策略
「ならばお前を殺して別の者に頼もう」
すると宦官は震えながら命乞いをし、策に乗る、命ばかりは、と倒れ伏した。朕は「最初からそのようにすれば良いものを」と呟いた。
そしてその場にいてことのしだいを知った
宦官であるか、廷臣であるかどうかはもはや服の色合いや仕立ての具合からしか読み取れなかった。あるいは髭の有無、あるいは体格。
朕は全てを
──のう、呂不韋よ。
お前の与えてくれた玉座は居心地が悪いな。全てはお前から与えられたもの。この命さえ、全てはお前がもたらしたもの。のう、呂不韋よ。
俺を玉座に据えるために、お前は一体、何人手にかけてきた?
祖父・
なあ、何人殺したのだ、呂不韋。答えられるか?朕の前で。
不信は瞳の奥で
数ヶ月後、あの
「嫪毐めは、数年前に
「忌々しいやつらだ」
朕は二重の意味で呟いた。「どこまでも貪欲なやつよ、一度権力に触れれば皆こうなってしまうのか」
「恐れながら」とその廷臣が声を上げた。
「権力とは、野心持つ者にとって毒のようなものでございましょう。わたくしもその毒に侵されそうになる時がございます、が……わたくしは政王さまより権力に固執なさらない方を知りませぬ」
「そう見えるか」
「ええ」
「お前、名を何という」
「
「
「楚国は上蔡にございます」
朕は目を細めた。楚──その響きから、父、子楚を思った。
「確か……お前は呂不韋からの推挙でここに居るのだったな、李斯よ」
「は。おっしゃる通りでございます」
「おまえは、朕を裏切るまいな」
「もちろんにございます」
李斯の目は最後まで澄んでいた。朕はようやく、この男を信用することにした。澄んだ目の男……楚の上蔡の李斯を。
「お前だけに朕の計画を打ち明けよう。だれにも漏らすな。決して」
李斯は頭を垂れた。
「朕の成人の儀が来年執り行われる。慣例通り、朕は旧都へ赴くだろう。その間を突いて、
「……!?」
「間違いなく、企てる。朕がそう仕向けた」朕は畳み掛けた。
「権力という名の毒、とお前は言ったが、その通りよ。突つけば出る蜂のごとく、だ。奴らは咸陽を陥落させたのち、朕を
李斯は息を詰めてこれを聞いていた。
「お前は戦線に赴き、これを鎮圧せよ。案ずるな。歴戦の勇士を二人つけてやる」
朕は笑った。おかしくてたまらない。ああ、おかしい。こんなに楽しいのは初めてだ。
「お前はただ朕についてこればよい。毒を喰らわば、皿までだ」
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