第二話 葛藤と契約

「あ…悪魔…?」

バラモンが頷く

「…悪魔…よりかはマスコットに見えるけど…?」

バラモンの姿は悪魔というよりかは

羊のぬいぐるみのようで、申し訳程度についている

角、翼、尻尾だけがバラモンを悪魔だと主張していた

「失礼だなぁ、これでもれっきとした悪魔なんだよ?

 …と言いたいところだがボクはいかんせん

 記憶を失っててねぇ…名前は分かるんだが

 それ以外がからっきしでねぇ…キミに

 ボクの記憶を手伝いをして欲しいんだ」

「手伝い…私に、ですか…?」


バラモンは淡々と話す

「正確に言うと…ハルマゲドンに参加して欲しい」

「……?ハルマゲドンってなに…?」

「ハルマゲドンはね、6年に1度開かれる催しで、

 100人がトーナメント式で争い、優勝者は

 願いが叶うらしいんだ」

「らしいって?」

「思い出せるのはこれくらいしかないんだ…すまない

 だから確実とは言えないがキミには優勝して

 ボクの記憶を取り戻して欲しいんだ…


 あ、決してキミに旨みが無い話じゃない!

 キミの願いだって叶うんだ…多分だけど…」

「……」

「頼む…お願いだ…キミにしか出来ない事なんだ…」

バラモンが必死に頼んでいるのは分かる…が、


「私…戦いなんて出来ませんし…

 それに、そんな確証の無い話…」

「戦いは悪魔をキミに憑依させればいい!

もし願いが叶わなかった時はボクがキミの力になる!

 優勝しなくても構わない!ボクの記憶を奪った奴を

 見つけ出して倒して欲しいんだ!」


…バラモンはやはり必死に呼び止める、しかし…

「やっぱり……出来ません……

 力にはなりたいのだけど…私…なんかじゃ…」

「……そ、そうかい……悪かったね…じゃあ…」


バラモンは急に顔つきが変わると

「このまま虐げられ、孤独の中、

 一人苦しみ死んでゆくかい…?」


悪魔のような問いをかけた

「ッ……そ、れは……」

「契約……しようじゃあないか…

 このまま無惨に死ぬのを待つか、

 命をかけてでも願いを叶えるか……」


バラモンはゆっくりと、そして、残酷に囁く

「キミの願いはなんだい…?

 さぁ、言ってごらん

 キミの敵はここにいない

 キミの願いを否定する者もいない

 さぁ…どうだい…?」

「…………わ、私、は……

 …願い、は、叶え、たい…けど…

 わ、私…は…」

私は泣きじゃくりながら続ける

「できる…とは思え、ない……

 力も、無い…仲間も、いない…

 愚図で、間抜け、な、わ、たしなんかが…」

「本当に、そうかい?」

「……え?…」

「本気で、そう、思っているのかい!?

  キミが、何も出来ないと、

 非力で、ちっぽけな奴だと、

 思っているのかい!?

  そんな、こと、誰が決めた!!!

 できるできないじゃあない!

 キミが、したいかどうかだ!

 キミは、現状を変えたいんじゃないのかい!」


「う、うぅ……ぅ…」


悪魔の言葉のハズだった…

人の道から外そうとする言葉だった…


が、

その言葉に私は、心を打たれた

胸に深く、突き刺さった

まるで、体が千切れる程に、

大きな言葉だった……


その言葉が、私に火をつけた

私の中で蠢いて、暴れだす

歯止めは、効かなかった


遠い過去に閉じ込めた、赫い衝動

人前でだしちゃあ駄目だと閉じ込めていた想い

が今、爆発した


「……わ、私、は……」


「そうだ!己の想いを解き放つんだ!!

 キミには、それを叶える力があるッ!」


「…人前で、こんな感情、

 持っちゃあいけないと思ってた…

 抑えこまなきゃって、思ってた…

 でも、いいんだよね…?

 もう、抑えなくていいんだよ、ね……?」


私は、胸の奥が熱くなるのを感じた


「わ、私、は…本当…は…………したい

 壊したい、殺したい、めちゃくちゃにしたい!

 抉り、切り刻み、粉々にしたい…


壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して


殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して


 破壊し、踏み潰し、滅茶苦茶にして…

 そうして全てを壊して…何にもなくなった世界で

 眠りに、つくの…誰も、何も言わない

 私、だけの、世界…」


ウットリと恍惚の表情を浮かべ夢物語を語る私


本来なら、夢の、また、夢


でも、少しだけ、夢を見ても


欲しても、いい、よね……?


『フフ…やはり、ボクの目に間違いはなかった…

 キミには他の人間よりも強いがある!』


 ニタリ と笑みがこぼれると

「フフ…まるで悪魔の様な顔じゃあないか…

 それと、契約は成立ということでいいのかな?」

「ええ、そうね」

「じゃあ、契約成立ということで髪をいただくよ

 契約には対価が必要でね」

「いくらでも、持っていって」


バラモンが髪に触れると、腰まであった髪が

毛先から消え始め、肩より少し上で止まった

それと同時に、私の瞳に赫い光が宿った


「…ところで、名前をまだ聞いてなかったね…

 …キミの、名前は…?」

「…ルイ…熊倉 累くまくら ルイよ…」


「ルイ…そうか、これからよろしく、累

 さっそくだけど、ボク達の世界『魔界』

 に来てもらうけど、いいかい…?」

「ええ、どうぞ」

バラモンが両手を前に出し、魔力を込めると

何もない空間がねじ曲がり、小さい穴が空いた

それはみるみる大きくなり、禍々しいゲートが完成した


「さて、準備はいいかな…?」

「いつでも、 こんな世界、さっさと去りましょう」

累は、一切躊躇わず、振り返りもせず、

ゲートを通った

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