら優しかったりして」

「……いや、それは無いでしょ。さすがに」

「だよねー」

カウンターの方で、魔王は何を思うのか、涼しい顔でアメリカンコーヒーを一口飲んでいた。


すると、イロナと柚乃がケーキセットをもって二人の元に来た

「ミアさん、リリーさん。ケーキセットお持ちしました。ケーキはモンブラン、飲み物は温かい紅茶です」

イロナと柚乃は4人分のケーキセットを順番に置いていく。そして各々の横の席に座った。

「……ありがとう。いただきます」

リリーに続いて四人もいただきますといってケーキセットを食べ始める。


モンブランは栗のクリームがふんだんに乗っていて、その頂上に甘く煮た栗そのものが乗っているタイプのケーキだった。また、紅茶もきれいな黄金色で透き通っている。

「おいしいですわ!!初めて食べましたけど、この甘ったるくない甘さがたまりませんわ。そしてこの紅茶も香りが良くて、ケーキとばっちりあってます!」

ミアはそういうと、モンブランをペロッと食べきった。そして一言。

「マスターさん、これを同じのをもう一つお願いしますわ」

「マスター。私も~」

ミアの言葉の後に柚乃も続く。もちろんお皿には何も残っていない。

「あいよ。ちょいとお待ちを」

マスターは苦笑しながらケーキを準備し始めた。


ミアとリリーはケーキを待っている間、柚乃とイロナと話をする。

「……イロナちゃん。今日は胸からペンダントみたいなものがでてるけど、それは勇者からのプレゼント?」

イロナは慌てて胸元を見る。首からペンダントがぶら下がっており、銀色で太陽のような模様が刻まれていた。そのペンダントを服の中にしまって、返事をする。

「いえ、これは……物心がついたころからずっと持っているもので、勇者さんから頂いたものではありません。大切なものというわけでもないのですが、やっぱり愛着が湧いてしまって」


リリーとイロナの話を横で聞いていたミアは、どうしても聞きたいことがあるのか、話を少し遮りながら柚乃とイロナの顔を見ながら話しかける。

「柚乃さん、イロナちゃん。どうしてもお二人にお聞きしたいのですが……ずばり、お二人は勇者をどう思っていますか?」

「ただの友達~」

柚乃は即答した。そしてイロナも続く。

「大切な人……でしょうか」


ミアとリリーはあまりにびっくりして口をパクパクして声が出ない。柚乃がフォローをいれた。

「まぁ、イロナちゃんにとっては大切な人か~。奴隷商から助けてくれた恩人だもんね」

「はい。勇者さんがいなければ、こんな幸せな場所にも来れなかったので」

イロナはとても幸せそうに答えた。リリーもミアもほっと胸をなでおろす。その姿を見て、柚乃は二人に質問した。


「じゃぁ逆にミアさんとリリーさんにとって、勇者さんはどんな方ですか~」

「殴りたいやつ」

今度はミアが即答した。リリーは悩みながらも続いて答える

「……安心できる人でしょうか」

その二人の回答を聞いてイロナはびっくりして聞き返す。

「安心できるはいいですが、殴るのはやめてあげてください! 痛いのは勇者さんがかわいそうです!」

イロナの必死な姿に他三人は見合して笑った。


ここはケーキを食べながら女子会もできる喫茶「ゆずみち」

さて、次はどんな会が開かれるのでしょうか。

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