第19話

 例えば想像してみる。

 自分の母親が著名人で、そのせいで僕がいじめられることを。

 母親の問題がある発言をして、炎上したら僕はどうするだろう。

 本意は違うとわかっていても、学校でいじめられる僕。

 母親が僕ら子供を虐待しているわけではないが、その発言によって僕らが影響を受けるのだから、少しは僕らのことも考えてほしいと思うのは当然かもしれない。自分は好きで政治家をやっているが、子供は違う。ただでさえ自己について考えるような思春期の子供なら、なぜ自分は政治家の息子に生まれてしまったのか、苦悩するかもしれない。もしかしたら、母親を恨むかもしれないし、悪態をつくかもしれない。

 その時僕は、縁を切りたいほどに母親を嫌うだろうか。


「母親をそんなに嫌う理由ってなんだろう」

 仕事の合間に、僕は自分の席で口に出した。

「え」

 隣の席の大森さんが反応する。

「あ、ごめん、独り言」

「永田大臣の件ですか。考えちゃダメですよ。桜木さん自身が言ってたじゃないですか。仕事に感情を入れるなって」

「ああ、まあ、そうなんだけどね。僕の中にも下世話な好奇心があるんだなって」

「私だって興味はありますよ。でも、もしこれが大臣の息子じゃなくて、一般人の子だったらどう思うって。それほど興味をひかないんじゃないかなって。そう自分を納得させました」

「おお、冷静だ」

「息子くんも、もしかしたらポーズだけかもしれませんけどね。親に対して素直になれないお年頃だし。あと、母親を庇ったら余計にイジメられるかも、とか」

「ああ、ちょうど反抗期かな」

「私はどっちかというと、母親としての気持ちを考えてしまいますね。女性だからかもしれないけど、自分のお腹痛めて産んだ息子にそんなこと言われちゃう、母親の気持ちはどんなだろうって」

「母親の気持ちかぁ」

 母親の気持ちなど考えたことがなかった。

 僕にも、それなりに反抗期のようなものはあった。母親をウザいとか、うるさいとか思ったことはあるけれど、忘れたいほど嫌いに思ったことはない。ある程度の年齢になると、うるさい母親に対しても大人の対応ができるようになって、今のところ親との関係に問題はない。

 母親が反抗期の僕をどう思っていたのかなんて、考えたことがなかった。家族だからという甘えがあったのだろうか。

 今まで特に親孝行もしたこともないし、僕はどんな息子なのだろう。

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