order14. かき氷と作戦

外は炎天下でかなり暑い。異世界独特の虫も暑さで鳴くのを忘れているのか、いつもより静かな昼下がり。勇者はいつも通りカウンターでうなだれていた。

「暑い~。もう無理」

「そう言わず。戦争の対策を練りに来たんだろ。ここに涼みに来たのではないはずだが?」

「そうだけど……マスター、アイスカフェオレお代わり」

「あいよ。お代わり作るから、しっかり考えてくれよ」


そう言って、マスターはアイスカフェオレを作り始める。

そこに他のお客さんに飲み物を渡し終えたイロナが心配そうに勇者に声をかけた。

「勇者さん、大丈夫?最近、よくカウンターでうなだれているのを見るけど……」

「イロナか。心配してくれてありがとう。完全に八方塞がりでな……まぁどうにかなるだろ」

勇者はイロナに心配かけまいと少し元気に振る舞う。そしてイロナの頭をなでながら自分自身に刻むようにつぶやく。

「この戦争だけは絶対に進めてはいけない。人間と……魔族を守るためにも」


勇者はイロナの頭をなでるのをやめる。イロナは名残惜しそうにしながら接客に戻った。勇者は窓の外を見ながら少し考えているようだ。そこにマスターが新しいアイスカフェオレを持って来た。

「あいよ、アイスカフェオレ。で何か思いついたか?」

「思いついては無いが……変なところはいくつかあるから、そこをどうにか突けないかなと」

「例えばどんな所だ?」


マスターは自分も何か案を出して手伝いたいのか、勇者の方を見て聞いた。勇者もマスターの熱意がわかったのか、マスターの方を向いて珍しく真剣な声で話し始めた。

「一番おかしいのは……こちらに向かってきているパラユニが全員、目が虚ろというところだ。勇者ということであちらの部隊に挨拶に行ったが、他の兵はみんなしっかり返事をしているのに、パラユニだけ『……はい』としか返事してこなかった」

「それ、完全に操られているってことか?」

「間違いない。歩くのもふらふらだから戦力にならないかとも思ったが……途中で魔族側から威嚇の弓矢が来た際、あいつら弓矢が届く前からその弓矢の方向を見て、きっちり剣で叩き落としやがった……」


勇者は、はぁと大きなため息をつきながらその見た光景をマスターに話す。

「それなら、その操られている原因さえわかればいいんじゃ?」

「もちろんそうだが……そんな簡単な話じゃない。俺は魔術が苦手なのもあって、何が原因かさっぱりわからなかった。その調査はルイにお願いしている」

勇者はルイを信頼しているのか、力強く答えた。そこに、カウンターの奥から制服姿の柚乃が現れた。


「勇者さん~いらっしゃい~」

いつもの柚乃の挨拶を聞いた勇者は、緊張が解ける。

「柚乃ちゃん。こんにちは。柚乃ちゃんに会うと元気が出るよ」

「照れるなぁ~。そんなこと言ってくれる勇者さんに、はいこれ!」


柚乃は両手に持っていたカップを勇者に渡す。勇者は山盛りに氷が盛られていて、その上から緑の液体がかけられているカップを見ながら聞く。

勇者はあまりの色と姿に戸惑いながら、柚乃に聞く。

「……これは?」

「これはかき氷~。今日文化祭で、余ったやつもらったから持って帰ってきた~。勇者さんいつも氷をガシガシ食べてるから好きかなぁと思って」


勇者に話ながら、柚乃は自分の分を食べ始めた。マスターは柚乃に聞く。

「僕の分のかき氷は?」

「忙しいと思って、厨房の奥の冷凍庫において来ちゃった。あとで食べといて~。やっぱりシロップはイチゴに限る~。冷たくておいしい! あっ、そっちの勇者の分はメロン味だからね~」

「めろんって言われても……この緑は本当に食べれるのか?」

「もちろん!甘くておいしいよ」


勇者はためらったものの、柚乃がおいしそうに食べているのをみて、意を決して一口食べた

「……うわ!甘くて、冷たくてうまい!!」

「でしょ~。勇者なら喜んでくれると思った」

勇者はバクバクとおいしそうに食べる。そして急に手が止まった。

「……!!!!! イタタタタタ……」

目をギュッと閉じて痛みを我慢しているようだ。その姿を見て柚乃は笑った。


「いっぺんに食べたら痛いよ~ゆっくり食べないと」

勇者は痛みが引いてきたのか、目を開ける。柚乃に言われた通り、そのあとは少しづつ食べ始めた。その姿を見て、マスターは我慢できなくなったのか、厨房の冷凍庫の方に向かった。


すると、イロナが再び接客を終えて二人の元に近づく。

「柚乃さん、お帰りなさい!今日は早いんですね」

「そうなんだ~。文化祭だから休憩がてら戻ってきちゃった。また学校行くけどね~」

そういいながら、柚乃は大きな袋を取り出し、何かガサゴソと探し物を始めた。その姿を不思議がってはいたものの、勇者が頭を抱えているのを見て、イロナは勇者の心配をする。


「勇者さん、頭が痛いんですか?大丈夫ですか?」

「うん……今日だけで何回も心配してくれてありがと。これ、めちゃくちゃおいしいんだけど、一気に食べれないのは難儀だな……」

イロナは勇者を心配そうに見ていた。その間に柚乃は手を後ろに回しながらカウンター奥からお客さんがいる方に回っていた。そしてイロナの後ろに立った。

「えい~!」

そう言いながら、背中に隠して持っていた剣でイロナの頭を殴る。イロナはびっくりして

「ひゃん!!!」

と声が漏れた。


柚乃はその姿をみて笑って言った。

「イロナちゃんに一本取れた~!」

そういいながら上機嫌に剣を振り回す。勇者は不思議な目をしながら柚乃に聞く。

「それは……?」

「これ? 文化祭の模擬店でもらった剣だよ~」

そういいながら剣を勇者に渡す。


「柚乃さん!!危ないじゃないですか!」

「うぅ~ごめんよ~。あまりにも後ろが開いていたから……」

二人を他所に何度か剣をもって振ったりしていた勇者は急に目が見開いて立ち上がった。

「柚乃ちゃん。ちょっとお願いがあるんだけど……」



ここは、イロナの可愛い声を聞くことができる喫茶「ゆずみち」

さて、次はどんな声を聞くことができるのでしょうか。

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