『異世界召喚された先のお姫様に安易にチート能力分けてあげたら自国を滅ぼしたので、討伐する事にしました』
denn
第1話
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《七の大陸の勇者快進撃!! 魔王軍第一師団敗走!!》
《五の大陸、未だ勇者召喚成らず。しかし無敗の王国騎士団団長の活躍によりーーーー》
《二の大陸陥落。首都支配権を奪取した魔王軍第七師団長より『税率を下げる』のお達し、民衆は歓喜》
《六の大陸勇者未だ捕まらず。三、十、九の大陸の勇者がパーティを組み討伐隊を結成か》
「うげぇ」
知った顔が頭に浮かんで、私は匙を咥えた口の端から呻き声を漏らした。それが聞こえたのか、食堂の娘さんらしい少女が「何? スープに虫でも浮かんでた?」…………それで良いのかこの食堂。
「脚が八本ある奴なら滋養があるわよ。五本のは毒だから気を付けて」
「…………どぅも」
異世界怖い。或いは適当に入った食堂がこれな私の運が悪いのか。
広げた新聞で娘さんから顔を隠しつつ、更に記事を読み込む。…………はあ、と安堵の溜息を吐いた。どうやら見当違いの場所に目星をつけた討伐隊の、それも大衆向け三流紙面上でのゴシップ記事の類らしかった。この分なら当分、この辺を彷徨いても問題は無いだろう。
私にはやる事があるので、今、同郷の勇者達に捕まる訳にはいかないのだ。
「なぁにが勇者じゃいっ!! こちとら栄誉ある大魔王軍第一師団ぞっ!!??」
ぶっ!? と私が顔を隠す新聞の内側で咥えていた匙を噴き出した音と、スパンッ!と言う先程の声の主が食堂の娘さんに頭を叩かれる音が重なった。お陰で目立たずには済んだけど、マジで何者なんだあの娘。
「うっさい」
「…………おい、それが客に対する態度」スパンッ!「お盆で叩くな!!かなり痛い」スパンッ!「…………あの、」スパンッ! スパンッ! パンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパン…………。
「…………ぐすん」
「団長…………」
新聞の陰から除けば、食堂の中央の大テーブルに見覚えのある軍服の一団が集っていた。…………上座的ポジションに座っている軍服の女性は涙目で頭を押さえてテーブルの上に突っ伏している。周囲では軍服覆面の部下と思わしき数人が、上司に代わって騒がしくした事を娘に謝罪していた。
「あのマジですいません…………団長には我々からキツく言っておきますので、何卒穏便に…………」「おい部下上司のワシがどたまをコレだけ叩かれてたのが見えとらんかったのか!? 既に穏便の域なんぞブッチぎっとるじゃろがいッ!」「団長黙って!」「私達敗走中だって自覚ありますかアンタ!?」「アンタ喧嘩弱いんですから前に出ないで! 私達が代わりに謝ってるんですからシー!」「根は良い人なんですっ! こんなんでも有休の申請しても理由聞かないで受理してくれる位には良い上司なんです…………ッ」「なのであの、どうか騎士団とか大陸勇者に通報とかはどうか…………ッ」
…………愉快な人達みたいだった。って言うかホワイトだな魔王軍。
「店内ではお静かに。あと、上司なら部下に頭下げさせないで自分で収めなさいよ。情けない」
「なっ!?」
「あ?」
あ、って言った…………。
「お、お前今『あ?』って凄んだな…………? ワシ、これでも魔王軍第一師団団長…………」
「私はこの町で一番美味しい食堂の一人娘よ。なに?」
「……………………………………………………スープのおかわりください」
「まいど」
『異世界召喚された先のお姫様に安易にチート能力分けてあげたら自国を滅ぼしたので、討伐する事にしました』 denn @denndenn
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