rest3. 凍える中で

とある無人島の洞窟からパチパチと火にくべられた木がはじける音が聞こえる。

洞窟の中に恐らく40歳前後であろう、かっぷくの良い男が、火の近くで石を枕に一人で寝ころんでいた。


ただ、その姿はこの洞窟とは不釣り合いで、その男はとても高級そうな服で全身コーディネートされている。パッと見てもどこかの貴族か何かだとわかるぐらいに。

「くそっ……なんで我がこんなところで。あの青い騎士め……」

そう呟くと、その声に呼応してなのか、

「グォォォォ……」

遠くから聞いたこともない猛獣の怒鳴り声が聞こえる。

男はビクッとして、キメラか!?と呟きながら周囲を見渡す。ただ、周りは物音一つなく静まり返っている。

男は怖さ故なのか、寒さ故なのか身をギュッと丸めて目をつむる。そして数十分後、そこには静寂の中、寝息が一つ生まれた。



・・・・・・



あぁ、腹がたつ。

あの奴隷商さえ捕まらなければもっと儲けることができたというのに……

我は召使いに継がせた酒をあおる。どうせ、にっくき魔族の仕業に違いない。


前回も魔族を少しでも滅ぼそうと軍隊に攻めるよう勧めたというのに、あの腰抜けは『魔族に好きなやつが居るからやめてくれ!!』なんて叫んだせいで、結局周りの指揮はダダ下がり。結局遠征どころじゃなくなってしまった。本当についてない。

「魔族を滅ぼすほどの戦力さえ我が国にあればなぁ……」

つい口から愚痴がこぼれる。そして酒をさらにあおった。すると、目の前に一人のローブを羽織った男か女かわからない奴が扉からスッと現れた。


「誰だ!!なぜこんなところにいる!!!」

ここは俺の寝室であり、いろんな奴が警備しているはずなのに……なぜ目の前にいる?

「失礼。私は……あなたにプレゼントを持って来たものです。魔族を攻め滅ぼしてみたいとは思いませんか?」

「……何が言いたい!えぇい。誰か警備の奴はおらんのか」

目の前に急に現れた上に、プレゼントなどと……意味が分からない。警備の奴をとりあえず呼んでみたものの、まったく返事は無い。

「警備の物は全員寝ていただきました。暴れられるのも大変なので」

しれっと目の前の奴は話す。状況はざっくり把握できた。こいつはかなりできるやつだ。そうなると、暴れてもメリットはない。


「なるほど……ではその強さに免じてここに入ったことは不問としよう。で、なぜプレゼントを我に送る。そもそもなぜ我が魔族を恨んでいると知った?」

あまりにも不審すぎる故に、とりあえずストレートに聞いてみることとした。ただ、目の前の奴はにこりともせず我に話しかける。

「まず……魔族を恨んでいると知った理由は、単純に最近、この国が魔族を攻めようとしていたことを風の噂で聞いたからです。この国の兵から話を聞いたところ、王様がなかなかに魔族嫌いで有名だと」

事実、魔族が嫌いだから何とも思わない。

「そして、私も魔族は大嫌いなので……私の代わりに戦ってほしいからプレゼントをお渡ししに来ました」


戦ってほしいからプレゼントとはまた珍しいやつが居るもんだ。まぁ。これ以上話さなさそうだから納得するしかないが。

「わかった。まぁいい。で、我へのプレゼントはなんだ?」

「魔法の……モノクルです」

「ものくる?なんだそれは?」

モノクルなんてもの、聞いたことがない。すると、丸いガラスが一つ入った高そうな装飾品を出して渡してきた。

「このガラスを通して外の人々をご覧ください。すると何か見えませんか?」

装飾品を受け取り、窓から外を見渡す。まだ昼だからか国の中は少し活気があるように見える。受け取った装飾品で外をみた。すると、2つほど大きな渦が見える。色は青と紫っぽい。

「みてみたぞ。なんか青と紫の渦が見えた」

「では、その渦の中心の者たちを集めて、この国の兵と模擬戦でもさせてみなさい。おそらくどの者たちも負けるとは思いませんが」

この国の兵がそんな簡単に負けるとは思えない。ただ、こいつの言うことには自信が満ち溢れている。


「わかった。一度やってみよう。で、我がお主に何をプレゼントすればよい?金か?奴隷か?」

「いえ、魔族と戦争をしてもらえるのであれば……なんでも。あと、その渦の者たちは恐らく言うことを全く聞かないので、マイドルの薬を使って攻めるともっと楽かもしれませんよ」

「おいおい。マイドルか?あれは特効薬があるから意味ないだろ」

「確かに。では、この薬もおまけしましょう」


目の前のフードの奴は本当に小さな小瓶に入った薬も渡してきた。

「この薬を飲ましてからマイドルを飲ませなさい。ただ、薬の量はせいぜい2人分ぐらいしかないから、必ずその渦の中心の奴に使うように。そうすればいうことを聞くはずですので」

瓶を受け取った。我はその小瓶を見つめる。小瓶には紫色の液体が少し入っているだけだった。

「おい、本当にこんなものが……」

小瓶について聞こうと思ったものの、小瓶に目が行った一瞬で奴は目の前からいなくなっていた。


夢かと思うぐらい周りには誰もいない。男はただ一人残された。

ただ、今回の出来事が夢ではないことの証明として、手には小瓶と装飾品が握られていた。

「まぁいい。どうせ魔族を攻める案は全くないのだから。やってみればいいか」

我はとりあえず街中の渦の者を集めるため、支度を始めた。



・・・・・・



ふと男が目を覚ます。洞窟に光が差し込んで目が覚めたようだ。


男は思い出したかのようにポケットから金の装飾がされたモノクルを取り出した。その男はモノクルに嫌な思い出でもあるのか、洞窟の外に出て、海に向かってモノクルを投げた。


「くそ!このモノクルさえなければ、こんなところに来なくて済んだんだ!!」


男は海に向かって、そう叫びながら恨めしそうに流れていくモノクルを見ていた。

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