rest2. 小さな夢と約束

喫茶「ゆずみち」を真夜中に出た魔王と黒騎士は帰路に就く。

魔王は魔王城へ、黒騎士は戦場へ。

その分かれ道が目の前にきた。

「黒騎士、今日は付き合ってくれてありがとう。正直、今回はかなり無理を言っていると思っているが、魔族のため……そして人間のために頼むわ」

「承知」

黒騎士は端的に答え、戦場に向かって歩く。


黒騎士は10分ほど歩いて、広い原っぱに出た。周りに誰もいないことを確認して甲冑をすべて脱いで魔法の袋にすべて詰めた。そして袋から普段の服を出して着る。袋は甲冑すべてを取り込んだにもかかわらず、肩にかけるカバンぐらいの大きさになった。

夜なので顔までは暗くて見えない。ただ、長い黒髪をかきあげた瞬間、月明かりが差し込み、顔から涙が顔を伝っている様子がチラッと見えた。そしてその人物は目の前の広い原っぱに寝転がり……星空を眺めていた。少し経つと寝息が生まれた。


・・・・・・


「俺は戦いに来たんじゃない。話をさせてくれ」

目の前の人間はわけのわからないことをいっていた。とりあえず切ろうとしたがすべて避けられる。

「おっとと……なぁ、話ぐらい聞いてくれてもいいだろ?」


目の前の男は適当でがさつそうでイラつく。だが、すべて避けられている手間、体力を減らすのは得策ではない。

「俺に……なんのようだ」

「ようやく話してくれた。いや、どんな奴かなぁと思って話をしに来たんだ」

「……」


この男を本気でぶった切った……はずなのに、なぜか空を切る。

「だからー。なんでもいいから話させてくれよ。じゃあ、なんでお前はこんなところで魔物を守っているんだ?」

つい剣が止まってしまった。どういう意味だ?

「お前は、この世界のもんじゃないだろ?」

なぜ知っている。これまで……ばれずに来たというのに

「あぁ、隠しても無駄だぜ。オーラが他と全く違うから。まぁこの世界でそのオーラを見れるのは現時点でたぶん数人ぐらいだから気にすんな」


オーラとか何を言っているかはわからんが、とりあえずこいつは秘密を知ってしまっているようだ。しっかりと剣を握りなおす。

「おいおい、冗談だろ?俺はお前と戦うつもりは全くない。うーん、どうしたら信じてくれるんだ?」

目の前の男は本当に困っているようだ。まぁいい、どうせ剣が当たらないのだ。話ぐらい聞いてもいいだろう。私は剣を下げて、そこにあるちょうどいい石に座った。

「で、何を話せばいいんだ?」

目の前の男も私の対面の石に座って、真剣な目で聞いてきた。

「なぜ、人間を滅ぼさない。お前ほどの力があれば簡単に攻め込めるはずだろう」

あぁ、そんなことか。


「人間を滅ぼす理由が俺にはない」

「じゃあ、もし攻め込まれたらどうするつもりだ?」

「……おそらく戦うだろう。正直魔族が滅んでも困らないが、最近仲良くなったドワーフが死ぬのはごめんだからな」

目の前の男は少し安心したようだった。

「お前にも心があってよかった。じゃあ、俺の夢を聞いてくれないか?」

この男は急に何を言っているんだ……

そう思っていると、男は勝手に話し始めた。


「俺は……人間と魔族が種族を気にせず生きていける世界を作りたいんだ」

「そうか。勝手にすればいい」

「いや、ぜひお前には手伝ってほしい。絶対に必要な人材だからな」

なぜそうなるのか全く意味が分からない。どうしてそうなる。

「なんでだ?って顔だな。理由は簡単。人間や魔族という種族を気にしていないからだ」

まぁ、確かに人間や魔族なんて私からしたら微々たる差ではある。たまたま転生した先が魔族だっただけなのだから。


「この世界の住人はどうしても人間や魔族という種族を気にしすぎてうまいこといかない。だからこそ異世界の人を巻き込んで夢をかなえたいんだ」

「そうか。じゃあ、俺を巻き込まず頑張ってくれ」

目の前の男は少し悲しそうな顔をした。

「そういうなって。じゃあ、お前の夢は何だ?」


私の夢……考えてもみなかった。

この世界に転生してからというもの、魔族の軍団の長としてなりきっていた。

それは私がやりたくてではなく、単純に戦争なんて好きじゃなかったから。それに尽きる。

私の力をつかえば、戦争が簡単に止めれそうだということは転生してすぐにわかった。だから、武力を振るい戦争を膠着まで進めることができた……が、これは私の夢ではない。

その次の言葉は自分も驚くほど自然に出た。

「料理店でもしたいかな」

目の前の男はその一言に目を輝かせる。

「マジか~料理店。いいね!開店したらぜひ俺も食べさせてくれ!!」

目の前の男は座っていた石から立ち私の方に歩きながら来る。



「俺はお前のことを何も知らない。でも、これまで一人で……色々お疲れ様」



そして私の方に手を出す。

「お前の夢、一緒に叶えさせてくれ。ただ、人間と魔族が戦争している限り、お前のその夢は難しいと思う。だからお前は俺の夢を一緒にかなえてくれ」

本当に……初めてだ。

これまで転生して黒騎士として自分を偽り続けた。


いや、偽らざるを得なかった。


たとえ転生前は戦いなんて全く関係なかった私であっても、戦地に行かざるを得なかった。魔族たちは私の行動一つで夢を見るがごとく一喜一憂するのだから。ただそれはこの世界の私の存在意義であり……最強の戦士、黒騎士でいなければ、という呪縛でもあった。


誰にも話せない転生のことも含めて、この目の前の男は言ってくれたのだろう。

自然と涙が頬を伝う。そしてその男の手を握って言ってやった。

「わかった。人間と魔族が種族を気にせず生きていける世界を作るのを手伝おう。いつでも、どこでも、無条件に駆けつけよう。ただし、それが終わった暁には……私の店に絶対に食べに来てくれ」


私は自然と頭の甲冑を外した。目の前の男は何にびっくりしたのかはわからないが、かなり目を丸くしていた。

「私の名前はサーシャ。お前の名は?」

「俺の名か。俺は……」


・・・・・・


原っぱの真ん中で寝ていた女性は、太陽の光と共に目を覚ます。そして袋から甲冑を取り出し着なおした。そして黒騎士は猛ダッシュで戦地へ向かった。そして黒騎士はつぶやく。

「懐かしい夢だ……絶対にこの戦争はとめてやる。

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