order12. ナポリタンと料理
森の中はすっかり緑が生い茂る季節になり、日中の気温もかなり温かくなってきたころだが、今は夜なので、少し冷える。
カウンターで勇者とマスターが話している。
「で、やはりルイが言ってたことは本当っぽくて……ノアの国から俺のところにまで戦争に参加して欲しいっていう連絡が届いたわ。その紙はすぐに燃やしたけど」
「それは大変だねぇ。この世界に来てからまだ戦争は体験したことないから、少し怖いなぁ」
「大丈夫。この店だけは、わけがわからないぐらい頑丈な障壁で守られているから」
「そうなんだ、知らなかった。まぁ、頑丈なのであれば、戦争中でも休憩場所として開けてもよさそうだね」
「それは俺からもお願いするわ。おそらく戦争場所からは適度に離れているから、凄く重宝しそうだし」
他の配膳をしていた柚乃が帰ってくる。そして柚乃が尋ねる。
「で、今日は何の用なんですか~珍しくこんな時間に来るなんて」
「夜にここで会う約束をしたので。ただ、時間は過ぎているのだけど……」
すると、扉が勢いよく開いた。そして眼鏡を付けた女性が慌ただしく入ってきた。
「ごめんなさい。遅く……イタッ!」
その女性は勢いよく入ったと思ったら、盛大に前にずっこけた。
それを見て勇者がはぁ……と少し首を振りながら女性の元に近づいて手を差し伸べる。
「いつも言ってるけど、慌てなくていいって」
「わかってはいるのですが、いつもこけちゃうんですよね……ありがとう」
女性は勇者の手を取り起き上がり、お礼を言う。
柚乃も女性の元に近づく。
「大丈夫ですか~。はい、タオルになります。少しお顔も汚れちゃっているので、これで拭いてください~」
「すみません、ありがとうございます」
女性は渡してくれた柚乃とふかふかのタオルに少し驚きと懐かしい様子で少し見てから、ニコッとして受け取り、お礼を言った。
柚乃は女性の方をよく見た。女性は頭に凛々しくかっこいい角が生えていることから魔族であることがわかる。歳は20前後で、髪は腰まで伸びた長髪で黒髪のように見える。
「こんなお綺麗な方、どこで勇者さん出会ったんですか~まさかナンパ?」
「なんぱ?全く言葉の意味がわからんが、たまたま出会って仲良くなっただけだぞ」
「ふーん。本当に色々な人に手を出すんですね~」
「誤解されてる気がする……」
勇者は一旦柚乃との会話を止めて、女性に話しかける。
「すまんな。かなり忙しいのに来てもらって」
「いや、大丈夫。夢をかなえるためなら、お手伝いするって言ったし」
女性は勇者に慣れた感じで返答した。
「で、話というのは?」
「今ちょうどマスターと話していたのだが……」
・・・・・・
テーブル席に移動して、対面で勇者の話を聞いていた女性が話し始める。
「つまり、人間が魔族を攻める方止めるのを手伝ってほしいと。あと、この喫茶店を中継地点及び情報交換所にしたいってことね。了解した」
女性は話の途中でマスターからもらった水を少し飲み、少し悩む。
「止めるにしても、少し大変ね。魔族を守りつつ、かつ人間をケガさせずにこの戦争を止めないといけないんでしょ?」
こちらもマスターからもらったアイスカフェオレの氷をガシガシ噛みながら答える。
「そのうえ、最悪相手にパラユニが付くことになる。パラユニも選別できるやつが少ないから正直きついことには違いない。さらに俺ら人間側は大々的に介入が難しい……さすがに人間側を攻撃すれば反逆罪になるし。ばれずに動けるのは隠密が上手いルイぐらいかなぁ」
女性と勇者は頭を抱えて案を出し続けていた。そこにマスターが来た。
「お二人さん、かなり長いこと話しているようだけど、ご飯とか食っていくかい?戦争を止めるために頑張ってくれてるから、料金はただでいいよ」
女性はマスターの声を聞いて、やりたいことを思い出したのか急にその場を立ち、マスターの方を向いて答えた。
「お気遣いありがとうございます。いえ、こちらこそ今後ここを情報交換所として使わせて頂くお礼もかねて、ご飯をごちそうさせてください。厨房と食材、少しお借りしますね」
マスターの返事を聞く前に厨房に勝手に入ってご飯を作り始めた。マスターはあまりの驚きとスムーズな動きに、
「あ……お願いします」
と言うしかなかった。
女性は目をキラキラさせながらも、少し懐かしそうな感じで食材や調理器具を見ていた。そして作るものが決まったのか、テキパキと料理を始める。
マスターと店の片づけを終えた柚乃、イロナはテーブルを勇者の席に合わせて座った。マスターは勇者に聞く。
「あの女性は誰だ?料理を作らせてくれって初めて言われたぞ」
「言わなかったか?サーシャっていう子だ、料理が大好きでよく作っているらしい」
サーシャという言葉に柚乃がピンときたようだ。
「あっ~!以前、めちゃごみの時にクドさんが話していた人だ~。チラッとしか話聞いてなかったから、あまり覚えてないけど~イロナちゃん覚えてない?」
「いえ、私は聞いたことないですね」
そんなことを話していたら、サーシャと呼ばれた女性はご飯をもって来た。
「はい。お待ち。ナポリタンを作ってみたよ!」
鉄板の上でジュージューと焼かれながら盛られているナポリタンは、ケチャップソースがまんべんなく混ぜられているのか、全体が綺麗な赤色になっている。よく見ると、ピーマンやソーセージが入っており、上から粉チーズがすでに振りかけられていた。
マスターと柚乃は完璧なナポリタンが出てきた事と、
勇者とイロナは二人の驚きを全く気にせず、同じタイミングで
「いただきます!!」
と言って食べ始めた。勇者は一口食べて、
「やっぱりサーシャは料理がマジで上手いなぁ……マスターもうまいけど、こっちもマスターと戦えるぐらいにおいしいと思うぞ」
とサーシャに話しかけた。イロナはしゃべる時間が惜しいのか、もくもくと食べている。
ただ、口周りはナポリタンのケチャップでベタベタになっている。
その姿を見て、少し笑いながら柚乃もがっついて食べ始める。
その様子を見たサーシャは満面の笑みで
「おいしそうに食べてくれるのはありがたいです」と話す。
マスターは思っていることをそのままサーシャに聞いた。
「サーシャさん、もしかしてパラユニでは?」
「そうですよ。マスターさんや柚乃さんと同じで」
サーシャはその質問が来るのがわかっていたのか、驚きもせずに答えた。
マスターは勇者をにらめつけながら聞く。
「勇者、お前知っていたのにわざと言わなかっただろ」
「さーね。ナポリタンうめぇ。マスター、そんな小さなことは置いといて食べようぜ。冷めたら作った人に失礼だろ?」
マスターは勇者を問い詰めようと思ったものの正論を言われてしまったため、ぶつぶつ言いつつもサーシャが作ったナポリタンを一口食べて、目を見開く
「これは……かなりおいしい!ケチャップが主のソースも完璧に麺にあってる」
マスターを含め、みんな出されたナポリタンを完食した。マスターは悔しそうに少し唇を噛みながらサーシャに伝える。
「サーシャさん。ナポリタンごちそうさまでした。正直、麺系が私は苦手で、この味を出せる自信がないです。なので、良かったら時々来て頂いてナポリタンを教えてくれませんか?」
「俺……いえ、私で良ければ」
サーシャはにこやかにマスターに返事をした。
横から、柚乃やイロナも話しかける。
「サーシャさん~。ぜひまた来てくださいね~」
「サーシャさん、私にも料理教えてください!!」
サーシャは二人の笑顔に対して、にこやかに首を縦に振って一言。
「ぜひ!私もこのお店が大好きになったので!!」
ここはマスター以上に料理の上手な方がいらっしゃる喫茶「ゆずみち」
さて、次はどんな笑顔を見ることができるでしょうか。
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