order6. チョコレートパフェと出会い

店の開店前、マスターと柚乃が店の準備をしていると、店の扉が開く音がした。

「お客さん。まだ開店前なので、もうちょい外で待ってもらって結構ですか?」

と振り返らずにカウンターを拭きながらマスターは言った。


コツコツとこちらに歩く音が二人分聞こえる。マスターは話を聞かないお客にため息をつき、振り返って断ろうとした。

「お客さん! 申し訳ないのですが……勇者さんと……誰?」

あまりに不思議な光景だったのかマスターは断る途中で固まる。

勇者が来ていると知った柚乃も勇者の方を向く。

「おはようございます~勇者さんと……ついに隠し子できちゃったんですね。。。」

柚乃は勇者と共にいた、頭に小さなかわいらしい角が二つ付いた10歳ぐらいの少女を見ながら、悲しそうな声で勇者に話しかけた。


「柚乃ちゃん……どうしてそうなる。マスター、開店前で申し訳ないが少し話を聞いてほしいんだ。」

「いやだね。これは面倒な香りがすごくする」

「いやいや、お店のことを考えてだね……すみません、そこを何とかお願いします」

勇者は少しふざけようとしたが、マスターが嫌そうな顔になっているのがわかったので真面目にお願いをした。


「はぁ、仕方ない。そこに座っといて。お嬢ちゃんは何か飲みたいものあるかな?」

マスターは勇者の横の少女に聞いたが、勇者の服をがっしり握りつつ首を横に振るだけ。

「うーん。まぁいいか。お水だけ用意しよう。柚乃ちゃん、パッと軽く店の掃除だけおねがい」

「は~い。了解しました~」

柚乃は布巾をもって店の端から掃除を始める。

勇者と少女はマスターに言われた4人掛けのテーブルに座ったが、少女は勇者の服をしっかりつかんだままだった。


マスターは氷の入った水を四つ準備して、テーブルに置いた。

マスターは勇者の正面に座り、水を一口飲んで切り出した。

「まずは勇者さん。話をどうぞ。」

「どこから離せばいいんだろうか……昨日の昼に調査の名目でとある森の中を散策していると、偶然にも奴隷商の馬車を見つけたんだ」

マスターは少し驚く。

「奴隷商?確かパラユニが来てから奴隷とかはかなり減少したって聞いた気がするが。」

「そうなんだが、完全に無くなったわけじゃない」

真面目な顔して勇者が反論した。そして続けて話す。


「で、見つけてしまったものは仕方ないということで、その奴隷商をボコした」

「やっぱり……」

「その中の奴隷は全て解放してやったのだが、この子だけ馬車の荷台の片隅から出てこなかったんだ。で話を聞くと、帰るあてがないことが分かった。つまるところ、戦争で親と離れ離れになって、それ以降あったことが無いらしい。顔もほとんど覚えていないようだ」

マスターは再び驚く。


「戦争って……これもパラユニが来てから魔界と人間側で休戦になってるじゃないか」

「この子はパラユニが来る前の大戦争の時だ。これまで行く当てもなく、色々な人間側の奴隷商に売られて働かされていたようだ」

勇者は少し怒ったような、悲しような顔をしながら答えた。

「で、嫌な予感しかしないが、どうして欲しいんだ?」

「ここでこの子を見てほしい」

「いやだ」

マスターは即答した。

「そこを何とか……」と勇者は食い下がる。



・・・・・・



押し問答を尻目に、掃除を終えた柚乃はスプーンが二つ刺さった、少し大きなガラス容器をもって少女の方に来た。少女は緊張した様子でぐっと勇者の服を握る。

「怖がらなくていいよ~。私は柚乃っていうの。あなたのお名前を教えてほしいなぁ~」

「……イロナ」

「イロナちゃんか~かわいい名前だね。イロナちゃん、マスターと勇者さんが話している間、暇だからこれを一緒に食べない~?」

イロナちゃんの前に少し大きなガラス容器に入ったチョコレートパフェがおかれた。

「?」

イロナは何かわからず困惑している。チョコレートパフェは上にバニラとチョコレートのアイスが載っていて、全体にチョコレートソースがかかっている。その下は見えていないが恐らくコーンフレークだろう。


「これはチョコレートパフェっていうデザートなんだ~。せっかくだからイロナちゃんと食べたいと思って作ったんだけど、どう~?」

そういいつつ、自分の方に刺さったスプーンをつかみパフェのアイスをすくって食べる。

「う~ん。お店の準備の後のアイスが上手いなぁ~」と言いながらすでに二口目も食べようとしている。

イロナは柚乃の様子を見ていたが、自分もおなかが減っていることに気が付いたようだ。

利き手で勇者の服をつかんでいたのだが、柚乃のニコニコした顔や姿を見て手から自然と力が抜けていく。そして、勇者の服を手離しパフェのスプーンに手が進む。そして柚乃を同じようにアイスをすくった。そしてえい!と口の中に入れた。


「…………!おいしい!!!!」

口に入れた瞬間の冷たさにかなり驚いていたが、すぐにチョコレートの甘さが来て思わず声が出た。

「えへへ~ようやく笑ってくれたね~。おいしいでしょ?私の作ったパフェ。結構自信作なんだ~」

と言いつつ、パクパク食べる柚乃。

その姿を見たイロナも負けじと次々と食べていく。そして気づいた時にはパフェの中はすっかり空っぽになった。


「イロナちゃん。どうだった~?おいしかった~?」と柚乃は聞く。

「……とってもおいしかった」

がっついていた自分に気づいたのか少し恥ずかしそうに、でも柚乃の方を見てしっかりと答える。

「良かった~。初めてこっちを見てくれたね~!また一緒に食べようね!」

「うん!」

柚乃の提案にイロナはにっこりとして返事を返した。


そして二人は横で言い争っている二人に目を向けた。

話し合いが終わったようだ。マスターは恨めしそうな、それでいてあきらめたような複雑な顔をしながらこちらを向いた。

その姿をみた柚乃とイロナは二人で見合わせて笑った。



ここはパフェ一個で見知らぬ人とも仲良くなれる喫茶「ゆずみち」

さて、次はどんなかわいらしい姿を見せてくれるのでしょうか。

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