第4話「団長の計略」
ユリーナ先輩に失礼極まりない事件を起こしてから数日後。僕はなんとか死なずにいつもの日常に戻っていた。
「ふぅ~、これで全部だ。それにしても、良い天気だな~」
大量の洗濯を干し終えた所でふと、雲一つない空を見上げ人心地ついた気がした。
「タクト君お疲れ様。お茶にしよ」
そこに、カップを二つ持ったユリーナ先輩が現れた。ユリーナ先輩が現れたという事は、あの事件を許して貰えたという事だ。
「あ、ユリーナ先輩! いつもすいませんっ」
「良いの良いの! 頑張ってるご褒美よ」
ユリーナ先輩からお茶の入ったカップを受け取り、二人でいつものベンチへと腰を落とす。
快晴の空を見上げお茶を一口すすると、ハーブの香りが心を落ち着かせていく。
「美味しいお茶をいつもありがとうございます! ユリーナ先輩のお陰で、次の仕事も頑張ろうって気になる」
「もうっ、そんな事言われたら照れるじゃない。私は別に大した事なんてしてないわよ?」
「僕にとっては大した事です! ユリーナ先輩がこうやって気遣ってくれるから、僕は男一人孤独でも頑張れる。もし先輩が来てくれないと、僕の一日は始まらなくなってしまいました」
「そんなのズルいわよ……そんな風に言われたら、毎日来るしかないじゃないっっ」
「ユリーナ先輩……」
あの事件以来、僕達の距離はグッと近づいていた。
そもそもどうやって僕が許して貰えたか、かい摘まんで説明すると……。
☆☆☆☆
あの日、僕は宿舎に到着すると、自室で準備を整えユリーナ先輩の部屋へと向かった。
「先輩、ユリーナ先輩……タクトです」
「放っておいて! 今は顔も見たくないの!」
部屋のドアを叩く僕に返ってきたのは、そんな拒絶の声。でも、ここでむざむざと帰る訳にはいかない。
「では、そこで良いので僕の覚悟を感じて下さい」
「……覚悟?」
僕はその場で正座をし、剣を鞘から抜くと、お腹に向かって剣先を突き立てた。
「騎士道最後の覚悟! 僕の命をもって、どうか……どうかその罪のない"パンティーちゃん"を許して上げて下さい!!」
「ちょっ、命ってどういう事よ!?」
扉が勢い良く開き、焦った表情のユリーナ先輩がその姿を見せてくれた。
「な、なんで白のローブ!? 何してるのよタクト君!!」
「これは騎士が主君を守れず敗れた時に行う切腹の正しい衣装です。僕はユリーナ先輩を傷つける失態を犯してしまいました。その傷が、どんなに深いものか想像すると……ですから! 僕の命をもって償いたいと!」
「ば、馬鹿なの!? そんな、パンティーごときで切腹なんてしないで下さい! 別に、怒ってはいませんから!」
「えっ、怒ってない?」
「ちょっと恥ずかしくて顔を見たくなかっただけです。私だって、騎士の前に……女の子なんですから!」
な、なんて可愛いんだ!
伏し目がちに恥じらうその表情。
女性の恥じらう姿が、こんなにも男の劣情をくすぐるものなのかっ!
「では、許して貰えるんですか!?」
「許すもなにも、元々怒ってないですから! タクト君は物を大事にしてくれただけで、悪い事はしてませんよね?」
「ですが、僕はユリーナ先輩の……」
「そ、それに、パンティーを嗅いだのだって、皆さんの香りを覚えて、間違いなく届けるためであって、変な意味で行ったものではないでしょうから……」
「ありがとうございますユリーナ先輩! 僕、優しくて可愛い先輩が大好きです!」
「だ、大好きってっ、女性にそんな軽々しく言ってはダメよっっ」
そう言いつつも、ユリーナ先輩は照れながら嬉しそうにしていた。
☆☆☆☆
なんて事があった。
それ以来、ベンチに座っても一人分の隙間を開けていた僕とユリーナ先輩の距離は、今じゃ拳一個分ほどの隙間しかないほど近づいている。
手を動かせば、ユリーナ先輩に触れてしまうほど近い距離に、胸の鼓動が鳴りやまない。
「そ、そう言えば、明日はいよいよ戦闘訓練ね! 聞けば、タクト君はトップクラスの成績で騎士学校を卒業したらしいじゃない! その腕前を見るのが楽しみだわ!」
「だ、だったら、初めて手を合わせるのはユリーナ先輩が良いな」
「わ、私!? 私なんかより強い人なんてゴロゴロいるわよ。私じゃ役不足よ」
「そんな事ないです! 初めてはユリーナ先輩が良いんです!」
「その気持ちは嬉しいわよ? 私だって初めての相手をして上げたいけど、それはアンナ団長やメリル副団長が決める事だから……」
「ですよね……だったら、明日が来る前に相手をして貰えませんか? 僕の初めてを、ユリーナ先輩に捧げたいんです」
「タクト君……」
見つめ合う僕とユリーナ先輩。
その距離は徐々に近くなり、もうすぐ触れ合う。
「失礼、私も混ぜて貰おう。おー、部下からの口づけを両頬に受けるのも悪くないな」
「「アンナ団長っっ!?」」
後もう少しの所で邪魔が入ってしまった。
最近いつもこうだ。
ユリーナ先輩と良い雰囲気になり、もう少しという場面で、必ず現れるのだ。
しかも気配や匂いを遮断しているのか、アンナ団長が現れるタイミングがまったく掴めない。
「いや~、こうして外で飲むお茶は美味いものだな」
「そ、そうですね」
だったらテラスで飲めば良いじゃないですか。
貴女の部屋だけテラス付きだし、そこにはテーブルも椅子も置いてあるでしょ。
とは口が裂けても言えず、この状況を泣く泣く受け入れるしかなかった。
「ところで。話を少し聞かせてもらったが、タクト君は明日の戦闘訓練をユリーナと行いたいのだな?」
「は、はい! 出来ればそうしてくれると嬉しいです! ユリーナ先輩だったら気心もしれているし、それに……先輩なら僕を受け止めてくれるかなって」
「タクト君……私からもお願いします! タクト君の力、私が引き出してみせますので!」
「ふむ……分かった。許可しよう」
「やった! ありがとうございます団長! ユリーナ先輩、明日はお手柔らかにお願いしますね!」
「ええ、こちらこそ! アンナ団長、我が儘を聞いて下さり感謝致します」
「まあまあ、そう畏まるな。それに、"タダ"という訳でもないしな。タクト君にはお願いしたい事がある」
「なんでも言って下さい! 僕に出来る事なら、粉骨砕身頑張ります!」
「そうか……それは楽しみだな」
そう言って、ニヤリと下卑た笑みをしたアンナ団長の顔を、僕は忘れられそうになかった。
そして、その後に起こる体験も、生涯忘れない出来事になった。
◆★◆★
「どうした? 顔を上げたらどうだ」
「そ、そんな事、出来る訳ないじゃないですかっ」
今僕は、お風呂場でアンナ団長と相対していた。
もちろん、産まれたままの姿で――
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