第24話妹幼馴染⑧

 ガマンできるから。


 始まりは些細なことだった。

 おにいは私がコミュ障だと知っていたので、それを改善しようと色々してくれたが、それはほとんど意味がなかった。

 まず、そこには必ずおにいがいて。おにいの友達と二人きりなんてなかった。

 でも、全く意味がなかったわけじゃない。

 それなりに耐性がついたぐらい。

 別に話せるようになったわけじゃない。


 そして、春になった。

 初めはおにいが教室に会いに来てくれたり。それなりに教室の雰囲気も慣れてきた頃。

 教室のとある女の子グープの中に入ることができた。

 たまたまグループ活動で一緒になって、仲良くなった。

 そこから教室内でも立ち位置を確保できた。  

 だが、私からなにか話を振ることなんてなくてただいるだけで、居心地は最悪だった。

 そんなある日。事件は動き出した。


 「俺さ。おまえのこと好きだけど」

 「え?」

 告白された。

 しかも、私のいたグループのリーダー的子が好きな子に。

 告白は断って、みんなにバレないのが私達のためだと言ったら、その子も納得して口外しないと約束してくれた。これで終わりだと思っていた。

 が、その告白はどこから漏れていた。

 次の日教室に行くと。

 私を連れ出しトイレに連れて行った。

 「告白されたんだって?」

 リーダー的子に聞かれてた。

 「さ、されたけど。断ったよ。私は別に好きじゃなかったし」

小学生の好きに意味などないと思うけど。私達の関係に溝を作るのには容易のことだった。

 「ほんとに?あんたが気がある素振りしたって言ってたけど」

 私はそんなことしていないし、そもそも私からなにかするということがないことぐらい皆知ってるはずなのに。

 その時私の味方なんていなかった。


 その日を境に異変がおき始めた。

 上靴が消えてたり、教科書がゴミ箱にあったり。

 それでも、グープの子がやった確証なんてなくて。むしろものが無くなると一緒に探してくれたり。薄々気づいてたけど、私は気づかないふりをする。だってそのほうが苦しく無かったから。

 そんな日常を過ごしてたある日。

 また、次の授業が体育館だと言われ行って誰もいなかったので教室に戻る途中。

 「あいつ引っかかね」

 グループの子の笑い声がした。

 「ほんと。あま、馬鹿だからしかたないよ」

 ああ、私のことだ。

 すぐにわかった。疑問が確証に変わった瞬間だった。

 声は出なかった。ただ聞くことしか。

 「あの白い髪もずっとキモいって思ってたんだよね」

 「それな、ババアかよ」

 「アハハハ。まじで、でもあいつ来てから退屈しないわ。馬鹿だし、金持ちだし」

 何度かお菓子やジュースなども奢ったことがあった。

 最近は毎日だ。

 ああ。

 何が駄目だったのかな。

 ただただ、涙が溢れてきた。胸がグチャグチャになって。

 「おにいに会いたい」

 私のココロにはおにいの顔が浮かんでいた。

 その日は、そのまま早退した。

 ママは迎えに来なかったが、保健室の先生が送ってくれた。

 保健室の先生は心配してくれたが、私はうまく言葉にできなかった。

 深夜になっていて、ママとパパが帰ってきた。

 私は、部屋のベットにいた。

 「大丈夫?」

 ママが心配して来てくれたが私はその時も何も言えなかった。

 ママはリビングに行ったのを感じて、私はベットの中で震えた。

 このままでいいのかな?

 おにいならどうするかな?

 そんなことが頭を埋め尽くした。

 それでもお腹が空くし、喉も乾く。

 生きているから。

 私はリビングに降りた。

 リビングのドアの小窓からママの顔を見ると、同仕様もなく甘えたくなって。

 すべてを吐き出したくなって。

 「マ、ママ」

 私が声を出そうとしたとき、ママの声と被った。

 「あの娘大丈夫かしら?」

 「早退したんだっけ?」

 パパとの会話だった。

 「そう。なにか悪い予感がするの」

 「キミがそう言うなら、そうかもね。でも今は仕事も一山くるからね」

 パパの言葉ですべてが私にのしかかる。

 「あなた本気で言ってる?」

 ママの怒ってる声がした。

 「あの娘も分かってると思うよ。僕たちの子供だからね」

 そっか。

 私は、ママとパパの子供だから。

 ガマンできるから。

 強くなれる。


 私はママとパパのことが大好きだ。

 だからママとパパの仕事の邪魔しちゃ駄目だからガマンする。


 いじめはエスカレートし始める。

 前までは間接的なものから脅しめいたものに変わった。

 なぜかは分からなかった。

 髪を引っ張られたり、上靴に落書きされたり。人目につかないところで悪口を言われたり。

 でも、ガマンしなくちゃいけない。ママとパパのために。

 泣いても苦しくても。

 ガマン・・・・しなきゃ。

 そんな私のココロよりどころは、おにいの存在だった。

 おにいと話していると、嫌なことも苦しいことも全部少し軽くなった。

 それに最近、おにいがよくゲームをしてくれるようになった。

 嬉しくて、嬉しくて。

 けど、余計に苦しくなる。


 だが、その生活はすぐに終わった。

 いじめが先生にバレたのだ。

 理由はわからない。

 少なくても私は言っていない。

 でも、終わった。

 放課後、私は会議室に呼ばれた。

 そこにママも来た。

 ママには私を抱擁すると頭を撫でて「ごめんね、ごめんね」と、泣きながら謝った。

 私はただただ何が起きたのか分からずに立ち尽くしていた。

 その日はそのまま帰ることになった。

 苦しみから解放されたはずなのに、不思議と気持ちは何も変わらなかった。

 ただただ、気持ち悪くて。

 その日は何も食べずに寝た。

 次の日私は学校を休んだ。

 ママは学校に状況報告を聞きに行った。

 その場には相手の親までいて、謝罪したらしい。

 それと私から巻き揚げたお金も返してもらったらしい。

 ドア越しに聞いた、それらでやっと終わったのかと思った。

 私は何がしたかったのか。

 結局ママにも迷惑かけて。馬鹿みたいだ。

 そう思うと、急に死にたくなってきた。

 目に入ったハサミを手のとり見つめる。そのまま首もとに刃を当てようとすると、手が震えだした。

 死にたいはずなのに、急に怖くなる。

 私はハサミを床に叩きつけてベットにはいった。

 床には教科書やゲームカセット、漫画が散らばっていた。

 元々掃除は苦手だ。

 「また、汚して」

 「え?」

 おにいが見えた。

 「片付ける、約束だろ」

 おにいが笑いかけてくれる。

 「おにい。おにい」

 居るはずのないおにいが。私は、幻覚だとわかっていても、おにいにすり寄っていた。

 「会いたいよ。おにい」


 髪はストレスで面白いぐらい抜けた。

 お腹もすかなくて、最近は何も食べてない。

 ここままでもいいと思っている私がいる。

 ママは教育委員会に苦情を入れていた。いじめ問題の改善を、それによくカウンセラーの先生が来たが、薄い言葉は私に届かない。

 ママも毎日声をかけてくれたが、何も感じなかった。

 だが、今日は違った。

 今日はおにいが来た。

 おにいは私の味方だと言ってくれた。

 おにいは私のおにいだ。

 私はおにいがいればいい。

 それだけで。

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