第27話妹幼馴染⑨

 一歩。


 幼馴染はうなされるように眠っていた。

 俺が頭を撫でると、多少は改善されるがそれはあまり意味をなしていなかった。

 まさか、ここまで外に対して拒否反応を起こすとは、思ってもみないかった。

 正直に言えば、もう諦めてしまいそうになっている俺がいた。

 だが、続けるか辞めるかは俺が決めることではない。

 幼馴染の意志で決断しなければ意味がない。


 幼馴染が目を覚ましたのは、夕方に差し掛かろうとしていた頃だった。

 俺は、幼馴染が目を覚ますまでずっとそばにいて頭を撫でていた。

 「お、おにい?」

 幼馴染は目を覚ました。

 だ、大丈夫か?

 「う、うん」

 幼馴染は起き上がると、俺の胸に倒れ込んだ。

 「ごめんね。うまくできなくて。ごめん」

 いいんだよ。それよりお前のことのほうが大事だ。

 幼馴染は嬉しそうに笑った。

 「ありがと、おにい」

 すると、幼馴染は眠りについた。


 その日は、そのまま帰った。


 翌日、俺はいつも通り学校帰り幼馴染の家に行った。

 インターホンを押し、開けるのはおばさんで、でも今日は少し様子が違っていた。

 「あの娘、昨日から部屋から出てこないの」

 俺は目を見開き、急いで幼馴染の部屋のドアに手をかけた。

 が、ドアが開くことはなかった。

 俺は力任せにドアを叩こうとしたが、冷静になるために深呼吸してノックをした。

 大丈夫か?

 返事はなかった。

 昔に戻された気になる。

 きっと昨日のことを引きずってるのだろう。

 ごめんな、昨日はちょっと強引だったな。すまん。なんだ気にすることない。

 「気にするよ。気にしないわけ無いじゃん」

 久しぶりに幼馴染の怒鳴る声を聞いた。

 「おにい、もう帰って。今日は会いたくない」

 胸の奥が冷たくなるのがわかった。

 そっか、ごめん。じゃあね。

 頭がグチャグチャになった。

 何が悪かったのか、俺には何もわからない。

 ふらついた足取り階段を降りると、手招きしているおばさんがいた。


 おにいにあたってしまった。

 上手く行かなかったことに対しての、イライラや不甲斐なさを感じたからだ。

 「何やってるんだろ」

 私はベットの上で丸くなっていた。

 明日謝らないと。

 明日・・・・・来るよね。

 急に不安になった。

 今までこんなことは少なかった、全く無かったわけじゃないけど、今までは次の日来てくれてその時お互いに謝りそれで終わり。

 でも、今回はおにいは何も悪くないのに一方的に怒ってしまった。

 終わって気がついた。

 「私最低じゃん」

 そう思うと、涙が溢れてきた。

 いろんな不安が重なった。

 言い訳になってしまうが、将来の不安が昨日の出来事で全て肩にのしかかった。

 この先永遠に家から出れなくて、嫌気が差したおにいが私をおいていくのではないかと。

 「いやだよ」

 どんどん嫌なことが頭を埋め尽くしていった。

 こんな時は、リビングに行くことにしていた。

 これは、おにいが教えてくれたことだ。

 一度、別の景色を見ることでリフレシュするのだ。

 リビングに降りるとママが晩御飯の準備をしていた。

 もう、部屋から出ることに抵抗はなくなっていた。

 それも、おにいのおかげだ。

 一歩ずつ、私の歩幅に合わせて歩いてくれる。

 大事なおにい。

 「今日パパ遅いって。ご飯もうちょいだから待ってね」

 そう言われ、私はご飯を食べているテーブルの椅子に座ったが、喉が渇いて水を取りに冷蔵庫に行ことしたら。

 「あ、ママが取ってあげるね」

 「あ、ありがとう」

 ママはコップと水出し紅茶を出してくれた。

 「おにいと喧嘩したの?」

 ママは何でもお見通しだ。

 私は黙って頷く。

 「私が悪いの。おにいに八つ当たりしちゃって」

 「そっか、じゃあ明日謝らないとね」

 「うん」

 喉に冷たい紅茶がすぎるのがわかった。

 「おいに、来るかな?」

 また、涙が出てきた。

 「来るよ。だって、お兄ちゃんでしょ?泣いてる妹を、黙ってみてるわけ無いじゃん」

 「う、うん」

 「昨日の嫌だった?もうやりたくない?」

 少し考える。

 確かに外に目を向けるのは、苦しくて辛くて。

 正直やりたくない。

 それでも、逃げちゃいけないと思うし、今がチャンスだと思う。

 少しずつ過去に折り合いをつけるチャンスだと。

 「い、嫌じゃないけど。まだ苦しくなる。息ができなくなるの」

 「そっか。なら、頑張らないとね。おにいと同じ学校行くんでしょ?」

 ママは手を止めることなく話を聞く。

 ママは私を甘やかす時と突き放すときがある。

 その使い分けが上手いのは、親だからだろうか。 

 不安が少し取れた気がした。

 ママと話すと少し勇気がもらえる気がする。

 やっぱり、おにいが言うことは正しい。

 「おにいに会いたい」

 私が呟くと、突然キッチンから。

 ごめん。

 おにいの声がした。

 「お、おにい?」

 私の目の前におにいが現れた。

 「なんでいるの?帰ったじゃなかったの?」

 頭の中にはてなマークで埋め尽くされた。

 えっと、帰ろうとしてたらおばさんがここで聞いとけてさ。

 申し訳無さそうに視線を外すおにい。

 「おにい。ごめん。私おにいに八つ当たりしちゃった」

 いいんだよ。それより、やり方を少し間違えた。

 そう言うとおにいは自分のスマホで写真を見せてくれた。

 それは綺麗な桜の写真だった。

 「なにこれ?」

 これは桜、これは海の。

 おにいは次々に綺麗な写真を見せてくれた。

 いきなり生の外は恐いかもだけど。これなら。

 確かに、全然苦しくなかった。

 むしろ、綺麗だと思っている自分がいた。

 少しずつ、慣らしていこう。俺、少し焦っていたんだ。初めて自分から、前に行こうとしてくれて。

 歩幅を合わせてなかった。ごめん。

 おにいは、こういう人だ。

 自分は何も悪くないのに。人の悩みを、自分のことのように考えて、悩んでくれる。

 私はおにいに抱きついていた。

 「もっと、みたい。いい?」

 私はまた一歩。

 小さかもしれないけど、確かな一歩を踏み出した。

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