order2. カフェオレとアイデア

天気が快晴であるためか、喫茶「ゆずみち」の中は繁盛していた。

来ているお客の中には、頭に角の生えた魔物や頭に角が無い普通の人間のどちらも見える。

ただ、お互いに喧嘩などはせず、自分の頼んだ料理を楽しんでいるようだ。

その中でマスターはてきぱきと料理や飲み物を作っていた。

そして、店の中には女性が一人、料理を運んでいた。


「柚乃ちゃん。サンドウィッチできたよ。あのドワーフさんにお願い」

「りょうかい~」


柚乃と呼ばれた女性は、のんびりとした返事をした。

そして器用にもサンドウィッチが山盛りに盛られた大きなお皿を3つも同時にもってドワーフの方に歩いて行き、ドワーフにお皿を渡していた。


柚乃はパッと見た感じ高校生ぐらいの年に見える。

顔立ちもスタイルも抜群であると共に、来ている服(学生服)からこの世界の住人でないことがすぐわかる。

ただ、ここにきているお客は誰も不思議がっていない。

逆に柚乃も角の生えた魔族のお客さんのことを何も不思議がっていない様子だ。


柚乃がドワーフにお皿を渡して帰ってきたと同時に、入り口のベルがなった。

入り口からは一人の青年が入ってきた。そして常連なのかカウンター席に一直線に歩いてくる。

マスターはその人物を見て慣れた感じで対応する。


「いらっしゃい」

「ういっす。いつものやつ頼むわ。かなり甘めで」

「あいよ。ちょいとお待ちを」


青年は慣れた様子でカウンターに座る。


「おしぼりとお水です~」


と柚乃はこちらも慣れた様子で渡す。渡された青年は柚乃に声をかける。


「こんにちは柚乃ちゃん。ありがと。久しぶりだね」

「勇者さん、お久しぶりです~。ちょっとテスト期間だったので無理を言ってお休み頂いてました~」

「てすときかん?なんだそれ?……まぁ、いいや」


勇者と呼ばれた青年は聞きなれない単語に少し戸惑っていたものの、疲れているのかすぐにカウンターに突っ伏す。

柚乃は突っ伏した勇者をそっとしつつ、仕事に戻った。

少し時間が経って、マスターが飲み物をもって来た。


「あいよ。アイスカフェオレお待ち。砂糖と牛乳多めにしておいたよ」

「ありがとう。やっぱりアイスカフェオレだよな!」


バッと起き上がった勇者はニコニコしながらアイスカフェオレを受け取り、一気に飲んでいく。


コーヒーの香りと共に入ってくる牛乳の甘み。

それらを感じつつ、氷によってキンキンに冷やされている状態で飲むのが一番おいしいのだ、という確固たる信念が勇者から感じられる。

一気に飲み干し、そして満足そうな顔で勇者はマスターに言った。


「甘い物をこれまでたくさん飲んだり食べたりしてきたけど、このアイスカフェオレほど完成しきっているものは無いね」

「そういってくれると、やっぱりうれしいねぇ。もう一杯いるかい?」

「もち」


勇者は端的に答えつつ、空いたカフェオレの氷をがしがしと食べ始めた。


マスターはアイスカフェオレ作りを始めたと同時に、他のテーブルに飲み物を運び終わった柚乃が不思議そうな顔をしながら勇者に聞いた。


「なんか疲れてますね~いつもサボっているのに珍しい」


勇者は氷を食べながら答える。


「おいおい……一応こう見えて色々頑張っているんだよ。ほとんどサボっているけど」

「やっぱり~。でどうしたんですか? 何か悩みでも??」

「いやね……ノアの町の王様が『魔族の村を打ち滅ぼしてくれ』って町の軍隊に言ったらしくて。

その中にパラユニがいたんだよ」


柚野はうーんと少し悩みながら勇者に聞く。


「パラユニって何だったけ~?聞いた気がするけどテストで忘れちゃった」

「あぁ。パラユニってのは異世界から来た人たちのこと。」


思い出したのか、柚野は手を打った。


「私たちのことだね~。それで?」

「ほとんどのパラユニは基本的に賢いので無視してくれるからいいだけど、今回のその男は、なぜか変にやる気出しちゃって……異世界転生したばっかりで張り切っているのかも。

ただ、無駄に戦闘能力が高いから、村を打ち滅ぼしかねないのでちょっと悩んでる」

「なるほど~。パラユニだけ勇者がボコボコにすれば?」

「できなくはないけど……万が一逆恨みとかされたら面倒じゃん。

戦争とかやめて、平和的に解決したいんだよね。

パラユニさえどうにかできれば、後はどうにかなるんだけど……」

「ふ~ん」


わかったような、わからないような顔をした。

ただ、イメージできないからか柚乃は興味を失い、自分のカバンから一冊の本を取り出して、勇者に勧める。


「昨日、《男の落とし方100選》って本を買ったんだけど読む~?」


そう言いながら、本を渡した。


「どうしてそうなるんだ……」


と勇者は頭を抱えつつ言いつつも、本をペラペラめくって読んでいく。


「第39の秘訣、男は笑顔で落とすべしねぇ。異世界ではこんな本が売れているのか。

不思議だねぇ……。」

「そうだよ~。やっぱり愛はどんな問題でも解決できるからね~!」


柚乃は誇ったように勇者に話す。

勇者はその言葉を聞きながら本を読んでいる。

そして柚乃の言葉から、ふと何か気づいたようだ。


「待てよ……愛でなんでも解決できる。

で、笑顔が良ければ男を落とせる……。ということは……」


ぶつぶつと勇者が話しながら考えている。

そしてカッと目を見開いて、柚乃に話しかけた。


「ごめん!この本ちょっと借りるね。ちゃんと返すから!」


そう言うとお金をカウンターに置き、急に席を立ってバタバタと出て行った。

アイスカフェオレをちょうど持ってきたマスターは苦笑しながら、


「結局元気になったのならいいけど、アイスカフェオレはせっかく入れたんだから飲んでほしいなぁ。

もったいないから、柚乃ちゃんいる?」

「せっかくなんで頂きます~!」


と言いつつ、アイスカフェオレを受け取る。一口飲んで一言。


「甘い~!!ほぼ砂糖のかたまりじゃん」

「あっ、勇者向けに砂糖多めにしてたの忘れてた……」

「勇者ってこんな甘いもの飲んでたんだ~知らなかった。まぁ、甘いのもいいか~!」


ここは勇者もお茶をする喫茶「ゆずみち」。

さて、次はどんな個性的な方がいらっしゃるのでしょうか?

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