order11. サンドウィッチと鍛冶屋

外の木々が青々としていて、涼しくて気持ちの良い風が吹いているように感じられる。そんな天気の中、喫茶ゆずみちにも多くのお客が来ているようだ。カウンターもテーブル席もかなり埋まっている。


「久々にお昼に来たけど、活気があっていいわね。ちょっと嫉妬しちゃう」

テーブル席にいる魔王はアメリカンコーヒーを飲みながら正面にメイドに話しかけた。

「そうですか?魔王城も活気がある感じですが」

メイドのアリスはオレンジジュースを飲みながら不思議そうに返事を返す。

「あの城も活気はあるわね。でも、ここにいる人は本当に楽しそうじゃない?そこが羨ましいのよ」

「確かに。ここに来るお客さんはみんな明るいですよね」


そんなたわいもない話をしていると店員の柚乃がバタバタと二人に駆け寄った。

「魔王ちゃん、すみません~。 ちょっと本日混んでるので、相席よろしいでしょうか~」

「いいわよ。アリスもいいでしょ」

「はい。魔王様がおっしゃるのであれば」

「ありがとうございます~」


柚乃はバタバタと入り口に行き、お客を誘導しに行く。

すると、かなり背の低くひげをたっぷり蓄えたドワーフが一人現れた。

「お客様~ここの席でお願いいたします」

「おう! 嬢ちゃん、サンドウィッチ山盛りで2つよろしく!いつも通りからしは抜いておいてくれ」

「はい~了解しました。少々お待ちを~」


柚乃はカウンターの方に小走りで戻っていく。ドワーフは席に座りながらすでに座っている顔ぶれに少し驚いた。

「おぉ、これは魔王様とアリス嬢ちゃん。久々じゃの!」

「クドか。久々だな」

「クド様、お久しぶりです」

魔王とアリスはドワーフのクドと仲良さそうに返事を返した。


「人間と戦争しているときは毎日のように武器や防具を作れって工房まで来たものじゃが、最近はめっきり来なくなって寂しかったぞ」

「戦争も休戦になったから仕方ないのだ。。。許してくれ」

魔王はクドの方をしっかり見て申し訳なさそうに答える。

「別にいいんじゃ。なんせわしゃには楽しみもあるからのぉ」

「楽しみ……?」

「料理じゃ」

「クドよ。お主料理なんてしておったか……?」

魔王は首をかしげながら聞いた。

「いや、わしゃせんよ」

しれっと答える。そして、


「ちょうど戦争中にわしのところに『包丁を作ってくれ』っていうやつが居ての。武器と防具ばかり作ってて飽きたから、息抜きに作って渡したんじゃ。そしたらすごく喜んでくれてのぉ」

「喜んでもらってよかったですね。クド様」

「そうなんじゃ。その上、お礼にとそいつが料理を作ってきてくれて、それがとてもおいしくてのぉ……。それからはわしが色々な料理道具を作り、そやつが料理を作って持ってきてくれるようになって、毎日が楽しいわ」


クドは楽しそうに話す。それを見て魔王とアリスはニコニコしながらも、少し不思議そうな顔をしながら話す。

「それは良かったな。しかし、魔王城に料理の好きな奴なんていたか?」

「魔王様、妖精族は確かに料理が好きだったはずですが……包丁を作ってもらったという話は聞いてませんね」

その様子をみて、クドは答えた。


「サーシャじゃ。ほれ、あの黒髪で長髪、すらっとした女の人じゃ」

「サーシャ・・・?アリスよ。そんな奴うちにいたか?」

「魔王様、私の記憶ではいないのですが……」

全くピント来ていない魔王とアリスに対してクドは首を振りながら話す

「やれやれ。二人とも工房にこなさすぎじゃ。だからわからんのじゃぞ」


魔王とアリスが思い出そう色々話しているとしていると、大きなお皿を2皿持った柚乃が現れた。

「お客様~からし抜きのサンドウィッチになります~」

クドはお皿をひょいと受け取りながら返事をした。

「嬢ちゃん、いつもありがとう」

「いえいえ、ごゆっくり~」


柚乃はほかの注文があるのか急いで帰っていった。

大きなお皿の上に乗ったサンドウィッチにはレタスとトマト、卵など色とりどりの具材がぎっちり詰まっていてかなり分厚い。クドはその分厚いサンドウィッチを大きな口を開けて頬張る。


「今まで長い人生の中、色々なものを食べてきたが、ここのサンドウィッチに勝てる物はないのぉ……」

そういいながら、クドは次々とサンドウィッチを頬張る。気づくと一皿分完食していた。

「……クドよ。そこまで慌てずともサンドウィッチは逃げぬぞ」

魔王はクドに言った。クドは首を振りながら答える。


「魔王様、サンドウィッチは逃げんが熱は逃げる。やはり熱いうちに食べきらんとサンドウィッチに失礼じゃぞ」

そういいながらクドは二皿目のサンドウィッチに手をかける。すると、横からグーとお腹のなる音が聞こえ、アリスの顔は真っ赤に染まりながら小さな声で魔王に話しかける。


「魔王様、私もおなかがすいたので何か食べたいのですが……」

「そうだな、我々も頂くとするか。せっかくだから同じものを食べるか」

魔王は苦笑しながら返事をした。クドも話に乗る。

「わしもお代わりするとするか。おーい。嬢ちゃん。サンドウィッチ3皿お願いできるかの」

クドは近くにいた柚乃に声をかけた。

「はーい。わかりました~。少々お待ちを~」

柚乃はオーダーを伝えに行く。


その返事を聞いたクドは二人の方を向いていった。

「それにしても、懐かしいのぉ。昔はこうやって三人で良く食べたもんじゃ」

「そうですね。魔王様ったら公務が嫌で、お忍びで工房に行ってましたからね。それを引き戻すために私がどれだけ探したことか……」

「アリスよ……もうその話は忘れてくれ」

肩を落とした魔王の様子を見てクドとアリスは声をあげて笑った。


ここは懐かしい集まりもある喫茶「ゆずみち」

さて、次はどんな集まりを見ることができるでしょうか。

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