order7. モーニングと笑顔

白いベッドの上で少女が目を覚ます。少女の頭にはかわいらしい角が2本生えている。少女は起き上がりベッドから出て、洗面台に行き蛇口を少し眺めたあと、恐る恐るひねって水を出して顔を洗った。そして鏡で自分の顔を見ながら、

「夢じゃないんだ……」

と小さな声で呟いた。


昨日の夜にマスターと柚乃に色々教えて貰ったようだ。洗面台、トイレ、お風呂の使い方などなど。この世界にあるものもあれば見たこともない物も数多くあり、まったく使い慣れていないように見える


「う~ん……おはよ~イロナちゃん。朝早いね~」

イロナと呼ばれた少女は後ろを振り向く。そこに柚乃がすごく眠そうに立っていた。

昨日、勇者からイロナを託されたため、柚乃も急遽お店に泊まることになったようだ。

「柚乃さん、おはようございます。」

イロナは返事をしながら洗面台前から移動する。


「……ありがと~やっぱり朝は苦手だわ~」

柚乃はそういいながら顔を洗い始めた。イロナは柚乃の顔を洗う様子をじっと見ていた。そして柚乃は顔を洗い終わった。

「そんな見られたら照れちゃうな~。とりあえず、朝ごはん食べに行こ~。マスターがたぶん作ってくれているはずだから」

そういいながら、ふらふらと階段の方に向かう。イロナは少し心配そうな顔をしながら後についていく。


階段を下りた先にはいつもの店内が広がっていた。全体的に薄暗いものの、カウンター奥のキッチンには明かりが灯っていて、ジュージューと何かを焼いている音といい匂いが漂っている。

「マスター。おはよ~」

柚乃はキッチンで立っているマスターに向かって少し大きな声で言いつつ、カウンターに座る。イロナもそれに続いて横に座った。マスターは振り向き、返事をした。


「柚乃ちゃん、イロナちゃんおはよう。イロナちゃんは昨日はちゃんと寝れたかい?」

「マスターさん、おはようございます。ちゃんと寝れました。あとごめんなさい。マスターさんのベッドお借りして……」

「気にしなくていいよ。ちょっと狭くて申し訳ないけど、部屋をちゃんと準備できるまであの場所を使ってね。僕はどこでも普通に寝れるので。あぁ、もう少しで朝ごはんできるから、ちょっと待ってて」

そういうと、二人に背を向けてせっせと朝ごはんを作る。

「朝ごはんは何かな~マスターの朝ごはん、久々に食べるな~」

柚乃はニコニコしながら呟く。


しばらくすると、マスターは作った料理を載せたお皿を二人の前に並べた。

「今日はトーストとスクランブルエッグ、ベーコンとシンプルにしてみた。やっぱりモーニングと言えばこれでしょ。二人は何を飲む?」

「私はミックスジュース~。イロナちゃんは?」

「柚乃さんと同じものでお願いします」

「あいよ。ちょいとお待ち」


マスターはキッチンの方に戻る。

イロナは初めて見る料理に少し戸惑っていた。イロナは心配になり柚乃の方をみた。

「ふふ~ん!マスターの作った~モーニング!おいしい~!!」

とすでにスプーンとフォークを使って食べ始めていた。


その様子をみて、イロナは恐る恐る、トーストと呼んでいた四角の食べ物を少しかじった。

少しもぐもぐした後、顔がパーッと明るくなり、おいしい……と呟く。

それに柚乃が反応した。

「でしょ~!マスター、パンにこだわりあるからおいしいトースト出してくれるんだ~」

口にスクランブルエッグについていたであろうケチャップを付けたまま柚乃は話す。


「こんな香ばしくて、柔らかくて、ふわふわしていて……初めて食べた……」

イロナはそういうと、お皿に乗っているものを順番に食べ始めた。

食べるごとに「おいしい!」「うん!」「初めて!」など感動している様子だ。

「イロナちゃん、そんなにおいしいかい? 作りがいあって嬉しいねぇ」

と言いながら、マスターはミックスジュースを二人に渡した。

「マスターさん! とってもおいしいです! こんなにおいしいの食べたことないです!!」

と目を輝かしながらイロナはマスターにこたえる。

マスターは良かったといいつつ、自分の分を準備し終えて、いただきます、と呟いて食べ始めた。


柚乃は相変わらずニコニコしながら食べ、イロナは一つ一つをかみしめながら食べていた。

柚乃はイロナについて興味が尽きないのか、質問攻めをしていた。時々マスターもその会話に入っている。


ふとマスターはイロナの方を見て一言尋ねる。

「イロナちゃん、どうかした?泣いているように見えるけど」

イロナは、はっとして顔を自分の服で涙を拭きながら、

「いえ、ご飯がおいしいのもあるのですが……これまでずっと1人でごはん食べることが多かったので……こうやって柚乃さん、マスターさんとお話しながら一緒に食べる朝ごはんがとっても嬉しくて……」

イロナは涙が止まらないのか、ずっと顔を拭いていた。

すると、柚乃は自分のハンカチを取り出し、

「これ使って~。服が汚れちゃうよ~」

とイロナに渡した。

「ありがとうございます!」

と泣きながら笑顔で柚乃に言って受け取った。


ここはワイワイしながら朝ごはんを笑顔で食べる異世界喫茶「ゆずみち」

さて、次はどんな朝ごはんが登場するのでしょうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る